◇人工魔結晶 1



「そっち行ったぞスノウ!」


「ヒエぇ、何なのコイツら!」


「凄い臭いだな......」


 村に到着するや、わたし達はモンスター......なのか不明だが明らかに人間ではない存在に襲われていた。明らかに人間ではない......というのはわたしの願望か。

 形は人間と同じ、サイズは様々だが人間の身長の範疇。違う部分があるとすれば......その見た目だ。見た目と言っても人間にない部分がプラスされているワケでもない。ただ、腐っている。肉が腐り腐敗臭を放ちながらも動いている。


「反撃はするなよ、触れただけでアウトってパターンもあるのがアンデッド、、、、、だ」


 簡単にそう言い放つトウヤだが、このアンデッド......ゾンビは想像より速いうえ、腐敗液と蛆虫を散らしながら行動する。ギリギリの回避ではなく余裕をもった回避でなければアウトで、余裕をもつには数が多すぎる。


「さっきの門番は誰も入れないためってより、コイツらを外に出さないためか。フルプレートアーマーだったのもこの腐敗液対策......このゾンビは何なんだよ!? 元々ここにいたのか!?」


「......ゾンビの服装はイフリー大陸の衣服だ。今じゃどの大陸の人間も好きなファッションをするが、この村は見ての通り裕福ではないからな」


「ヒエ......それじゃあつまり、このゾンビは......この村の人達って事?」


 悪趣味もここまでいけばリリスクラスだな。


「おそらくあの建物にデザリア軍がいる。外に出ない理由は......いいや、出られないんだろうな」


 最早ここを村とは呼べない。建物もボロボロで人が住める場所ですらないが、鉄製の建物がひとつ建てられていてそこに軍人が逃げ込んでいると......この読みは正解だろうな。


「エミリオさん、気分が悪くなるとかない?」


 シルキ大陸で対峙した時にわたしが「エミリオさん、な」と言った事を未だに守るスノウはわたしの身を案じはじめた。ゾンビの攻撃......と呼ぶには粗末なタックルを回避しつつ、わたしへ視線を送る。


「別に何もないぜ、強いて言うなら......コイツらがくっせーから近付かないでほしいってトコだ」


「安心していい、幸いにも俺達は人間じゃない」


 ゾンビを器用に回避するトウヤも突然人間否定発言をした。と言ってもわたしは魔女でスノウはアヤカシ、外の白蛇は妖怪でトウヤは......シルキじゃ幻魔って呼ばれていたな。この中に純粋な人間はいないが、


「それがあんだよ?」


 掠りも反撃も禁止という状況で溜まるフラストレーションに声質が荒くなる。

 この村の住人だったとしても、既にコイツらはゾンビ、助からない。反撃してもいいんじゃねーのか?


「......あのマテリア、結界マテリアじゃない」


「あ? ......アレか」


 村の中心に建つ謎のオブジェに埋め込まれているマテリア。本来ならばモンスター除けの結界マテリアが装着されているであろう村の中心で嫌に輝くのは......何マテリアだ?

 わたしはゾンビの攻撃を回避しながらオブジェに近付き、フォンで確認する。


「......腐敗マテリアぁ!?」


「形状を見ろエミー!」


 足下に転がっていた木片を拾い、背後に迫っていたゾンビへ一撃を入れマテリアの形状を確認する。研磨されたようにツルツルで整った球体───人工魔結晶だ。


「エミリオさん棒捨てて!」


「───っ......腐ってんじゃねーか!」


 ゾンビを殴った木片は酸液を浴びたように溶け腐り、殴られたゾンビは頭蓋が砕けているにもかかわらず立ち上がる。そんなに強く殴っていない、そもそも頭蓋を砕くほどの力をわたしは持ち合わせていないのに......脳味噌を溢しながら平然と立ち上がった。

 ただならぬ状況、恐怖心さえ揺れる状況で悲鳴が轟く。


「なんだ!?」


「村の外からだ!」


「......まずいな」


 尋常ではない悲鳴に釣られるようにゾンビ共が村の出口へと向かう。その速度は並の人間と同じかそれ以上で、一斉に走り出した。


「全然わからないけど、コイツらを外に出すのは危険だって事はわかる」


 スノウはヒュー、と息を細く吐き出し「飛んで!」と叫ぶ。わたしとトウヤは声に言われるがまま地面を蹴った───すると一瞬で地面が凍結、ゾンビ共の足も同じく凍結するも、足を千切って這いずりながら外へと向かう有様。


ぃ〜〜〜足ぶっ千切って向かうのかよ」


「......いつまで見てるつもりだデザリア兵! 出てこないならアイツ等を処分するぞ!」


 珍しく、いや初めてトウヤが大声を出した。付き合いこそまだ浅いものの普段の性格から考えてもトウヤが叫ぶ姿は予想出来なかった。

 それでもデザリア兵は姿を現さない。


「仕方ない───」

「まてまて、わたしがやる」


 影が揺らいだ瞬間、わたしはトウヤの影を踏み、横槍を入れるようにトウヤの前へ移動した。


「......エミー、わかってるのか? あのゾンビは元々この村にいた人間だ」


「わかってねーのはお前だ。盲目だからアイツ等の腐敗液が見えねーのか?」


 トウヤの能力で影へと引き摺り混むのは確かに早い。が、自分の影に入れるイコール自分が抱きかかえる、という認識でいいハズだ。色々とルールがあるのもわかってるが、腐った死体を大量にかかえた時、間違いなくトウヤにその代償が降り掛かる。

 どうせ処分するなら、


「アイツ等もこれ以上迷惑かからないように逝きたいだろ......スノウ! 氷もう一回頼む!」


「わかった!」


 這いずり状態のゾンビ共は今度こそ凍結により動きが止まる。地面と接触部が広い分、凍結する部分も広くなる。こんな当たり前さえ考えられない......いや、知識も知能も、もうないのか。


 上級程度の魔力を込め、地面を熱くする。痛みを感じたい程度まで温度を上げた瞬間、炎を一気に広げる。

 魔術とはとても呼べないモノだがゾンビを火葬するには充分であり、痛覚が残っているのか不明だが......これなら熱さを感じる前に終わる。


「地面を熱してから炎を出す。これで炎の温度は下がる事なく、か......優しいなエミー」


「ゾンビだったからよく燃えただけだろ」


「ヒェ......思ってたより外の世界は酷いんだね」


 焦げの臭いが腐敗臭を上書きする。

 この村で何があったのかは知らないが、何とも言えない気持ちが焼き付くように残った。


「クソ暑い中で炎は勘弁しろよ」


 白蛇も合流し、わたし達は───鉄製の建物を睨んだ。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る