◇エミリオの勘
ユニオンから出たわたしはすぐに2人───ワタポ、
わたし達の気配を察知したプンプンは足を止め、様々な感情が混ざる表情で振り向き、
「ごめん、ボクこう見えて結構短気なんだ」
今更すぎてツッコミをぶちこむ気にもならない事実をクチにした。実はこの4人の中で一番短気なのはプンプンだ。わたしもそれなりに短気だが、プンプンの場合は短気であり直情型......子供のように素直、と言った方が近い。
「あの状況じゃ、指揮権はノールリクスさんが握るだろうし、ワタシはこれでよかったと思うよ?」
「同感ね。戦場でどっかの魔女が爆発でもすればレイドなんて一瞬で崩壊よ」
「わたしレイドクラッシュなんてした事なくね!?」
心当たりがまるでない言いがかりに過剰な反応をしつつ、プンプンの様子を気にする。
このギルド【フェアリーパンプキン】の3名は優しすぎる面がある。きっとプンプンは「自分ひとりの判断がみんなを巻き込んだ」なんてくだらない事を考えているだろう。
「しっかし、ストレンジャーってのはそんなヤベーのか?」
帽子の上から頭をかきながら話題を提供しつつ、行き先もなく歩く。
この発見はレイドに未練がある、と捉えられる場合もあるだろうけど、このメンバーなら大丈夫だ。今更ちっさい気遣いはない。
「ワタシ達を除け者にしてる雰囲気はなかったよね?」
「そうね。必要なければあの場で私達に “仕切らせてもらう” なんて言わないもの」
「......! たしかにそうだ......もしかしてボク、レイドの勝率を下げちゃった......なんて事はさすがにないか」
「んや───」
宛もなく歩くのは疲れるので、適当なベンチに腰掛けつつわたしはプンプンの言葉へ、わたし個人が思う意見を言う。
「お前らはもっと、自分達が強いって事を自覚した方がいいぜ? ハッキリ言ってお前らが参加しない時点で勝率は少なからず下がる。たとえトリプルが全員参加していたとしても5人だろ? ギルメン達にダブルがいるだろうけど、全員がダブルじゃねーだろ。そしてお前らはダブルだ。んなもん、シングルとダブルなら迷う事なくダブルの方が勝率上げるだろ」
「でも、でもボク達3人よりシングル6人とかなら───」
「レイドは前提条件に数だろ? その数の質がどうって話だ。ズッパシ言うと、お前ら3人が参加しない時点でわたし達の世代は誰が参加しても勝率をお前らがいるラインまで持っていくのは不可能だろ。だってキミら、同世代でトップなんだし」
プンプンの言いたい事もわかる。わかるけど、レイド40人だとしてその中にダブルが10か5かだと全く違う。
わたし個人の意見でしかないが|トリプル(SSS-S3)、|ダブル(SS-S2)、|シングル(S-S1)の間には相当高く分厚い壁がある。
実力は勿論だが、戦況の判断力と対応力、視野の広さや手札の切り方、そういうのが濃く関係してくると思っている。
ダブルとシングルの数の差が酷いのはそこだろう。いくらシングルまで頑張ったとしてもダブルになるには今まで持ってなかった何かが必要になる。薄々思っていた事だが、多分わたしは|今のランク(S-S1)が最大だろうな......ここから先はわたしには無理な領域だ。
プンプンは直情型だが、視野は広いし脊髄反射だとしても動ける。この|動ける(、、、)ってのが直情と直列していて、考え迷うより先に動くタイプだ。それで結構救われたりしてるヤツもいるだろうし、机上でアレコレ言って考えるより戦場で瞬発的に、の方が回るタイプだ。
この3人は同世代なら誰もが認める───否定できない───実力を持ってる。
「じゃあやっぱり今からでも参加した方が」
「それはまた違うわよプンちゃん。
「レイドは襲撃って意味合いを含む言葉で、大型モンスターに対してこちら側が実力的にも現実的な数を揃えて挑む。そうしなければ討伐が難しいって事はわかると思うけど、落ち着いて考えてみて。例えば、ひぃちゃが仕切って他全員がプンちゃならレイド戦を綺麗に運べる。でもエミちゃが仕切ってメンバーが全員エミちゃだったら?」
ここでわたしの名前を出すかワタポ! お前、ワタポ!
「......レイドっていうより、集団で居るだけ、って感じるかな?」
「でしょう? 対象に対応している作戦、メンバーに適した役割、イレギュラーが起こった場合の判断力、何より人を束ね動かせるか。指揮者は言っちゃえば人望や信頼......カリスマ性が必要で、何かに執着していたり迷いが多い様子ならレイド全体をダメにしちゃう」
「プンちゃんはノールリクスの使い捨てるって言葉に納得がいかなかったみたいだけれど、その言葉の意味がどんなものなのか、私達は知らないじゃない? 言葉の言い回しにも悪い点はあったと思うけれど、意味を理解せず飛び出しちゃったプンちゃんも悪いのよ」
おぉ、
「まぁ気に入らないのに我慢しているコトねーよな。モヤモヤした状態でいてもいい事なんてないだろうし、今回自分から退いたってのはよかったとわたしは思うぜ?」
「......うん、でも......人を集めて、束ねて、導くのはボクが思っている以上に難しい事だらけなんだ。だから......ボクが気に入らないってだけで放棄するのはやっぱり間違ってるよね」
「そりゃお前......まぁ......うーん......」
コレ系の話......人たの導くだの、そういうのは本当に全然わからない。自分がそういう立場に向いてない事くらい誰よりも知ってるし、なりたいとも思わないから考えた事もないが......大変なんて言葉じゃ足りないだろうな。
大規模ギルドのギルマス達も、騎士の隊長格も騎士学校の教員も席次持ちもそうだろう。規模を広げればセッカみたいな王族も、様々な葛藤があるだろう。
そう考えると、気に入らないっていう理由だけで放棄破棄するのは確かにちょっと格好悪い。
でも、どう我慢しても受け入れられない事はある。
人の上に立つ存在......人を集め束ね導く存在は、わたし達みたいな普通のヤツから見れば難しいという言葉程度でしか測れない。
「......、......! だからか」
「? エミちゃ何か言った?」
「ワタポ、ちょい嫌な事聞いていいか? いや聞くぜ。悪いけど答えてくれ」
「え? なに......もう嫌なんだけど......」
「ワタポが蝶ギルドでやろうとしてた事......ドメイライトの崩壊。あれは崩壊させた後、当時はどうするつもりだったんだ?」
ワタポは表ではドメイライト騎士団の【ヒロ】として活動し、裏ではギルド【ペレイデス モルフォ】のマスター【マカオン】として暗躍していた。ドメイライトを潰すという目的のために。
この目的がもし、もし達成できていたら......どうしていたんだろうか?
「......ドメイライトを崩壊させるには絶対的な力が必要。崩壊させる事が出来たって事はそれなりの力があるって事だし、ワタシはきっとその力を使って人を従わせていたと思う。心を持つ存在の事を人という......心を動かすには言葉と実績が必要。でも崩壊させた場合、圧倒的な実績しかない。なら───その実績と力を使って心を縛り付ける、かな。支配する。それが行き過ぎた力を求め得て崩壊を招いた人の責任でもある。やっちゃいけない事だけどね」
やっぱそうなるよな、それしかないよな。
でも
「どうしたのエミちゃ?」
「まさかエミちゃん、世界を支配してやろうって考えてるの?」
「馬鹿もそこまで行けば凄いわよ」
支配の先......まてまて、順番にゆっくり考えよう。
崩壊、つまり破壊を招いて、
支配、つまり束ねて縛り付ける。
ここまでは同じだろう。
そして多分【レッドキャップ】はさらに支配を広げて自分の世界にする。といった所か?
これが
「再構築......再生や創成......アイツ、なに考えてんだよ......」
腐れピエロ【クラウン】の目的......フローの目的は今の世界を壊して作る事?
そんな事が可能かは知らないが、それ以外に考えられない。
だってアイツはわたしと同じ魔女だから。
自分がよければそれでいい。
自分が望んでいるなら手を伸ばす。
他人なんてのは気にする価値もない存在。
自分こそ中心で自分以外を認める必要はない。
それが魔女だ。
わたしはこの考えが、嫌いだ。
でも、これが、魔女なんだ。
まだこんなのわたしの想像の話でしかない。
でもこれ以外に考えられない......、、理由......そんな事を企む理由はなんだ?
「ワタポは復讐でドメイライトを狙ってたんだよね?」
「え、プンちゃもこの話掘るの?」
「ごめんごめん、でも......ボクがリリスを追ってる理由もさ、いくら綺麗に
「そうね。それでも、リリスはやり過ぎの域をとうに超えているわ。プンちゃんがリリスをもう追わないとしても、この世界がリリスを放置しない。それだけの事を彼女は過去にも、今もやっているのよ。やり直しなんて今更出来ないわよ」
復讐......違うだろうな。
戻らないなら壊す? ありそう。
世界が許さない? なんだそれ。
過去も今も......やり直し......やり直し?
今更無理な......話だ......よな............、
違う、何だ、何か掴めそうだ......レッドキャップの方はきっと復讐に近いものがある。パドロックは人間という種族であるだけでナメられるのを嫌うタイプだからこそ、人間として他種族を、世界を支配してやろうと企んでいる。
フローは......四大魔女という地位さえ簡単に投げ捨てて、何をやるつもりだ? 長年コソコソと動いては顔を出して引っ込めて、何がしたいんだ?
遊びたいだけならそれこそ魔女の頂点をとって他の種族に火種を投げれば駒も揃った状態で遊べる。でもそれをしない理由......
アイレインで派手にヤッてくれた後、わたしはフローと会ってる。
あの時の会話で、その瞬間は別に何も思わなかったが......今思い出すと何か引っかかる事があるのは......
メリクリウスとエンジェリアの話題。
あの時のフローは雰囲気が違った......。
「エミちゃ? エミちゃってば!」
「んあ? お? おっ? ......どした?」
「ずっとぼーっとしてたからさ、どしたの?」
「あー、乙女の悩みだ。まだ気にするなワタポ」
「......?」
ダメだ、わーがんね。
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