◇パティシエ サンデー再臨
空いている席へ案内され偉そうに座ったわたしよりも早く、本日限りのメニューとやらに手を伸ばした───早すぎて動きが見えなかった───のはまさかまさかの半妖精。
「プンちゃん私コレにするわこれ以外論外よ」
声の速度も音量も中々に珍しく、冷静というか冷血というか落ち着いているというか、の半妖精をここまで熱くさせるメニューとは一体何なのか、わたし達は同時にその限定メニューを覗く。
「あ? コレ知ってんぞ」
「コレってたしかウンディーポートで限定販売されてた、ベーテルピーチのタルトだね」
「なっつかしーなー! あの時は移動屋台だったから小さいタルトで3000vだったけど今回は......高っか!」
どれどれ......世界一のパティシエ【サンデー】さんが高級果実ベーテルピーチをジュエリーのように並べ、ラグジュアリーに仕上げたピーチタルト! 1日10ホール限定、ワンホール2万4000v!
「高っけ! すげぇな! わたしもコレにしよ。人の金だし───」
人の金で容赦はしない、という最高のスキルが発動しかけた時、わたし達の会話が聞こえたのであろうシェフハットを被った人物が、
「いらっサンデー! あら? あららら!?」
テンション高めに現れた。
オレンジ色の髪が両サイドでドリルみたいにグルグルしている女性。どっかで見た気がしなくもなくもない。
「ベーテルピーチのタルトをください」
「ありがとー! ラスイチだったからラッキーだね───ひぃたろちゃん」
「? どうして私の名前を?」
「そりゃ知ってるよー! えっと、ひぃたろちゃん、プンプンちゃん、ワタポちゃん、エミリオちゃん。昔ウンディーポートで買ってくれた子達が今じゃ名のある冒険者! 今日はフェンリルのクゥちゃんはいないの? 会ってみたかったなぁ」
なんだコイツ? いや待て、昔買ってくれたって......、、、
「あー! お前あの時のオレンジドリル! お前がサンデーか!」
「おぉ! こんなに近くで指さされたの初めてだ! 噂通りの性格だねエミリオちゃん! 遅くなったけど、私がサンデーだよ。初めましてじゃないから......久しぶり!」
◆
冒険者ランク風に言うとSSS-S3クラスの凄腕パティシエ【サンデー】と───再会というには薄い関係だが───遭遇し、
注文していたものが届くと同時に、サンデーの本日の仕事が終わったらしく一緒にブレイクタイムへ。
店の人が特別席へ案内してくれたて【フェアリーパンプキン】と【サンデー】のサインを色紙にねだったのは驚いた。わたしには全く言わなかったが、無理矢理サインを捩じ込んでやったので店の人もさぞ気分がいいだろう。
「ゆっくりしてる所に混ざってごめんね!」
「気にしなくていいわよ。私はこのピーチタルトが食べられるなら
キラキラした瞳でピーチタルトを上品に切り分け、頬張る半妖精。普段の大人びた雰囲気はカケラもなく頬を膨らませうっとりする姿は中々にレアだ。
「それにしても懐かしいね。ウンディーポートでタルトを買ってくれた頃はたしか、フェアリーパンプキンって名前はそれなりに広まってたけど名前以外は一切不明だったんだよね!」
1年半前が既に恐ろしく懐かしいと思える自分に驚きつつ、思い出に浸っているとサンデーが周囲を気にする仕草を見せた。不審には思わなかったが、どうしたんだ? と思っているとテーブル中央まで顔を近づけ、サンデーは小声で言った。
「私は世界中を回ってるんだけど、キミ達だから教えるね。今イフリー大陸が凄い事になってるんだけど知ってる?」
予想もしていなかった話題にわたし達の耳は簡単に掴まれる。
オレンジ色の髪からほのかな甘い香りを漂わせ、サンデーは口角をキュッと絞り上げて話を続けた。
「今イフリー大陸を支配している人物が結構な曲者らしくて、私もイフリーポートで足止め食らっちゃってウンディーに来たんだ。なんでも近々、三大陸を支配するって甘ったるい考えを唱えている......だけかと思いきや、どうやら支配者の実力がビターらしいくてね。デザリア軍をたった一夜、それもひとりで服従させたみたいだよ」
「デザリアをひとりで!?」
「それも一夜でって......」
わたしに続きワタポが驚きの声をあげる。
地界は四大陸あり、ノムーにはドメイライト騎士団、ウンディーには冒険者、イフリーにはデザリア軍、シルキは......妖怪達がいる。各大陸にはそういった勢力が存在していて、支配だ何だというのは勝手だが、野望にさえならない妄想でしかない。それだけ各大陸の実力は均衡している。
そんな中で、一夜でそれもひとりでデザリア軍を服従させたなんて......信用できるワケない。
「冒険者でも騎士でもない貴女がそんな話題に首を突っ込むのはどうかと思うけど......興味があるとしても踏み込みすぎてる気がするわよ?」
「ボクもひぃちゃんと同じ事を思ってたよ。相手はデザリア軍......小さな情報でも漏洩した場合はその隊を牢獄に入れるくらいはする国だよ? 世界中を回ってるサンデーさんがこんな内容知ってるとなれば......危険すぎるよ」
心配しているからこそ、注意のような発言をする半妖精と魅狐。その注意、忠告にサンデーは申し訳なさそうな表情を浮かべ「確かにそうだね、心配かけてごめんね」と言ったが、わたしは見逃さなかった。一瞬、本当に一瞬だがサンデーの顔から温度が消えた。
ワタポもプンプンも
「キミ達の言う事は最もだ! これからは気をつけるよ。さてさてとっ、私はそろそろ行くね。また見かけたら買ってくださいな!」
わたしが表情を見抜いたからか、本当に用事があるのか不明だが、サンデーは立ち去った。
「世界中を回ってるパティシエ、か。大変そうだな」
「だねぇ。でもそうやって歩き回って現地でリアルな感想を聞けたり、その地域の材料に触れれるのはいい事かも?」
「そうかー?」
「うーん......多分?」
ワタポとわたしはお互いたいした興味のない話題で何となく会話をしていると、店の外から賑やかな声が響く。サンデーのおかげでVIP席を制圧しているため、他の客の声はこの席───部屋には届かない。開かれた窓から道を歩いているであろう誰かの声が、
「ここはどこじゃ!?」
「えっと、えーっと、」
「広いし人も多いし、凄いね......外って......」
「落ち着くためにそこの店入らない? 氷食べたくない? 私は食べたい!」
「この大陸に芸術の街っていうのがあるみたいで、私そこへ行きたいかも」
「オイラはその街の隣にある、美食の街に行ってみたいな」
「なんでもいいけどユニオンはどこにあるんだ? おい目玉、地図ちゃんと見てるのか?」
知った風な声......というより、こんな会話をするのは今の時代、しょぼい村から出た事ない田舎者か、全然外に気が向いてなかったヤツだろう。田舎者にしてもユニオンなら知ってるハズだし、〜じゃ、氷食う、目玉......これはもしかして、
「プンプン、窓から顔だして
「え? 狸? ───あ、え!?」
「む? 狐が
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