◇またの機会に



 昼食を中断しユニオンまで足を運んだわたし達は道中冒険者の多さに驚いたが、どっかの誰かと誰かが昨晩集会場で喧嘩をこいた、と言うのを聞き、冒険者の多さに納得した。

 普段ならばユニオンではなく集会場でクエストをアレコレするのだが、今集会場は立入禁止。無人のクエストカウンターは無傷らしいが建物がダメージを受け安全とは言い切れない事と、芸術の街アルミナルの職人達が集中して作業に取り掛かれるよう立入禁止になっている。


「エミちゃ、さっきのエビ美味しかった?」


「ん? あー......味が薄すぎて不味かった」


 集会場の事を考えつつ歩みを進めているとワタポが暇なのかエビの感想を聞いてきた。マスカット色でホロホロ肉厚な身に期待していたが、味は風味程度で無味に近く、エビ特有の低反発な肉質は味が薄い事でゴムを連想させる不機嫌な仕上がりだった。


「味が薄かったの? おっかしーなー......たしかあのエビは濃い味が売りなのダケども」


「ほーん、料理人しし屋が言うならそうなんだろうな。たまたまあの個体が薄味だったのか? てか......さっきからなに混ぜてんの?」


 店を出てからしし屋は2本の小瓶を空の中瓶へ注ぎ、慌ただしくシェイクしている。いつもの調合にしては雑というか......調合とはとても呼べない手法を今の今まで繰り返していた。


「もうすぐ完成だよお! エミー飲んでみる?」


 隣で、次の瓶はこれ、と一緒になって調合をしていただっぷーが完成を謳う。


しし屋キノコだっぷーおっぱいがタッグとかどーせヤベーモンだろ?」


 とは言ったものの、この2人は消耗品類の販売だけで食っていけるだけ稼いでる成功者だ。下手な薬品類は失敗の結果で産まれるとしてもそれを飲ませるような真似は絶対にしない性格。つまり今作ってる薬品それは......何かしらの効果があるポーションで間違いない。色は......黒寄りの灰色でマズソウだが。


「これはハイドポーションだよお!」


「効果はなんと! 5秒ダケ!」


 錬金職のだっぷーとしし屋はリレーするように、とんでもない事を軽く言ってきた。


「!? まぢに?」


「「 うん! 」」


「くれよ」


「ほいきた、まだ試作だからノコノコ持ってけー!」


「感想教えてねえー!」


 試作、と言っても2人が渡してくれたという事は害はない証拠。5秒というのも本当だろう。

 5秒のハイディング......たった5秒だが、効果が濃い5秒なら相当なアイテムになる。ワタポの先読み能力が1.5秒ほど先を見る能力......細かいルールはあるが、戦闘で1秒先の動きが見える能力は相当な脅威。このハイドポーションが5秒間、強制ハイド状態にする効果ならば恐ろしいぞ。


 貰った小瓶を持ったまま進み、目的地のユニオンへ到着。予想通り───予想以上に───人が多い。これだけ人がいるならハイドポーションの効果を調べるにはもってこいだ。早速グイッと......


「......アイツは」


 栓に指をかけた所でわたしの視界に【ジルディア】のマスター【ノールリクス】の姿が。こっちには気付いていない。

 ユニオンには大勢の冒険者。

 今わたしはひとりではなく複数人で歩いている。

 ハイドポーションがある。

 ノールリクスは会話に意識が向いている。

 もう一度言うが、今ユニオンには大勢の冒険者がいる。


 これは......最高のチャンスだ。


「......エミちゃ?」


 わたしはまず、隠蔽魔術を詠唱、発動させる。風魔術で移動速度を上げ、雷魔術───サンダーブーツ───の詠唱を済ま、移動しつつハイドポーションを飲む。

 隠蔽魔術のハイドは風魔術の移動により薄れ剥がれるもハイドポーションのハイディングはまだ残っているらしい。ノールリクスへ挨拶、、すべく詠唱済みの雷魔術を発動させた瞬間にハイドポーションの効果がブレはじめ今にも消えそうになる。が、もう充分だ。


「どうだい? 報酬に惹かれないならこちらで何からしら用意......? ───ッ!?」


 急停止で逆巻く風、発動と同時に荒々しい気配と魔力がハイディングを消し飛ばすも、わたしのサンダーブーツは既にノールリクスを蹴り飛ばしている。


「───よう、挨拶、、しに来たぜ」


 帽子が飛ばぬよう手でおさえ奇襲成功の喜びを隠さず晒し、挨拶をした。


「なんだいなんだい!? 突然現れてノルに雷蹴りを入れるなんて......凄いじゃないかキミ!」


「アッハッハッハ! アンタやっぱ最高だねエミリオ! 奇襲って行為に後ろめたさもない思い切りの良さ! 最高だよアンタ!」


「......周囲と対象の状況、自分の位置と手札を瞬時に理解したからこそ成功した奇襲だ。これを卑怯と言うヤツはいない、お前の発想とセンスの勝ちだ、やったな!」


 確か最初に喋ったヤツは......【ケセラセ】だったか? 次が【ゼリー】でその次は......誰だっけこの男。まぁ誰でもいい。


「......びっくりしたなぁ、まさか蹴られるなんて」


「あ? 効いてねーのかよクソ!」


 サンダーブーツは元々、無理矢理移動速度を上げる魔術。攻撃性は低い。それでも風と雷で速度を盛ったんだぞ!? 効いてないって......まぢに化物かよ。


「残念。咄嗟にガードしたし、キミは体術苦手だろう? それにその......魔術かい? それも攻撃系じゃないみたいだし、ダメージはほぼないよ」


 ゼリーが笑う中、置き去りにしたメンバーが駆け付け、ワタポがわたしを叱り付ける。

 ダメージが無かったとはいえ、挨拶を返せたので大満足だ。





 ユニオンに到着し、ノールリクスへ挨拶を返せた所で一旦落ち着く。

 わたし達がユニオンに来た目的とトリプルSSS-S3が集まっていた理由が同じである事が判明し、その話へ。


「今回のストレンジャー討伐は僕が仕切らせてもらってもいいかな?」


 グラスに鮮やかな青色の液体を注ぎ、そこへ黄色の液体を注ぎながらノールリクスが発言する。グラスの中では青が緑へと変色し、何かしらの果実を絞り入れ、ひとくち飲む。

 わたしを含めた全員に同じドリンクが配膳され、見様見真似でわたしもひとくち飲むが......ほとんど味がしない。香りをかろうじて感じる程度で、多分これは酒だ。


「仕切りをするのは構わないけれど、私達......問題児世代バッドアップルだったかしら? 私達も納得出来る役を貰えるのかしら? この魔女バカのせいもあるけれど、私達と貴方達の関係はハッキリ言って悪い状態からスタートしている。信頼度なんて皆無なのは理解しているわよね?」


 いつになく攻撃的なひぃたろハロルドだが、言いたい事はわかる。それに今ここにいるメンバー以外にも参加してくれそうなフレンドはいる。そこも含めてどういう答えを出すかで共闘するか対立するか決まる。

 緊急クエストであり最高難度であり、ストレンジャーとかいう未知を相手にする状態で冒険者同士がいがみ合うのは、と思う人達もいるだろうけど、そもそもわたし達とコイツ等は仲間ではないし、友達でもない。


「使い捨てにするのではないか、という事かい?」


「使われない、が正しいわね。数の話で言えば貴方達のギルドだけで充分足りているじゃない? それなのに、なぜ私達がいるこの場で “仕切らせてもらってもいいかな” なんて言ったのかしら?」


 妙な雰囲気を醸す2人。

 今の会話の中にどのような駆け引きが含まれているのか、わたしレベルでは予想さえ難しい。しかしノールリクスとひぃたろハロルドの表情から考えて、お互い何かを掴んだ、という印象は感じる。


「うん、今のでわかった。どうやらキミ達の世代にも頭の切れる人材はいるようだね」


 やれやれ、とお手上げモーションを披露したノールリクスは椅子から立ち上がり、なんと頭を軽くだが下げた。


「すまなかった。試すといえばまだ聞こえはいいが、意見など言わない場合はいいように使い捨てるつもりだった」


 トリプルがわたし達に頭を下げる時点で中々爽快だが、それを見抜いていたひぃたろハロルドがわたしの友達というのがもう、なんか、勝った感がする。


「別にいいわ───」

「よくないよ」


 半妖精があしらって終わり、という場面で意外や意外、魅狐プンプンがクチを挟んだ。


「ボク達を試した? 意見が無いならいいように使い捨てる? 使う? 何様のつもりだ」


 おぉ......おぉ、言うねプンプン。


「何様って言われてもね......残念だけど、僕はキミ達より先輩だ。多少偉そうにしてもいいんじゃないかい?」


「偉そうにするしないは好きにすればいいさ。ボクもそんな事を言ってるんじゃない。仕切りを担う者が使うなんて、使い捨てるなんて言葉をクチしている時点でおかしい」


「おかしい、というと?」


「ボク達はアイテムじゃないんだ。使うとか使い捨てるとか、指揮を取る立場の人がそういうふうに思う時点で、少なくともボクとは合わない。突然混ざったのはボク達の方かもしれないけど、ボクは降りさせてもらう」


「そうか、残念だけど仕方ないね」


 銀色の九尾は少し申し訳なさげに、少し怒り、太い尾を揺らし去る。


「悪いわね。悪いついでに、私も降りさせてもらうわ」


「ごめん、ワタシも」


 続けてひぃたろハロルドとワタポも。


「───ふぅ、わたしも降りるぜ。別に誰が仕切ろうとどーでもいいんだけど、プンプンをからかうチャンスの方がわたしにとっては美味しい」


「さっきの2人はギルメンだろうしメンバーのケアも仕事のうちなのはわかる。でもキミは違うというのに、どうして?」


「あ? んなもん友達だからだろ? あとは......ネタにするなら鮮度がいいうちに、だろ? んじゃ、またな先輩」


 キューレ達の方を見て「悪いな」と視線で伝え、わたしもユニオンから退散した。


 友達だからケアをする、イジリにいく、という意図を晒したが、ケアは2人の仕事であり、イジるにしてもそこまで面白くない。

 プンプンがなぜあんなにも怒ったのか、少し悲しそうだったのか、それが気になったからプンプンの方へ行くというのが正しい。


 ストレンジャーってのは結構気になるが、今回はしょーがない。

 トリプル達の戦闘を見るのも、次の機会まで楽しみにとっておこう。



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