◇自由が活気付く



 ウンディー平原───サルーリの森───からケルピー湖へ進み始めて約1時間。まだ目的地には到着する気配もない中で、ひぃたろハロルドとプンプンのフォンが同時に鳴った。


「......あら」

「───あえ!?」


 バカっぽい声をあげたプンプンはそのまま「くそー! 遅かったかー!」と声をあげた。

 今の通知は緊急クエスト受注者に届く、緊急クエスト終了の通知らしい。つまり誰かがクエストをクリアしたという事になる。


「残念だったなプー。つーか、わたしもダラダラしてらんねーな」


 クエストは早いもの勝ち。特にこの手の緊急は誰も彼も手が出せない難易度だからこそ、クリアして手っ取り早く名を上げようとするヤツも多い。怪我しても死んでも自己責任だし、クエスト発行している側からすれば、変な話クリアさえしてくれれば何でもいいって事だろうしな。

 ま、今回のは緊急であり大陸であり女王のクエストという豪華仕様だから受注者も本来の緊急より多いだろう。


「......あ? あァ!? わたしのも終ってね!?」


 一応自分のクエを確認した所、なんとなんと【済】のマークがクエストリストに。通知来なかったぞ!?


「あら、プンちゃんのクエとほぼ同時に終わったから通知が遅れてるのね。ユニオンも人手不足みたいだし、これは仕方ないわよエミリオ」


 朝だろうが夜だろうが絶対誰かいるユニオンが人手不足ぅ!? クエスト受注だけなら無人の集会場カウンターで事足りるってのに謎に朝から晩まで人置いてっから大事な時に手が足りねーんだろ! これは言ってやらねばならんな!


「でもどうしよう、ボクとエミちゃんだけ診てもらえてないよ?」


「そうだねぇ......本来の目的がそれだし、どうしよっか」


 そうだった、クエクリアってよりも能力や戦術での反動的なモノを知識部隊3人に診てもらうのが目的だった。魔女族にのみ発生する奇病【リスキーエンハンス】がわたしにも本当に発生しているのか、具体的にどんな症状になるのか診てもらいたかったし、魔術の反動は奇病なんかよりも診てもらいたい感はあるし......


「わたしとプーがバトルしようぜ! そうすりゃ早くね!?」


「それが早いならわざわざクエストなんて持って来ないわよ。3人が一気に2人分診なきゃならないのは大変だろうし、何かしらの反動や反応が起こるくらいまでやるなら下手に手加減なんて出来ない。だから討伐を選んだのよ」


 ひぃたろハロルドの反論には納得しかない。それにわたしとプンプンは丁度いい具合の手加減なんて出来るタイプではない......。


「とりあえず一旦バリアリバルに戻りましょう。ワタポとひぃたろの情報をまとめたいし、ここにいても何にもならないでしょう?」


 赤眼鏡を外し、ネックレスのように首から下げるリピナ。一気に4人分を診てくれって方が無茶だったのかもしれない。

 わたし達は一旦バリアリバルへ戻り、2人分の情報がまとまったら次をどうするか考える事にした。





 プンプンとエミリオのクエストをクリアしたのは、同世代でも下の先輩でもなく、上の世代だった。複数あった大陸緊急クエストは残りひとつまで片付けられている。

 外界勢───トリプルSSS-S3だけではなく、外界への渡航許可を得ていなくとも上の世代はごまんといる。

 冒険者の世代分けは冒険者登録日というよりも、冒険者としてその存在が目立ち始めた時期を指す事の方が多い。


「片っ端からクリアしとんのか? 頑張っとるなぁ」


赤い羽うちのメンバーもAやSのクエで駆け回ってるよ」


「ほー、マスターがサボっててええんか?」


「大丈夫、うちは行きたいギルドが見つかるまでのギルドってスタンスでやってるし、よく聞く “うちは細かいルールやノルマはない” なんて所よりよっぽどクリーンだ」


「それもう意味ないやん」


 先日イフリー大陸から帰還し、今はその疲れを癒すべくバリアリバルで骨を休める冒険者【アスラン】と【アクロス】が賑わしい街を見て保護者のような雰囲気を醸す。

 行き交う冒険者は基本的に後輩───冒険者歴が下───ばかりで、EランクやDランクは俗に言う “おつかいクエスト” のためマップを見てはマーキングをしている。

 CランクやBランクは討伐系クエストの打ち合わせをしていたり、ちょっとした言い合いをしていたりと、昔のバリアリバルに戻ったような賑わいと活気がそこにはあった。


「数年前みたいに冒険者だけじゃなく街が活気付いてるよな」


「じゃのじゃの」


 背後から言葉が届き、振り向くまでもなく2人は答えた。


「やな。あのアホ共のおかげって言えばそうやけどええ迷惑もあったわ」


「今自分達がどうしたいか。それをエミリオ達が素直にやった結果だろうね」


 アスランとアクロスは背後の人物へ言い、振り向く。そこには皇位持ちが2名。

 様々な業界へ幅広く力添えしているギルド【マルチェ】のマスター【ジュジュ】と皇位持ちで最も有名かつ遭遇しやすい情報屋【キューレ】が街を眺めていた。


 アスラン、アクロス、ジュジュ、キューレも冒険者登録日で見れば疑いようのない生意気世代ディスオーダーだ。目立ち度的にも生意気世代に含まれるが、本人達は問題児世代バッドアップルの雰囲気───好きにやるから好きしろ───が肌に合っている。

 生意気世代ディスオーダーも悪くはないが、問題児世代バッドアップルの方が妙な線引きや優劣からの関係性、利害関係重視などが無く息がしやすい。


 冒険者は自由に。

 自由には責任を。


 この言葉通りなのが問題児世代バッドアップルであり、下手な探り合いもなく......悪く言えば直接的。しかしそれこそが、この世代の魅力でもある。

 勿論、世代全員がそうではないが、少なくとも問題児世代バッドアップルで名を馳せている連中に “世代” という縛りや境界は無い。

 どこまでも自由に。

 冒険者のあるべき姿とも言える。


「いやいやだから違うってリピナ! こう......ガーンって響いてグワワーってなって、うわー! ってなるんだっての!」


「そんなので伝わると思ってんの!? あんた魔女なんだから言葉とか大事じゃないの!? 詠唱譜とか自分で組むんじゃないの!? そんなので組めるの!?」


 どこまでも自由......


「それでししはキノコ帽子で然菌族ノコッタおさの口調を真似てるのね」


「そだーよ! 然菌族は可愛いのーだ! ひぃたろちゃんも一緒にどー?」


「そうね、遠慮しておくわ」


 どこまでも自由、、、


「へぇ、カイト君とトウヤ君って元々イフリー民なんだ。でも考えてみたら納得出来るかも......デザリア軍特有の “無茶な思い切り” みたいなものあるかも」


「ワタポそれってつまり、無謀って事じゃない? デザリア軍にはボクそんな印象があるかも」


「そうだねえ、でも、カイトもトウヤも無茶苦茶じゃないよお! だって───ここにいるメンバーの方が何倍も無茶苦茶で無謀おー! でも、そゆとこ好きい!」


 どこまでも自由。



「噂をすればやな。てかあの魔女の格好なんやねん。どこのガキや」


「上衣をマントみたいにして、ヒーローに憧れてる子供みたいだね」


「フェアリーパンプキンは装備変わってるな......ヒビの所か? お古でいいから下の世代に回したいな」


「おーい! 何しとるんじゃー?」



 ギルドや固定パテ───所属や関係性など気にせず気楽に声をかけられる関係こそ、問題児世代の魅力なのかもしれない。



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