◇懐かしい話



 見慣れない新装備、マントローブを揺らし優雅に着地した半妖精ハーフエルフに疲労は微塵も感じなかったがわたしは、


「つえーなひぃたろハロルド、おつかれ」


 と、労う言葉をかけた。


「こんなのじゃまだまだよ」


 何に不満があるのか不明だが今以上の高みを求めているらしいひぃたろハロルドは剣を一度振り、刃につく血痕を払い落とし腰の鞘へ戻した。真珠色一色の剣は去年猫人族ケットシーの里へ行った時、1匹の猫人族を助けに星霊界せいれいかいへ向かう事になり、そこで入手した宝剣だったか......星霊。

 騎士学校オルエススコラエラで再会した双子座の話をまだわたしはひぃたろハロルドにしていない。


「どうしたの? エミちゃ」


 3人の知識部隊がワタポの時同様、半妖精に色々と質問している中、ワタポはわたしの顔を覗いて問いかける。


「んや、みんな強くなりすぎだなーって」


 この気持ちは嘘ではない。和國シルキでどんな事をしてきたのか具体的に聞きたい気もするが、なんとなく予想出来るうえその方法はこの3人にしか───いや、誰にも真似出来ないだろう。わたしがエンジェリアの残滓に100回以上殺されたように。



「ひぃちゃは元々強かったけど、もっと強くなっててワタシも驚いたよ」


 ワタポのクチぶりから、各々がどこまで成長したのか把握していないという事か。蝶人間も羽根猫も、成長した実力を最低限披露する という形であっさり終わっているが、それでも充分に強くなっている事がわかる。


「次はボクのタゲが近いね! 近いって行っても結構遠いけど」


 フォンでマップ確認をしつつ魅狐プンプンが元気な声でマークしたマップを見せてくる。

 大陸は当たり前だがウンディーで、場所は【ケルピー湖】というみずうみか?


「ケルピー! 懐かしい」


「でしょー! ワタポと初めて会った時にすぐ向かった場所!」


 2人が初遭遇してすぐ向かった......多分ひぃたろハロルドも含めて3人で向かった場所が湖なのか。

 そういえば、わたしが半妖精と魅狐ミコのコンビに初めて会ったのは───マネキネコ亭だ。熱を宿す剣にぶっ刺されて死にそうになってたわたしをワタポが助けるため、2人と接触して助けてくれたんだったな。


「なっつかしいな! わたし湖は知らねーけど、熱々ソードぶっ刺されてたわたしを助けるためにワタポが頑張ってくれたんだったな」


 本当に懐かしい。

 あの件がなければ2人に会うのはもっと後に......いや、会っていないかもしれない。


 魔女界でやらかして───この記憶が解凍したのは最近だが───地界で生活していなければ今のこの現実は無かったんだ。


 ノムー大陸で暮らしていたわたしは冒険者アスランと出会い、本格的に冒険者になるためウンディー大陸へ出発した。

 ウンディーまでの道のりの時点で色々な事があったなぁ......ワタポ騎士ヒロと出会い、情報屋キューレと出会い、ノムーの姫セツカと出会い、ギルド【ペレイデス モルフォ】と争った。

 騎士ヒロと蝶ギルドのマカオンが同一人物で、結果わたしはワタポの両腕を奪ってしまったんだったな。


 熱剣にぶっ刺されていたわたしを助けてくれたのがワタポで、そこで【フェアリーパンプキン】と出会って、そのまま蜘蛛ギルドをぶっ潰しに行って......こうして思い出してみると結構濃い冒険者生活を送ってるじゃんわたし。


「で、ケルピー湖でのタゲはなんだ? わたしを助けてくれたっつー鱗を持ってるヤツか?」


 思い出に浸るにしては濃すぎると判断し、わたしは話を現実へ戻した。


「ボクのターゲットは湖の名前にもなってる【ケルピー】だよ! 馬と魚が合体してるような見た目ってキューレさんから情報買ったし、すぐわかる見た目で助かる」


 ケルピー。雑魚そうな名前のモンスターだ。


「ケルピー湖ならここから数時間かかるわね」


 知識部隊と半妖精は話を終え、わたし達の会話へ参戦する。


「ケルピー湖いくのお!? カイト達も今日行くって行ってたあ!」


「同じタゲかもよ? 緊急クエストなら受注者数に制限はないし、同じタイミングで受注して現場で遭遇なんてのも珍しい話じゃないし」


「まぢかよリピナ! 早く行かねーとカイトヘソ達にタゲとられちまうぞプンプン!」


「腕試しが目的だから素材狙いの人がいたら譲る気だったし急がなくても平気だよエミちゃん」


 はぁ? まーたこのキツネは人がいい人になりやがって、緊急クエストでシングルともなれば素材もそれなりの値段で売れるって考えに至らないのがもうアホとしか思えない。


「ケルピー湖はそこにしか生えないキノコもあるし、まったりノコノコ向かおう!」


 キノコ帽子の獅人族リオンは猫の手のような手袋......にしては大きい何かを装備し、腕を伸ばした。


「しし屋なにそれ?」


「ねこぱんち」


「はぁ? パンツ?」


「さっきの猫さんのドロ全部もろたの! その中にあったんだーよ、ねこぱんち!」


「へぇ......武器だよな? ちょいパンチしてみて」


「凄く痛いと思うよ? だってこれ、見ててね」


 そう言ってしし屋はみんなの前に立ち、空気を殴った。その拳のスピードが中々に速くて驚かされる。

 そんなわたし達を余所にしし屋は引っ掻くような動きをした。その時、空気が斬れるような音が......


「ね? パンチが凄く速くなるのと、引っ掻くとナイフみたいな爪が出るノダ! だから痛い! だからやらない!」


「打撃と斬撃を備えたグローブ......いい物ゲットしたわね。しし」


「可愛いし、ししちゃ似合うよ」


「ボクも何かドロップしたいなー! 馬なら足かな?」


「馬の足ドロしたらびっくりだあ!」


「ビックリじゃ済まないでしょ。そもそも足のドロって気持ち悪いじゃない......」


「なんでもいいから速く行こうぜ!」


 と、こんな感じでわたし達は次のターゲットがいる【ケルピー湖】へ向かう。



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