◇リスキーエンハンス2



 【リスキーエンハンス】

 魔女族の中でも極少数に発生する奇病。

 前提条件にあるのが、魔女力ソルシエールを扱える、最上級以上の魔術を扱える、だ。


 極少数と言っても決して珍しいワケではないが、治療方法が確立されていないという点や、特定レベルの魔女の中でも極少数には発生しない点などから奇病指定されている。


 症状は、魔術使用による反動とは別に、様々な変化が起こる。

 感覚の鈍感化を筆頭に、妖力に似た症状も発生するが、妖力の反動それとは比べ物にならない重さで対処方法も解明されていない。


 つまりこの奇病【リスキーエンハンス】が発病した魔女はただ堪えるしかない。

 そしてこの奇病はまだ詳しく解明されていない。それもそうだ、魔女にか発病しない奇病を調べようと思う物好きはいないうえ、魔女にしか発病しないモノに時間を使うよりも優先すべき奇病が数えきれない程この世界には存在しているのだから。





 奇病なんて言われたから【リトル クレア】みたいなえっぐい感じになるかと思っていたが、そんな事はなかった。勿論、シカトするにはダルすぎる症状であるが......。

 昨日飲んだ酒ももしかしたらこの奇病のおかげでアルコールの味や香りを感じなかったのかもしれない。感覚的なモノに異常が発生する奇病......心当たりがありすぎて、全てが原因に思える。


「あ......これがリトルクレアの言ってた、知ってると知らないの違いか......」


 自分が抱きかかえている奇病を晒したあの時の「事が起こって知るではなく、事が起こる前に予備知識として知っておく」という言葉。


「ワタシ達、えっと......バッドアップル? に足りないのは知る事」


「起こってから知るんじゃなく、知っているから起こった時にどうすべきかわかる......」


「考えてみれば私達全員がそうよね。事が起こって知り、落ち着いてから調べる。ダメとは言わないけれど、遅いか早いかなら遅いのよね」


 ワタポ、プンプン、ひぃたろハロルドが並べた言葉はわたし達だけじゃなく、本当に同期、同世代に言える事だろう。

 キューレやアスランなどは同世代と言っていいのか不明だが、冒険者の世代は登録した日ではなく目立ち始めた日から見て括られるんだろう。ワタポは置いといて、この2人もわたしよりずっと前に冒険者登録してたクチだし。

 そう考えると......ほんっとに問題児しかいねーなこの世代!


「リスキーエンハンスについてはボクやワタポも色々聞いたけど、ひぃちゃんが一番詳しいと思うよ」


 偽物のココアではなく、本物のココアを別のマグカップに注ぎ入れてくれたプンプンはパスするように半妖精を見た。ワタポも頷きながらジャムビスケットを出してくれた。


「なにお前ら2人のご先祖はあんまし頭良くないの?」


 ビスケットに手を伸ばし、ブルーベリージャムを選択し、かじる。


「ワタシのご先祖様はきっとあれ頭悪いよ」


「ボクの方はなんか......ボクに似てたなぁ」


「ほーん。ワタポの方はわかんないけどプンプンの方はアレだな、あんまし頭良くないなそれ」


 プンプンに似てるという時点でそうなる。馬鹿ではない、決して馬鹿ではないがプンプンは何というか......おしいタイプだ。


「ご先祖の話はあとでいいわ。今を生きてるのは私達なんだし、知らないより知っていた方がいいのは確かよ。事が起こった後でもそれは同じ」


「んだな。ま、近くに魔女がわたししかいなかったんだし調べ様なかったってものあるし───で、何を知ればいいの? だいたいわかったぞ?」


「リピナ、しし、だっぷーを誘って午後から討伐クエストに行くわよ。3人にはもう声をかけてあるわ。まぁ......手の内を晒す、と言えば聞こえが悪いけど、そんな経緯で考えてるのだけれど、それでもいいなら一緒に行くわよ」


「手の内を晒す? どゆことよ?」


「3人には見ていてもらうだけ、討伐クエストはあくまで私達がする。3人にはギルドが依頼した形かしらね」


 今のでひぃたろハロルドの意図がわかった。


「おーけーおーけー、一緒に行くぜ。アレだろ? 実戦で反動やら奇病やら見てもらって色々知恵を借りるってとこだろ? わたしだけじゃなくお前らも」


「へぇ。最近エミリオは察しがよくなったわね。話が早くて助かるわ。討伐クエストはユニオンが緊急指定していたものを4つ受注したわ。ランクはシングルS-S1


 モンスターやクエストのランクは最大がSS-S2だったはずだから......普通に高レベル高難度クエストじゃんそれ。しかも4つって事は、


「私は余ったのでいいから、3人で相談して “自分が討伐する” モンスターを選んで」


 やっぱそうきたか。

 ひぃたろハロルドはリストをホロ化させ、わたし達はテーブルに浮遊するクエストを確認する。全てS-S1で緊急のスタンプが押されている。報酬は全て同じで、45万!?


「色々引かれて、40万って所かな?」


「だねぇ。プンちゃどれにする?」


 色々引かれて? 40万? は?


「まてまてプンプン、色々引かれてってなによ? 45万もらえねーの?」


「え? エミちゃん知らないの? こういう高ランククエストは、受注するのに最低でも10万v、そしてクリア後は大体そうだなぁ......5万前後税金とか保険が引かれるんだよ」


「はぁ!? 税金とか保険!? なんっっだそれ!? 今までなかったじゃんそんなの!」


 聞いてねぇよそんなの!

 それが一番リスキーなエンハンスだろ!

 エンハンスしてるのかさえ疑うわ!


「エミリオ、リピナが慈善活動で治癒してくれてると思ってるの? ちゃんとリピナはユニオンから「冒険者の治癒」をギルドで仕事として引き受けているからやってくれているのよ? でもこれには限度があって、ユニオンから受けている仕事、つまり貰っている給料に見合わない治療はリピナと患者の個人でやりとりしてるのよ。アンタまさな......全く払ってないんじゃないわよね?」


 初耳だぜ......全く払ってもないし、まず税金とか保険も全く知らんかった......


「具体的に色々と決まった、少し重く言えば、ウンディーの法律が明確になったのが最近だし、エミちゃなら知らないと思ってたよ。後で大事な所だけ解りやすく教えてあげるね」


「さすがワタポ、わたしをよくわかってるな! 頼むわ」


 無法者で逮捕されるのは勘弁だし、教えてもらおう......。


 ま、今回のクエストは受注したのわたしじゃないし、みんなもいるから法律を踏み潰してる事はないし、どのターゲットを血祭りにあげるか決めよう。


「って、このクエまさか」


 緊急を示すスタンプと、ウンディー大陸のスタンプ、そして───女王の印。


「気づいた? 緊急クエストであり、大陸クエストであり、クイーンクエスト。ダブルSS-S2の方は偉大な先輩方に回すそうよ」


「まぁわたし達に回すより成功率高いだろ。だってアイツらトリプルSSS-S3だし」


「そうね。女王として、大陸の支配者としてこの選択は当たり前だと思うわ───でも」


 ひぃたろハロルドは言葉を切った。言いたい事はわかる。とてもわかるので、わたしが言う。


「セッカはアイツらよりわたし達の方が弱いと思ってんのかよ。何かだりーな」


「女王様としての決断だよエミちゃ。だから終わったらワタシ達が先輩達を助けに、、、 行こうよ」


「そうだね! ボクもワタポの意見に賛成! 上手く言えないけど、なんか......なんだろう」


「プンちゃん、それはきっと私達が先輩達に挨拶、、してないからじゃない? これが終わったらみんなで行きましょう」


「なんだよお前ら、黙って先輩達の外界トーク聞いてるお利口さんかと思ってたけど、最高だなおい最高だな!」


 確かにお偉い先輩達はトリプルSSS-S3で、冒険者としての実績もランクもわたし達より上だ。でもだから何だって話だ。

 わたし達だけじゃない。あの場に呼ばれなかった同世代も化物はうじゃうじゃいるぞ。そもそも、このバリアリバルにずっと戻ってない同期も数えきれないほどいる。


「相手は良くても悪くても先輩だ。ちゃんと挨拶しなきゃだよな」


 久しぶりに楽しくなってきたぜ。



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