◇リスキーエンハンス1



「......シンシアの話はもういい。実際シンシアに興味もクソもないし。そんなんより、わたしのココアに砂糖がなんだってんだ?」


 この話題からシンシアと十二の神へ派生したんだ。謎に派生し、謎に考案してしまっていたんだ。あれが歴史をなぞった童話だろうと、どうだっていい。歴史なんて過去の出来事で、今この瞬間に過去の出来事を知る必要なんてない。

 わたしが知りたいのはこの3人がなぜ今更になってわたしの甘党に触れ始めたのか、なぜあんな───少し悲しそうで心配するような瞳を見せたのかだ。


「さっきプンちゃんが言ったように、私達は各々のご先祖......アレを先祖と認めたくないけど、とにかく会った。会って様々なモノを得た。エミリオがエンジェリアと会ったように」


 ひぃたろハロルドの言葉を流しそうになったが、わたしは多分言ってない。それに騎士学校オルエススコラエラでの件は全く話してない。となると和國でのアレか。

 わたしがエンジェリアに100回以上デスらされてたあの時、魔力の蓋が開いて、魔力垂れ流し状態で見事暴走していたわたしをみんなが魔力切れまで追い込み止めた───という思い出したくもない死にまくりな記憶。


 あの時エンジェリアが何かしらの助言をした......いやしただろうなアイツの事だから。


「わたしがエンジェリアに会ったようにって事は、お前らもそのご先祖と色々あったって事か?」


「そうよ。その時、極少数の魔女に発生する奇病、、の事を聞いたのよ。それがリスキーエンハンス」


 ......リスキーはそのままの意味でエンハンスは、この場合は向上や強化って意味か?

 能力ディアの変化系をエンハンス系と呼ぶ場合もあるが、それは強化系にも使えるし......まぁ強化系の場合はエンチャントって言葉が当てられるのが普通か。

 ここでのエンハンスは会話内容やリスキーという言葉から......追加した上で向上させる、何かが追加されどこかに変化が伴った事、みたいな意味合いだと予想して大丈夫だろう。


「って魔女の奇病!? それも極少数の魔女に発生するって、何でわたしも知らない魔女の事を............」


 内容によっては確定、だな。

 シンシアと十二の神に登場する人物はわたし達のご先祖......それならわたしが知らない魔女の事を知っていても納得出来る。なんせ、一緒にいた魔女がエンジェリアって事になるんだからな。


「納得したかしら? それなら話を進めるけど」


「あ? あぁ、頼む」


 2杯目のココアへ入れるためスティックシュガーを掴むも、ワタポの心配そうな視線とプンプンの不安そうな視線が指を重くし、スティックシュガーを諦めそのまま飲む事にした。


「エミリオ、2杯目のココア、、、の温度はどう?」


「どうって、全然普通」


 猫人族ケットシーほどではないが、わたしも熱いのは苦手だ。そして苦いのも苦手だ。ココアでさえ砂糖やミルクなしでは少しばかり苦味を感じる。が、これは......苦くない。


「エミちゃ、それ砂糖入ってないけど苦くないの?」


「全然苦くないぞ? これも砂糖と同じで高級品か?」


 ワタポへ答えつつもうひとくち飲む。するとプンプンがわたしのマグカップへ棒を突っ込み、


「それココアじゃなくてコーヒーだよエミちゃん。温度は......82度もあるのにもう半分飲んだんだね」


 とんでもない事を言い出した。

 ココアではなくコーヒー、突っ込んだ棒は温度計で温度もイカレた80度と......


「色ココアじゃん。匂いは......? ココアっぽくね?」


「でもコーヒーなんだよ、ほらコレ」


 高そうな袋をワタポがテーブルへ置き、わたしはガン見した。確かに【コピルコーヒー】と書かれていて、中には粉砕前の豆。

 ココアのような色と風味を持ちつつ、味はコーヒーという意味不明な説明が......しかも【カフィキャット】って......写真これモンスターじゃねーかよ!?


「なんでモンスターの写真ついてんの!? まさかドロアイテムがこの豆なの!?」


「そうだよ。それも全然ドロしなくてだいたい一杯で......8000vくらいするのかな?」


 するのかな? じゃねぇよワタポ! なんっつー高級品だよそれ......商品になってるって事は買うヤツいるって事だろ、イカレてるな。


「どこでそうなったのか......それは私達にはわからないけど、今のエミリオはこういった温度をあまり感じなくて、味覚と嗅覚も少し鈍感になってるって事よ」


 強引に話を戻し、強引に結果を叩きつけるひぃたろハロルド


「......気温はちゃんと感じるぞ? 匂いも味も感じるぞ?」


「無くなったワケじゃなく鈍感になった......それがずっとなのか一時的なのかはわならないけれど、今エミリオの身体には “魔女魔術の反動が変則的に” 起こっているのよ。発動後にくる反射的反動ではなく、蓄積型の反動とみて間違いないわね」


「それがボク達も聞いた魔女の奇病 “リスキーエンハンス” だよ」


「魔女にとってはプラスって聞いたけど、ワタシは凄く心配だよ、エミちゃ......」


「リスキー............その、リスキーエンハンスってのもっと詳しく教えてくれ。もしかしたら思い当たる何かがあるかもしれないし」





 派手なパンプキンパイを切り分ける事なく、パイの中心をフォークで穿ほじくり食べるグルグル眼鏡。

 向かい側の席にはキャビア色の髪をミディアムまで切った黒曜の魔女。


「カボチャ感強いしパッサパサだっちゃ......んで、どこまで教えたっけか?」


「妖力に属性があって、各々得意な属性が必ずあるって所だ。それと、お前もう少し綺麗に食べれないのか?」


 フォークの持ち方や使い方が、子供が砂遊びをする時に使うキッズシャベルと同じに思えた黒曜の魔女ダプネはついつい指摘してしまった。しかしグルグル眼鏡の魔女フローは気にする様子もなく話を進める。

 最悪指定SSS-S3の犯罪集団【クラウン】はイフリー大陸の港街にいた。


「そそそそ、そんで、その妖力を使って剣術や妖術を使うとディレイの他に必ず “その属性に合った反動” が起こるわさ。ここまでOK?」


「地水火風で身体に起こる現象が変わる。火なら体温が上昇したり、症状は人それぞれで違うから一言では言えないが、似たような枠内で反動が起こる、だろ?」


「いえあ、OKKの毛、優秀優秀ぅ」


魔女族わたし達は妖力を持たない種族だというのに、なぜ覚える必要があるんだ?」


「それは簡単! 妖力使用の反動をもっとつらくウザくだるくした現象が魔女に起こるからナリ! 魔女族に発生する奇病、リスキーエンハンスだっちゃ」


「リスキーエンハンス......?」


「説明するナリよー? よーく聞いて覚えるわさ!」



 エミリオがリスキーエンハンスの事を知った頃、ダプネもフローから詳しく聞いていた。



 魔女族の中でも極少数に発生する奇病とは───。



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