◇奇妙な病、奇っ怪な病魔
帰還した理由と目的、
近い未来か遠い未来か、わたし達は外界へ行く事になるのは間違いない。でなければここに呼ばれる意味がない。それも理解した。
その上でまだ何か話があるのか、この集まりが終わらない。
今更どんな内容の話が飛んできても【ジルディア】のサブマス【ノレッジ】が語った話題が濃すぎて他の話題など泡だ。
「この流れで語るにはインパクトが足りなすぎて耳に届かない者もいると思いますが───ここへ
声を上げたのは聖職者コスプレをしているチビ。そのチビの椅子を引いたのは隣にいる聖職者のお姉さんだ。
チビはダルそうに立ち上がり、嫌そうな顔で名乗る。
「
わたしを軽蔑するように見て言ったチビだが、そんな言葉は既にこの耳に届かない。
あの小生意気なクソチビがあろう事か
「私が話すのは、外界の恐ろしさ、といった所ですわね。勿論私が今この場で語る内容よりももっとずっと恐ろしい世界ですので出向く際はお気を付けて」
微笑を浮かべるクレアの発言は先程のゼリーの発言と矛盾しているようにも思えるが、ノレッジが精神論のように付け足した事で “外界には危険がいっぱい” という子供のような印象で理解させてくれた。
まぁ......わたしは俗に言う外来種なので外界の事は知っている───魔女界とその関係周辺だけだが───のでいかに危険かも理解出来る。
「語る前に見てもらった方がスムーズですわね。ヴィアンネ、手伝いなさい」
「本当によろしいの? ここでは殿方の眼も」
「裸になるつもりはないですわよ。まぁ───裸を見る覚悟がお有りでしたらお見せしますけど」
含みのある言い方を残し、クレアの隣に座っていたお姉さん【ヴィアンネ】が詠唱を始めた。譜面的にこれは......補助魔術か。
「っておい! クソチビお前何で脱い......で......!? お前それ......」
ヴィアンネが詠唱を終えると同時にクレアは装備を解除し下着姿を晒す。
一瞬で下着姿になったクレアへヴィアンネは素早く魔術をかけた。補助魔術といっても何かしらの耐性を上げるタイプではなく、バフやデバフを打ち消す系の魔術だった。
クレアは魔術で自身の肌を覆っていたらしく、それがゆっくり解かれる。
わたしが言葉を詰らせたのは
裸を見る覚悟があるなら見せる、と言った意味が嫌でもわかる。同時にとても......苦しくなる。
「恐怖とは、恐怖を感じた瞬間にはもう遅い事柄にこそ相応しい言葉......これが外界の恐怖と言っても過言ではありませんわ」
澄んでいたクレアの声はまるで首を絞められている猫のように
誰もが言葉を失った。
先輩、
ぎょろりと眼球を回す者、クチをだらしなく開き涎膿を垂らす者、白目をむき舌を伸ばし唸る者───いくつもの【
それだけではない。皮膚の下を這いずる線虫の膨らみ、首筋にある黒い亀裂からは膿が滲み、眼球の白目部分には痛々しい刺突傷、背腹部には港の岩場などでよく見る小さい貝のような物体がビッシリと集合し鼓動しては膿潮を吹く............ひとつひとつ言っていたらキリがない程、クレアの身体は異常を孕み極めている。
「これは一括に
数秒前と変わらない態度のクレアだが、ひらりと扇いだ手にも無数の───首筋とは違うタイプの───亀裂が走っておりグジュグジュと赤黄色に膿み、指なんて引っ張れば千切れそうなほど深く横裂けしている。
同世代で同じ外界攻略を行っているメンツは知っている事らしく驚いたりはしていないが、見たいものでもないので視線を流す。
こっち側は見ていられなくて視線を伏せる者や、あからさまに嫌な顔を見せる者など様々で、わたしは......ここまでのは見た事ないが、こういうのは初見ではない。
「この様に、外界には様々な奇病が存在していますの。いつ、どこから、どのように、飛んでくるかわからない
突然指名されたプンプンは満月のように眼を丸くする。普段なら大袈裟な反応だが、相手が相手で初見とくれば当たり前の反応ともいえる。
「ボク!?」
「貴女のそれ......能力の
クレアはプンプンの能力を知っている───いや、買ったんだ。プンプンの能力詳細を。
わたしはセッカの横に座る情報の出処【
「能力使用の
その言葉にわたしもピンも来るモノがあった。
魔術───
今の所、わたし自身の能力での反動で何がか起こるという事はないが、魔術反動は確かに奇病の1種と言っても過言ではない。ケセラセの言葉を少し借りて言うとわたしのもプンプンのも “法則と原因が判明しているタイプの奇病” だろう。
「逆に......そちらの貴方」
「......? 俺?」
今度は狼耳を持つ大剣使いカイトが指名される。
「貴方の尾骨付近から出ている
「......奇病、か」
何か心当たりがあるのか、カイトの表情が曇った。
「この様に、奇病という枠は広く、それでいて内容は様々。
中々に耳が痛くなる事を......。
無知というのは知識を得る機会を自ら手放した結果であり、自業自得。
知識とは物事を円滑に、効率的に進めるための技術と比例するモノ。
理解しているフリをしている者、行動しても結果に結びつかない者、そもそも行動さえまともにしていない者、理由や言い訳を捻り出しては自分を弁護する者は思考停止しているだけ。
予備知識が過程と結果にどれだけ結果するか、というクレアの言葉は痛い程よくわかるうえ、どんなジャンルにも通じる鋭い針のような言葉だ。
この
わたしは......毒針のように感じたので今までそういった事柄を曖昧に、先送りにしてきたクチだ。
そのシワ寄せかツケか、魔術反動に苦しむ日々が
知っていれば突然ではなかったのに......ここは後悔よりも深く反省すべき点だ。
「奇病というワードの重みが自分には無関係だと思わせているという点は理解できますが、今は無関係なだけですのよ。いつどこで飛んでくるか、降り掛かるかは誰にもわかりませんの。飛んできた時、降り掛かった時にはもう遅い、なんて......恥ずかしくて笑えないですわよ」
......全くその通りだ。小さな身体には重すぎる、その身に余る奇病を
【リトルクレア】......きっとあの
奇妙な
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