◇理由ー目的



 【ジルディア】のサブマスター、ロン毛のローブ男【ノレッジ】が深々とお辞儀し、ゆっくりと話し始める。


「我々...... 生意気世代ディスオーダーが帰還した理由を話す前に、我々が外界がいかいへ向かった大きな理由から─── 地界ちかいにて厳選された冒険者や騎士に外界渡航許可を与え、“外界から地界へリワードを持ち帰る” 事が地界から託された理由......目的です。世界依頼グランドクエストと言えば聞こえはいいですが誰ひとりそう呼ばず、禁忌依頼パンドラクエストと呼びます」


 ノレッジは質問を挟むタイミングを作るようにわたし達を一見するも誰ひとりクチを開かなかったので続ける。


「外界から地界へリワードを持ち帰る。これは物体でもいいのだが、物体よりも文化や技法、関係が好ましい。例えばこの【フォン】なんかも外界の技能族テクニカという種族が生産した便利アイテム。地界で【フォン】を生産するのは物質的に不可能なので私達の上、先輩達が技能族との関係をリワードとして持ち帰った結果、今では当たり前のように【フォン】というモノが地界に根付いている。他にも魔結晶をマテリアに加工する技法や衣服ではなく防具を生産する技法、武器もただ模るのではなく素材の特性を充分に活かした生産方法なども全て、先代が外界から持ち帰ったリワード。シルキ大陸の武器カタナと私達が扱う武器を比べれば一目だろう。勿論シルキのカタナも熟練の職人が技術を集結させた一品だが、特種効果エクストラなどが備わっているカタナが圧倒的に少ないだろう?」


 ......なるほど。

 小難しい内容ではなく、わかりやすく具体的な内容はわたしだけでなく、ほぼ全ての者を納得させるだけの威力があった。

 外界から地界の為になる何かを持ち帰る事が、外界へ向かう大きな理由であり、外界へ向かう者に与えられた目的。

 攻略や侵略ではなく、勉強に近い形だ。


「今言ったリワードだけをみれば世界依頼グランドクエストというのも納得出来るだろう? しかし実際はこうも簡単にはいかない。外界の者から見れば私達地界の者は外来種。何を企んでいるかもわからない連中に文化や技術を教えるワケがない。良い関係を築くワケがない。それらを求めて他種族の領土に足を踏み入れるという事は侵略と見做みなされても文句は言えない。さらに言えば外界でモンスターに殺される場合もある。奇病を持ち帰るだけの場合もある。何も出来ずただ野垂れ死ぬ事も珍しくない。求めるリワードに対してのリスクが大きすぎる事から禁忌依頼パンドラクエストと呼ばれるようになった。これらのリスクを踏まえれば “最低でもモンスターと戦える、野垂れ死にしない” 程度の実力が要求される。ゼリーさんが先程、必要以上にびびる事はない、という言葉も精神を強く持ち自分に自信を持って歩け、という事だと私は受け取った」


 外界だからといってモンスター全てが地界より強いワケじゃない。地界にも化物クラスは存在している。が、外界と地界のそもそもの規模と環境が違う。どちらに危険なモンスターが多く存在するかといえば、それはもう規模の問題で外界になるのは当たり前だ。

 外界というワードにびびって本来の実力を出せなくなる冒険者も存在するって事だろう。


 リワードよりもリスクを持ち帰る確率が高いという点は予想通りで驚きはしなかったが。


「これが私達が外界へ向かった大きな理由。勿論各々にも目的や理由は存在するが、そこはこの禁忌依頼パンドラの過程で各々が行う事なので気になる者はこの会合後に聞いてみるといい。さて次は、我々がどうしてこのタイミングで帰還したかだね」


 段階を踏んで確りと片付けていくノレッジの話術は......妙に聞きやすい。質問するタイミングも用意していて、まるで騎士学校での授業のようだ。


「我々が帰還した理由は一言で片付けるなら、魔結晶の確保のため。ただの魔結晶ではなく特種な魔結晶、と言えばピンとくる方もいるのでは?」


「......黄金の魔結晶、に関係している魔結晶」


 半妖精ハーフエルフひぃたろハロルドがいち早く答えた。

 黄金の魔結晶───人工魔結晶の中でもとびきり高性能な魔結晶モノで、恐ろしい力を秘めている。その力を使うには他の人工魔結晶が10個必要だったか? そしてその魔結晶は───どこにあるんだっけな。


「そう、その魔結晶を確保するべく我々も地界へ戻った。その魔結晶についての情報も外界から持ち帰ってね」


 ローブを揺らしフォンを取り出したノレッジはテーブルから生えているコードをフォンへ挿す。そのままフォンを操作しタップした途端、噂の魔結晶情報が立体化ホロで浮かぶ。

 マップなどの立体化は知っていたが、画面を複製した上で立体化出来るのは知らなかった......いや無かった事から、これはフォンの新機能だろう。便利だな。


「このまま報告も兼ねて続けさせてもらっても問題ありませんか? 女王」


「......あ、はい、お願いします」


 女王、と呼ばれて反応出来ないあたりまだまだ威厳が足りないなセッカ。


「我々が外界で集めた情報を現在持っていた情報と照らしあわせ、やっと “魔結晶塔” についての事実が浮かび上がった。まず、魔結晶塔......クリスタルタワーやマテリアルタワーと呼ばれている例の魔結晶が封印されている塔の存在。これは以前から持っていた情報だが、この件に関しての事実がまとまった。それがこれだ」


 フォン画面をスワイプすると全員の前に立体化した記事が停滞、魔結晶塔マテリアルタワーという件名でまとめられたそれにわたしも眼を通す。



◆◇◆


 魔結晶塔マテリアルタワーは特種魔結晶が封印されている塔の名称とする。

 特種魔結晶の数は13(ひとつは黄金魔結晶)であり、塔の数は13。地界に4、外界に8、残り1つは不明。

 未だに塔がひとつも発見されていない事から何らかの隠蔽術式で姿を隠していると予想される。

 地界に存在するマナに色濃く関係している【世界樹の枝】【夜楼華】、外界に存在する【世界樹ユグドラシル】【生命樹セフィロト】【悪魔樹クリフォト】と何か関係していると予想する。


 地界にある世界樹の枝の死、夜楼華の開花。

 この2つが重なり、地界のマナに歪みと乱れが生じた。モンスターの凶暴化などもこれらが原因であるが我々人類が生活するにあたり歪みも乱れも、モンスターの凶暴化程度の影響しかない。


 しかし地界のマナそのものの質が外界に近付いたのは事実である。

 それにより、地界【イフリー大陸】に高濃度なマナ反応を感知した。

 それがおそらく最初の魔結晶塔だろう。

 魔結晶塔は全てが繋がっていると考えられているため、ひとつの出現が共鳴するように連鎖するだろう。



◆◇◆



「......13だったのか。つーかわたしらが知ってる世界樹って切れっ端の枝だったのかよ......」


「ボク達が猫人族の里で聞いた話だと10だったよね?」


「それも全部地界って」


「それだけ不確定な存在だったって事ね。この魔結晶は。実際、黄金の魔結晶ってのも様々な種族の部位を必要とする悪趣味な封印をかけられていた風だったのに、今はあっさりレッドキャップの手にあるじゃない」


 わたし、プンプン、ワタポ、ひぃたろハロルドが愚痴るように呟くとノレッジが頷く。


「私もそう聞いていたが、事実は違った───と言うより何者かが事実を隠蔽......いや捏造に近い形でミスリードを狙ったと私は考えている。勿論その目的は時間稼ぎだろう。本当に隠すつもりならこれらの情報さえ抹消するのが基本だろうに。それで話を戻すけれど、我々が帰還した理由はその魔結晶塔がイフリー大陸周辺に出現した場合、速やかに塔攻略を行い魔結晶を確保する事にある。先程そちらの......ひぃたろさんが語ったように黄金の魔結晶にかけられていた悪趣味な封印式は実は既に解かれていて、あろう事か黄金の魔結晶はトリプルSSS-S3指定の犯罪者【レッドキャップ】の手にある。我々は黄金の魔結晶を奪うため危険を犯すよりも、特種魔結晶をひとつでも多く所持する事が最優先。女王もそう判断し、我々を呼び戻し、帰還した」



 話のスケールが突然でかくなった違和感というか驚きはあるが、実際、わたし達も黄金の魔結晶や特種魔結晶の話は少なからず知っていた。

 知っていたが調べる事もせず放置していた......いや、そんな曖昧で掴めないものよりも優先すべき事が各々にあったからだ。

 でも結局は黄金の魔結晶に辿り着いた。


「......不謹慎かもしれないけど、ボクにとっては都合がいいって思えちゃった」


 魅狐ミコプンプンは眼を細め呟いた。言葉の意味を理解出来る者からすれば、確かにプンプンにとっては都合がいい状況。


「ワタシも同じだよ。......昔とは意思は違うけど、やっぱりフィリグリーは許せない」


 ワタポは義手を強く握り、元騎士団長から最悪の犯罪者へと転落した男の名をクチにした。その瞬間、両眼を閉じ格好つけていた【ジルディア】のマスター【ノールリクス】が片眼を開きワタポを見たが、すぐ閉じた。


「レッドキャップだけじゃないわよ。クラウンも勿論狙ってくる。この二組だけじゃない......おそらく、様々な種族が黄金の魔結晶と特種魔結晶を狙うと思うわ。だって黄金の魔結晶には洒落にならない力が宿っているのよね?」


 半妖精ハーフエルフひぃたろハロルドは元レッドキャップの後天性悪魔ナナミを見て言った。

 しかし反応したのは以外にも、


「黄金の魔結晶は特種魔結晶を媒体として強大な力を発揮する。具体的に言うと、使用者がその気になれば地界程度なら一瞬で消滅させられる程の高圧高密度の魔砲マホウが撃てる。本来は大陸規模を守る結界マテリアとして使う予定で黄金の魔結晶が生産され、特種魔結晶を通して他の大陸にも黄金の影響を与える設計だったが、残念。これを逆にすれば兵器になると知ってしまったが故に、今となっては兵器としか見られないんだよ。残念ながらね」


 【ジルディア】のマスター【ノールリクス】が答えた。



 想像を遥かに超えていた黄金の魔結晶。

 これは確かに、様々な種族が狙ってもおかしくない性能を持っている。

 使う使わないは置いといて、使える状態で持ってる、、、、、、、、、、だけで地界も外界も支配出来る代物だったか。


 使い方によっては人を助ける事も殺す事も出来る。


 人工魔結晶の材料は人間───人間以外でも可能かは知らない───。

 材料にされた人達はどんな気持ちなんだろうか............なんて、考えた所でわかるわけないし、意味もない。


 話が大きくなったが、コイツらが帰還した理由はよくわかった。



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