◇理由ー目的
【ジルディア】のサブマスター、ロン毛のローブ男【ノレッジ】が深々とお辞儀し、ゆっくりと話し始める。
「我々......
ノレッジは質問を挟むタイミングを作るようにわたし達を一見するも誰ひとりクチを開かなかったので続ける。
「外界から地界へリワードを持ち帰る。これは物体でもいいのだが、物体よりも文化や技法、関係が好ましい。例えばこの【フォン】なんかも外界の
......なるほど。
小難しい内容ではなく、わかりやすく具体的な内容はわたしだけでなく、ほぼ全ての者を納得させるだけの威力があった。
外界から地界の為になる何かを持ち帰る事が、外界へ向かう大きな理由であり、外界へ向かう者に与えられた目的。
攻略や侵略ではなく、勉強に近い形だ。
「今言ったリワードだけをみれば
外界だからといってモンスター全てが地界より強いワケじゃない。地界にも化物クラスは存在している。が、外界と地界のそもそもの規模と環境が違う。どちらに危険なモンスターが多く存在するかといえば、それはもう規模の問題で外界になるのは当たり前だ。
外界というワードにびびって本来の実力を出せなくなる冒険者も存在するって事だろう。
リワードよりもリスクを持ち帰る確率が高いという点は予想通りで驚きはしなかったが。
「これが私達が外界へ向かった大きな理由。勿論各々にも目的や理由は存在するが、そこはこの
段階を踏んで確りと片付けていくノレッジの話術は......妙に聞きやすい。質問するタイミングも用意していて、まるで騎士学校での授業のようだ。
「我々が帰還した理由は一言で片付けるなら、魔結晶の確保のため。ただの魔結晶ではなく特種な魔結晶、と言えばピンとくる方もいるのでは?」
「......黄金の魔結晶、に関係している魔結晶」
黄金の魔結晶───人工魔結晶の中でもとびきり高性能な
「そう、その魔結晶を確保するべく我々も地界へ戻った。その魔結晶についての情報も外界から持ち帰ってね」
ローブを揺らしフォンを取り出したノレッジはテーブルから生えているコードをフォンへ挿す。そのままフォンを操作しタップした途端、噂の魔結晶情報が
マップなどの立体化は知っていたが、画面を複製した上で立体化出来るのは知らなかった......いや無かった事から、これはフォンの新機能だろう。便利だな。
「このまま報告も兼ねて続けさせてもらっても問題ありませんか? 女王」
「......あ、はい、お願いします」
女王、と呼ばれて反応出来ないあたりまだまだ威厳が足りないなセッカ。
「我々が外界で集めた情報を現在持っていた情報と照らしあわせ、やっと “魔結晶塔” についての事実が浮かび上がった。まず、魔結晶塔......クリスタルタワーやマテリアルタワーと呼ばれている例の魔結晶が封印されている塔の存在。これは以前から持っていた情報だが、この件に関しての事実がまとまった。それがこれだ」
フォン画面をスワイプすると全員の前に立体化した記事が停滞、
◆◇◆
特種魔結晶の数は13(ひとつは黄金魔結晶)であり、塔の数は13。地界に4、外界に8、残り1つは不明。
未だに塔がひとつも発見されていない事から何らかの隠蔽術式で姿を隠していると予想される。
地界に存在するマナに色濃く関係している【世界樹の枝】【夜楼華】、外界に存在する【
地界にある世界樹の枝の死、夜楼華の開花。
この2つが重なり、地界のマナに歪みと乱れが生じた。モンスターの凶暴化などもこれらが原因であるが我々人類が生活するにあたり歪みも乱れも、モンスターの凶暴化程度の影響しかない。
しかし地界のマナそのものの質が外界に近付いたのは事実である。
それにより、地界【イフリー大陸】に高濃度なマナ反応を感知した。
それがおそらく最初の魔結晶塔だろう。
魔結晶塔は全てが繋がっていると考えられているため、ひとつの出現が共鳴するように連鎖するだろう。
◆◇◆
「......13だったのか。つーかわたしらが知ってる世界樹って切れっ端の枝だったのかよ......」
「ボク達が猫人族の里で聞いた話だと10だったよね?」
「それも全部地界って」
「それだけ不確定な存在だったって事ね。この魔結晶は。実際、黄金の魔結晶ってのも様々な種族の部位を必要とする悪趣味な封印をかけられていた風だったのに、今はあっさりレッドキャップの手にあるじゃない」
わたし、プンプン、ワタポ、
「私もそう聞いていたが、事実は違った───と言うより何者かが事実を隠蔽......いや捏造に近い形でミスリードを狙ったと私は考えている。勿論その目的は時間稼ぎだろう。本当に隠すつもりならこれらの情報さえ抹消するのが基本だろうに。それで話を戻すけれど、我々が帰還した理由はその魔結晶塔がイフリー大陸周辺に出現した場合、速やかに塔攻略を行い魔結晶を確保する事にある。先程そちらの......ひぃたろさんが語ったように黄金の魔結晶にかけられていた悪趣味な封印式は実は既に解かれていて、あろう事か黄金の魔結晶は
話のスケールが突然でかくなった違和感というか驚きはあるが、実際、わたし達も黄金の魔結晶や特種魔結晶の話は少なからず知っていた。
知っていたが調べる事もせず放置していた......いや、そんな曖昧で掴めないものよりも優先すべき事が各々にあったからだ。
でも結局は黄金の魔結晶に辿り着いた。
「......不謹慎かもしれないけど、ボクにとっては都合がいいって思えちゃった」
「ワタシも同じだよ。......昔とは意思は違うけど、やっぱりフィリグリーは許せない」
ワタポは義手を強く握り、元騎士団長から最悪の犯罪者へと転落した男の名をクチにした。その瞬間、両眼を閉じ格好つけていた【ジルディア】のマスター【ノールリクス】が片眼を開きワタポを見たが、すぐ閉じた。
「レッドキャップだけじゃないわよ。クラウンも勿論狙ってくる。この二組だけじゃない......おそらく、様々な種族が黄金の魔結晶と特種魔結晶を狙うと思うわ。だって黄金の魔結晶には洒落にならない力が宿っているのよね?」
しかし反応したのは以外にも、
「黄金の魔結晶は特種魔結晶を媒体として強大な力を発揮する。具体的に言うと、使用者がその気になれば地界程度なら一瞬で消滅させられる程の高圧高密度の
【ジルディア】のマスター【ノールリクス】が答えた。
想像を遥かに超えていた黄金の魔結晶。
これは確かに、様々な種族が狙ってもおかしくない性能を持っている。
使う使わないは置いといて、
使い方によっては人を助ける事も殺す事も出来る。
人工魔結晶の材料は人間───人間以外でも可能かは知らない───。
材料にされた人達はどんな気持ちなんだろうか............なんて、考えた所でわかるわけないし、意味もない。
話が大きくなったが、コイツらが帰還した理由はよくわかった。
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