◇共通点と少しの違い



 眠喰クソネミにでも転生したか? と我が身体ボディを疑うほど濃く重い眠気が残留するわたし、睡魔の申子エミリオさんは辛うじて意識を掴みワタポの隣へ座った。

 数本のシュガースティックを入れたココアを不規則なリズムで混ぜながら、なぜわたしがここユニオンに居るのかを考える......が、理由など全くわからない。


「本日はお忙しい中お集まりいただき───」


「そう思うのなら、お言葉ではなく進行で示してくださいまし。時間は有限ですのよ?」


 セッカの声を遮るだけでなく刺すような事を言ったのは───


「あ? なんで子供ガキが座ってんだ? 親はどこにいる? ちゃんと面倒見ろっての」


 10歳前後の小生意気そうな女の子だった。わたしは人生の先輩としてここはひとつ注意を、と思ったが、


「......スムーズに本題へ入ろうとしていましたのに、どっちがガキですの? 迷子でしたらわたくしが面倒見て差し上げてもよろしいですが、私は甘くないですわよ?」


 喧嘩売って来やがった。


「あーはいはい、そういう年頃でしたのね。わたしは甘くないココアとクソみたいな子供クソが嫌いですので、こっち見ないでいただきたいでゴザルな」


「あらまぁ、脳が砂糖か何かで出来てらっしゃるのね。興奮して溶けてしまってますわよ?」


 ......なーんだコイツ? クソ生意気なクソガキだな。こういうヤツがいると話が全然進まねーんだよな。仕方ない。ここはひとつ大人として、


「エミリオうるさい」


「は? わたし? うるせーのはアイツだろ」


「クレアも少々落ち着きなさい」


「何でわたくしですの? あの無礼者が」


「あ? 無礼者はお前だろチビのくせに生意気だなお前」


 ......それより今クレアって呼ばれてたよな? どっかで聞いた名前な気もしなくもないが、これ以上喋るとひぃたろハロルドにブン殴られそうなので一旦黙ろう。

 アイツも隣のお姉ちゃんみたいなのに怒られてわたしより先に黙ったし、勝ったぜ。


「すみません、わたくしのせいでクレア様とエミリオの雰囲気が悪くなってしまいまして......あっ、こ、こういう所ですよね悪いのは......すみません」


「落ち着いてゆっくり話せばいい。クレアの噛み癖は今に始まった事じゃないし、キミはウンディーの女王だろう? もっと偉そうに......いや違うな、堂々と、だ。堂々とした方がいいと俺は思うぞ?」


「エミちゃの煽りは呼吸みたいなモノだから、セツカ様は堂々と話をして大丈夫ですよ。忙しいから早く、じゃなく、忙しいから行かない、になるメンバーだし、来てるんだからみんなちゃんとしよ?」


 腕の筋肉自慢をしているような黒髪男と、腕がそもそも肉体ではなく義手のワタポがセッカをフォローした。ちゃんとしよ? の部分でわたしを見たのが納得いかないが、まぁ今は流してやろう......


「......なんだよプンプン、さっきからわたしを見てニヤニヤしやがって。鼻引っ張るぞ」


「んやんや、エミちゃん戻った、、、なーって思って安心......というより嬉しいが強いかな?」


「?............あぁ、そうだな。戻った、か......」


 プンプンはどちらかと言えば鈍感。そんなプンプンでもわたしのグズグズした変化に気付いたという事は......ワタポとひぃたろハロルドは確実に気付いてるだろう。

 解決というほどまだ何も起こっていないが、懸念みたいなものが吹っ切れた......吹き飛ばした感じではある。


 本当にまだ何も起こっていなくて、何かが起こるのはこれからだ。

 そうわかっていてグズグズグダグダとした気持ちを持ったままでは多分......何もかも上手くいかない。


「まず、本日集まってもらった理由のひとつですが、皆様も───冒険者の方々のお言葉スラングをお借りすると問題児世代バッドアップルの皆様もわたくしとご一緒に生意気世代ディスオーダーの方々からお話をお聞きしたいと」


 問題児世代バッドアップル......は、わたし達の事で生意気世代ディスオーダーは偉大なる先輩方の世代を指す呼び名か。

 それにしても先輩達は余裕だな。こっちは結構な人数がいるのに───アスラン達も戻ってきてたのか───あっちは8人しかいない。

 【ノールリクス】【ゼリー】【レッフェル】はわかる。残り5人は知らないがあの中にトリプルSSS-S3が2......3人? いるハズだ。

 生意気世代の代名詞みたいだったクソ生意気なチビはないとして、あの筋肉自慢みたいな腕出し男か?


生意気世代ディスオーダーの方々が地界ちかいに戻られた理由、地界ちかい外界がいかいの違いなどをまずお願いします」


 外界がいかい、というワードはわたし達バッドアップルの興味を様々な形で惹く。


「よしきた。まずはアタシから行かせてもらうよ」


 先人を切ったのはギルド【海竜の羅針盤】マスター【キャプテン ゼリー】。三角帽子をクイッと上げ、眼帯をこちらに向ける。


「地界へ帰還した理由は別の誰かが話すとして、アタシから話すのは共通点と少しの違いみたいなものだ。質問は後回し、まずは聞きな」


 昨日の態度が嘘のようにゼリーは頼りになる声質でアレコレ語った。



 地界と同じように外界にも様々な街や村、人々が生活する拠点が存在し、そこには基本的に【結界マテリア】が設置されているのでモンスターなどの侵入はない。


 モンスターも地界と同様で、弱いのもいれば強いのもいる。外界のモンスターが特別強いというワケではない。ただ、外界という環境は地界に比べて生命マナの質が一定ではないので環境に適応すべく進化や変化を遂げた種も存在する。


 取引は情報、労働、物体、硬貨で行われる。硬貨に関しては地界と同じ【ヴァンズ】だが、全く硬貨が使われない地域もある。特別な硬貨は存在しない。


 フォンは地界同様に使用可能、依頼クエストも存在する。


 地界が拡張されたという感覚を持ってもある程度は大丈夫。


 という事だった。

 わたし───魔女は外界種でありわたしも外界で暮らしていたので解る部分もあるが、残念な事に “魔女界とその周辺、魔女も関係を持つ種族” についてしか知らない。

 ゼリーが言ったようにモンスターの強さについては地界も外界も似たようなもので、“強いモンスターはどこの世界にいても強い” が答えだろう。


 生活していくと考えれば別に地界でも外界でも “場所さえ選べば” 遜色なく暮らしていける。


「こんな所かい? あ、何を言っても地界と外界では規模が違う。それを理解した上で、共通する点や許容範囲程度の違いを言っただけだ。規模の違いが何を意味してどういう影響をもたらしているのかは、別のトリプル誰かが話してくれる。アタシが言いたい事は、外界だからって必要以上にびびらなくていい。どこの世界にいても危険は隣に、死はすぐ後ろにあるって事さ」


 大小様々な傷痕を隠す事さえしない海賊ゼリーの言葉は妙に説得力があった。

 あの傷全てが外界で負ったものではないだろう。

 それはわたしでもわかる。


「さて、ここからがきっと本番だろう? さぁ次は誰だい?」


 ゼリーはパスするように言い、フォンから酒を取り出し呑む。


「全くキミはいつも前向きだねゼリー。次は僕が話そう! まずは挨拶からだね。僕はギルド【アスクレピオス】のマスター【ケセラセ】だ。僕が話す内容は少々つまらないかもしれないが、小耳に挟む程度でも覚えておくといい。きっと役に立つ」


 黒メインの衣服で上衣がワインレッドの眼鏡男が次のトークマンとなった。



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