【バッドアップル】

◇上の世代 1



 ドメイライト騎士制服を着た爆弾人間と爆発する狼モンスターの群れ───というには多すぎる数をわたしとクゥで一掃した。

 ワタポ達が対面している事は周囲感知の魔術でなんとか拾えたのでクゥに遠吠えをさせ、願い通りワタポはわたしの存在を察し突撃してくれた。

 爆発さえしてくれれば後はどうにでもなる。


 まずクゥには属性攻撃増加のバフを───デメリットもしっかり説明して───かけ、氷属性攻撃を最大まで盛った。

 クゥはダブルSS-S2のモンスター、フェンリルで炎属性と氷属性を持つハイブリッド。温度感知に敏感な針毛は今回大いに役立った。爆弾ヤロウは爆発する前に必ず体内温度が上昇する。それをいち早く感知し、溜めていた冷気を一気に放出させ、氷の壁で爆炎を塞き止める作戦。

 勿論何百とある爆弾が一気に爆発すればその火力は馬鹿げたものになる───が、わたしの剣【ブリュイヤール ロザ】には特種効果エクストラがあり、霧を漂わせマナあるものに寄生するように霧薔薇───蓮に近い花───を咲かせ、そのマナを回復の糧とする霧薔薇竜が扱う攻撃をそのまま武器に転生させたような能力。

 霧の水分さえもクゥに利用させる事で、マナに触れた瞬間にマナを微粒凍結させ、回復の糧にする氷の壁が完成する。

 爆発ヤロウはどういうルールで爆破を付与されたか知らないが、マナに熱を与える事で高圧収縮し、一気に解放する事で爆発を起こす。

 爆炎も黒煙もマナが濃く含まれているからこそ、普通の爆弾より粘土ある性質になり他のマナを求めるように停滞し蠢く仕様になっている。


 これらは騎士シンディが解剖と実験を失敗を恐れず短時間で繰り返した結果。ウンディーに到着した頃連絡があり、今回の対処法に辿り着けた。


 爆撃からワタポ達を拾うには空間魔法しかない。が、わたしはダプネのように空間に特化した知能を持っていない。一箇所に集まっているなら話は別だが対象が散り散りの場合は正確な地形、距離、範囲、それらを的確に予想し演算する必要がある。わたしはこの空間演算が苦手。

 だからと言って別の方法は思いつかないし考える時間もなかったので、能力ディア【多重魔術】でまず自分の知力INTを脳回線暴走手前まで高めるバフをかけ高速演算し、残りの能力回数を全て空間魔法へと回した。

 ここで誤算───というには分かりきっていた事だが、いくらフェンリルとピョツジャの力を使っても、全てをやり過ごす事は数が多すぎた。演算に意識を向けていたわたしはこの当たり前の現実に気が向かず、気付いた時には手遅れとも言えた。


 死にはしないが火傷は確実、最悪手足くらい落ちる。命を拾えるならそれくらいの代償は安いもんだろ、と思ったが代償の高い安いは個人の価値で決まる。何の凄みもない見知らぬ少女が瞳を閉じ手を前に伸ばし突っ立っていた。意味不明な冒険者だ。

 何の凄みも感じない、魔力もカスみたいな量でその魔力さえ使ってる様子のない雑魚冒険者だが、他のビビリ冒険者より───涙を溜めているが───強い覚悟を感じた。

 ここに自分の意思で来た以上、立っている以上は死んでも自業自得だ。

 そう考え切り捨てる事は唾を吐き出すくらい簡単だが、そんな気にはなれなかった。


 騎士学校でわたしの手のひらから溢れた命がある。眼の前にあったのに、手を伸ばす事さえ出来なかった。


 わたしは神様じゃない。全てを救えない事くらいわかってる。

 でも、手を伸ばす事くらいしてもいいだろう。掴める掴めないは───そいつの運だ。



───軽々しく、誰彼構わず手を伸ばす。そういう所が本っ当に嫌い。



 脳裏に響いた声。

 その声が誰のものなのかその瞬間はわからなかったし考えなかったが、INT上昇で走る思考は心を置き去りにするかのように身体へ命令を下し、身体はラグもなく従う。

 ベルトポーチに手を突っ込み、研磨される前の宝石のような歪な物体と、琥珀の裸石を2個握っていた。


 使魔を喰らい糧とする能力【ライフイーター】は、正確に言えば良質なマナ、、を喰らい糧とする。

 空気中に漂う無数無限のマナではなく、巡回している生命マナや発生したばかりのマナが良質。


 本来魔結晶はマテリアに加工したり武具の素材に使用する事で秘めた効果を発揮する。

 しかしこの【魔女の魂】と【魔女の瞳】は全て揃っている状態───魂と両眼が手元にある状態───ならば無加工でもその能力効果を執行出来る。要求される対価は様々で、毎度要求が違うなんて事も当たり前のように起こる。


 その魔結晶を使い、マナを喰らわせる事で持て余していた爆炎と黒煙の処理に成功し、衣服に焦げ痕ひとつなく片付けのは、ものの10分前の事。


 バリアリバルに帰還したのも久しぶりだが、和國で別れた面々と会うのは帰還よりも久しぶりだが、他愛ない会話を楽しむ暇はない。


「爆弾人間がなぜドメイライト騎士の制服を着ているのか......ウンディーとノムーを喧嘩させるためじゃねーのか?」


 ユニオンの大広間でわたしは発言しつつ【琥珀魔女の魂】を撫でる。

 今回、能力執行の対価として求められたのが “終わったら撫でる” だったからだ。

 こんな対価で爆炎と黒煙を消してくれたのはありがたいが、次もこんな対価とはいかない。もし次使うのならば、魔結晶ではなくマテリアへと加工してからだな。


「そう考えると、今回の件を企んでるのはイフリーかシルキって事になるよね? 制服を入手出来ていて、ウンディーとノムーを争わせる事にメリットがあるのはイフリーだけど」


 ワタポの言った通りで、ほぼ間違いなくイフリーだろう。二大陸をぶつけてもシルキには何のメリットもないし、まずそんな事してる暇はないハズだ。

 そうなると、問題はなぜイフリーが今こんな事を仕掛けてきたか、だ。


「イフリーにいる冒険者へ連絡を取り、今後の対応を決めます。数日は警戒を弱めずお願いします」


 ここでコレと言った事が言えないセツカは冒険者達へ頭を下げ、今回は解散に。

 女王が冒険者に頭を下げる行為はどうなんだろうかと思うが、これがセツカでセッカだ。

 各々が拠点───ギルドホームや落ち着ける酒場など───に戻る中、わたしはユニオン大広間のイスに座ったまま散るのを待った。


 大広間にはよく知る面々が残った。


「後で連絡しようと思っていましたが、残っていただけて助かります」


 わたしは用事があるから残っただけだが、急ぎでもないし、まぁいい。


「申し訳ありませんが、皆さんは数日の間バリアリバルに残っていただけると助かります」


「勿論そのつもりで、それを言うためにボク達は残ったんだよ」


 セッカの言葉にプンプンが反応し、他のメンバーも頷く。


「私達ももう新人や下っ端じゃない。それどころか今じゃベテラン冒険者と肩を並べるランクにいる。今までみたいに “誰かがどうにかしてくれる” で放任出来る立場はとっくに終わったって事よね」


 半妖精のひぃたろ───ハロルドが小さな溜息を吐き言った。確かによくよく考えてみると、今までわたし達の代があちらこちらと好きに行けたのは、上の代がノムーやイフリーとの関係を停滞させるようにしていたからだろう。良くはならなくても悪くもならない。自分という “存在” を両国に脅威要素である事を認めさせたうえで、縄張りで眼を光らせる。

 わたし達がいつも終わった後に「冒険者も騎士の喧嘩、冒険者と軍の喧嘩」を耳にしていたのはコレだろう。


 勿論今回のは喧嘩なんて規模ではないが。

 まぁ先輩冒険者達とわたし達の違いもある。

 先輩達は指令───クイーンクエスト───が無い限りは普通に冒険者業をこなす。指令があった場合はギルドなどから適任者を送り出すスタイル。今もここに残っていないのはそれが半分の理由だろう。

 わたし達はセツカとは友人のような関係であり、今まで通りの流れ、、で残っているが、ハロルドが言ったようにわたし達の代も上の代と同じ土俵に立ったという事だろう。実力面も精神面も。


「なーんか面白そうな話しとるのぉ───お? 帰っとったんかエミリオ」


「よぉ、そういえば見当たらなかったな。何してたんだよキューレ───隣のは誰だ?」



 登場した皇位情報屋のキューレへ挨拶を返し、隣にいる男へ全員が視線を向けた。



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