◇555 -魔女の憂鬱-
自分に合うスペックとデザインで生産してもらった専用装備【ナイトメア】を着込み、腰周りには霧薔薇竜の剣【ブリュイヤール ロザ】と対魔竜の短剣【ローユ】を吊るし、ドメイライトの
貴族街と呼ばる3階層には一生用事がないと思っていたが、魔術反動から復活して数日後の今日、
セッカの父であるドメイライト王にはわたしがエミルとして学園に溶け込む事は伝わっているハズだが、他の貴族には全く話していないのだろう。わたしが登場した途端に酷い視線を浴びせてきた。
しかしまぁ、言い訳なんて即用意出来る。わたしは魔女で犯人も魔女。同じ種族の魔力を感知したから飛んできた、と言えばそれで終わりだ。納得いかない───難癖つけたがる───ヤツがウダウダうるさかったので「なら今からわたしとかくれんぼしよう、魔女の魔力を感知出来たら出過ぎた真似したって土下座して靴底舐めてやる」と言った途端に黙った。
当たり前だ。魔女は魔女界以外の場所では様々な手法で魔力だけでなく雰囲気なども隠蔽する。
感知に優れている程度ではまず看破出来ないうえに、偉そうな連中はそういった技術さえ持ち合わせていない。
なんやかんやと噛み付く隙を探していたが、そんなものに付き合う気も暇もないのですぐに王を納得させて切り上げ、今に至る。
帰り際にラトゥールの両親がわたし達へ「息子や娘の分も勇敢に生きてほしい」と言ってきた。
あの言葉から、やはり今回の件に絡んでいた学生達は巻き込まれて死んだ、ではなく、解決しようと奮闘した結果
今回絡んでいた学生陣はみんな家族を騎士団の悪行で失ったメンバー。
元騎士団長のフィリグリーが “悪魔堕ち” に眼を向けた結果、並の精神力では悪魔堕ちさえ危ういという分かりきった答えと悲惨な犠牲で企みは幕を閉じた───ように思えたが、実際は違う。
怨みの種を撒いて終わった。
長年燻っていた種を利用するため、
1席オゾリフは両親を。
2席ウェンブリーは歳の離れた兄と義姉を。
3席ネリネは両親を。
4席アゾールも両親を。
10席ラトゥールは天才と謳われていた兄と姉を。
騎士団が悪魔堕ちを促した事で失った。
9席トゥナの両親もこのメンバーに含まれていたが、タイミングよくトゥナが謎の高熱を出し、2人は任務を辞退したらしい。
他にも、学園の食堂でトゥナに絡んでいた貴族の息子達も家族や親戚を失っている。
遺体も帰らず「悪魔堕ちした愚かな騎士隊」という汚名を着せられた裏では騎士団が計画していた悪魔兵の生産だと知れば、怒りも湧くだろう。
ましてやそこに絡んでいたのが当時の騎士団長フィリグリーと当時から反逆者と呼ばれていたナナミだ。本来ならばフィリグリーはナナミを討たなければならない立場だというのに。
怒り怨みに燻っていた種を発見したのが聖人ではなく悪魔的思考を持つ魔女だったのは不幸の一言では簡単に片付けられないのは......わたしもその魔女だからだろうか。
いや、多分違う。
わたしは単純にこの学園での生活が、出会った学生達が好きだったんだ。
貴族という重苦しく面倒そうな連中の印象を変えてくれたのは学園で出会った連中だ。
全てが終わったらわたしは冒険者へ戻り、学生達は正式に騎士団へ入団するとわかっていたが、それでもどこかで出会った時は仲良くやれる気がしていた。そう思っていたのに、何人かはもういない。
助けたい、救いたい、ではなく、
「本当コレだ......結果が出て、事が終わってうんざりするほど痛感する......」
今までが奇跡だったんだ。
アスランと出会い、冒険者になる事を決めてからこの街を出た。
それから色々な事に直面した。
それでも今わたしは生きてる。死んでほしくない人達も多く生きてる。
それが当たり前だと思っていた。
クラウンが襲来した時、雨の女帝としてルービッドが救えない状態になった時、気付くべきだったのかもしれない。
今までのは実力で手繰り寄せた結果ではなく、運が招いた奇跡的な結果だったという事に。
「......全てを求め掴むには、わたしの
琥珀の魔女シェイネの死は既に魔女達に伝わっているだろう。フローも知っているだろう。
わたしがシェイネを殺した、と伝わっている事だろう。実際はシェイネの自爆だったが。
天魔女はわたしが記憶の解凍を済ませた事も気付いただろう。
今まで以上に、この手で掴めるものが少なくなるかもしれない。危惧を産む危険を充分すぎるほど孕んだ魔女達が動き出すだろう。
なんせわたしが殺した事になっているヴァル魔女、宝石魔女のひとりだ。
瞳も魂もわたしの手にあるうえ、何よりもわたしの
魔女という種族ならば喉から手が出るほど欲しい代物がわたしだ。
「......シェイネを殺したのはわたしという事にさせてもらおう。その方が説明の手間も省けるし、挑発に使える」
魔女界で漁りに漁った知識も凍結されていたが、今回解凍し取り戻した。そのおかげで四属性の創成魔術も使えた。創成魔術の組み方も思い出し、出来た。
あの頃はまだ魔女子だったので知識を持っているだけ、曖昧な理解、応用力も低く、根本的な実力が足りなかった。
でも、今は違う。
応用と発想で知識を使うんだ。持っている知識も冒険者として得た知識も全部。そして自分だけの色や形にするんだ。
色魔力を自分のスタイルで使い熟す。
この意味が今やっと理解出来た、感覚的にも掴めた。
変わらなきゃならない。自分も、人も、時代も、全部。
変化というものは必ずしも良いとは限らないし変化するのは難しく、怖い事だ。
それでも、変わらなければ繰り返すだけなんだ。
その為にわたしは───力を求める。
「やるべき事が決まった......か」
のうのうと生きていくのは終わりだ。
まずは───ダプネ。
お前とちゃんと話がしたい。
◆
黒を基調とした新たな防具。
肌の露出が断片的に多いのは少々気に入らない様子だが、装備した際の違和感の無さ───馴染むような着心地と求めている性能に、
武器は素材が足りないという生産にはついて回る現象。素材集めはリリスが引き受けてくれた事にダプネは驚いたが、彼女の目的の過程で素材が入手出来るらしく、頼む事にした。
「似合うじゃなーい! ダプネ」
「酒呑童子か。お前は本当に
酒壺を抱き、
「武器はもう少し待ってね、酔が醒める頃には素材集まるだろうし」
ひっく、と絵に描いたような酔いっぷりを見せる酒呑童子。鬼を酔わせるだけの酒とは相当な品だろう。
「わたしも素材集めくらいする。何が足りない?」
「ひっく、えーっと、あとはリリスが持ってくる素材だけだよ!」
「そうか」
「楽しみにしててよ、ダプネが言ってた
ふらふらとした足取りで酒呑童子は自室───現在拠点としているノムー大陸の建物にある工房へと潜る。
酒呑童子は指折りの鍛冶職人であり、銀細工師でもある。
酒が好きすぎるという鬼の性が玉に瑕だが、ダプネも最近慣れ始めた。
「呑み過ぎるなよ」
「はいうぃー」
危うい呂律で返事し、酒呑童子は去った。
「髪も邪魔だな......リリスが戻ったら切ってもらうか」
ダプネは鏡に写る自分の顔が、苦しそうでとても見ていられなかった。
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