【導火の序章】

◇556 -導火の序章-



 運を操作する能力ディア【ギャンブル ファンク】。

 操作といっても完全に操れるワケではないうえに運命など壮大なものではなく、運。

 自分が求める結果を “大アタリ” とし、欲望の代償として “大ハズレ” が自動的に用意される。

 判定ゲームは使用者が用意───想像───する事でスタートする。


 具現化系にも思えるが本質は操作系。


 この個性的かつ繊細な能力を用いて今まさにある賭けを行おうとしている人物は、繊細さとはかけ離れている態度で。


「全賭けが基本やろ。大勝負といこか」


 1枚1万ヴァンズの硬化を300枚、300万ヴァンズを極振りする男性。その行動に他の客がどっと湧く。無謀にも思える賭けを堂々と行う男性の名は【アスラン】、Sランク冒険者であり元デザリア軍の隊長はイフリー大陸の異変をいち早く察知し、調査という名目で灼熱の大陸に来て数ヶ月が経過していた。


 エミリオがシルキ大陸へ渡る数日前からイフリーに潜伏し、エミリオが騎士学生を終えた今も、アスランはイフリーに。


 今、彼が居る場所は【モンスターパレード】と呼ばれる闘技場で、人間にとっては気楽な賭博施設、娯楽施設だが、人間以外は全てモンスターという扱いで無理矢理試合させられる───この大陸では合法になった───闘技場。


 アスランが賭けたのは巨体に棍棒を持つ【ラオブミノス】だ。

 略奪種と呼ばれる彼等亜人へアスランは闘技硬化を全賭けした試合が、今始まった。





「............やってもうた」


 額に両手をあて、がっくりと肩を落とすアスラン。試合の結果はラオブミノスの敗北。

 それもそうだ。相手はこの闘技場でSレートを与えられたエース、ラオブミノスは天地がひっくり返っても勝てない。


「なんやねんアイツ......モンスターやないやん......人やろ絶対......」


 300万vが11秒で溶けたアスランは先程の試合にやはり納得いかない様子。

 それもそうだろう。ラオブミノスは亜人型モンスター。しかし、先程の相手は見た目は獣寄りだが表情などは人のそれと変わらない雰囲気があった。


 しかし、この闘技場【モンスターパレード】では人間以外は、、、、、全てモンスター、、、、、、、

 人権を与えられている○人族さえも、人間ではない以上モンスター以外の何者でもないのがここのルール。


「アスラン、また賭博してたのか?」


「お? アクロスもやるか?」


「いや、俺はいいや。ここの “ルール” は肌に合わない。それよりせっかくカイト君達が助けてくれたのにこんな所で遊んでたらまた軍に捕まるぞ」


「捕まらん捕まらん。次追ってきたらどつくって上に伝わっとるやろ」


「だからヤバイんだろ......追ってきた軍人をボコボコにしたんだぞ? 黙ってるワケないだろ」


「いや俺だけやないやん? アクロスも3、4人、ボロ雑巾みたいにどつき回してたん見たで?」


「あれは仕方ない。アイツ等って加減知らないから黙ってやられると、な?」


「デザリア軍はそうやって育成されるからなー。対象に加減もクソもいらん、死なない程度黙らせてから連行するのが基本っちゅー教えが根深い。どこの誰が指揮棒握っとるんやら......」



 ウンディー大陸の冒険者、アスランとアクロスは他の冒険者達と共にデザリアの現状調査を行っていたが、過激に苛烈を混ぜたような現状のデザリア軍の手によって、同行していた冒険者達は大怪我を負い、早めにウンディーへ帰還させた。


 デザリアの現状調査というクエストはここで終わるべきなのだが、2人はこのままデザリアを放置すると必ず火種をばら撒く、と判断し、軍の指揮をとる者の存在だけでも確定的なものにしようと残った。


 イフリーの支配者、デザリア王が不在になり1年。様々な権力者───貴族など───が玉座を狙い、裏の治安は最悪を極めている。

 そんな中で軍人の手綱を握った存在Xは、王不在をいい事に好き勝手を通し始めた。


 この賭博【モンスターパレード】も合法としたのはその存在X。

 他にも様々な違法を合法へと塗り替えつつ、ノムー大陸を牽制するような行動を続けている。


 ノムー大陸を支配を企み、その過程でウンディー大陸の支配を拾うつもりで、最近噂にあがるシルキ大陸も視野に───四大陸を、地界を支配するのが存在Xの目的である事は疑う余地もない。


 忠誠を誓わない軍人───言うことを聞かない者───は牢へ投げ込まれ、更生というなの拷問。それでも忠誠心が芽生えない者は不穏分子と判断され容赦なく殺害された。

 力よりも意思、手足のように動く駒を求める存在Xは国民の中にそういった意を持つ者は大歓迎し、言うことを聞かない軍人は速やかに掃除。


 今のデザリア軍は全員が存在Xに忠誠を誓った駒という事になる。





 イフリー大陸、首都【デザリア】は綺麗に分割された街。綺麗、、という表現は美しいではなく、キッチリと、の意味から使われている。

 ノムーの首都【ドメイライト】やウンディーの首都【バリアリバル】とも引けを取らない広大な街は、力の差、貧富の差、生まれ持った価値の差を痛い程ハッキリと現している。


 綺麗な建物が多く並び王宮や軍が高く広く建つデザリアの街───の裏には鉄屑や燃えカスが山のように破棄された【ラビッシュ】が隠されている。軍区と呼ばれるデザリア軍が管理しているエリアにその【ラビッシュ】は散らかるように広がっている。


 現在のデザリア軍にて圧倒的な力を持ち、実質支配者とも言える存在は綺麗なデザリアの街を一望し、背中に広がる小汚いゴミ山へ視線を向けると、喉を鳴らして小馬鹿に笑う。

 破棄されたばかりのゴミを漁る人影。

 ラビッシュで生活する人達はゴミ山から使えるものを探すのが日課とも言える。

 そして、ラビッシュで生活さる人達は人間ではなく、ゴミ。人権はおろか命さえ無いものとされている。


「おい。あそこのゴミ共と、中のゴミ共も連れてこい! そうだな......100程度でいい。そこのお前はモンスターパレードから300匹程連れてこい! 犬型が理想だな」


「「ハッ! 今すぐ」」


 ひとつの眼球に、、、、、、、複数の瞳、、、、を持つ女性───現在デザリア軍の指揮を取る、燃えるような赤髪の女性は真赤な唇を歪め、ククク、と喉で笑う。歪んだ威圧感を鋭く飛ばす切れ長の眼は支配欲を滾り燃やす。


「ウンディーの冒険者ネズミが我が国へ土足で上がったらしいな。熱いお礼をお送りしよう。そこのお前、今すぐドメイライト騎士の制服を用意してゴミ共に着せろ!」


 女性は【オルベア】と名乗り、邪魔する者を片っ端から燃えカスにし、今の座へついた好戦的かつ底の見えない圧倒的な力を持つ存在は、焦げた血肉の臭いと混乱を好む。


「ドメイライトには50......いや、30でいい。残りはバリアリバル。我々は隊を編成しろ! 準備が整い次第、食事戦争だ」


 長年誰も燃やそうとしなかった導火線へ、オルベアは焚火へ火をくべるよう楽しげに言い、グロリオサの種をクチへ放り噛み潰した。





「フィリグリー、今デザリアで胡座あぐらかいてる女を知ってるか?」


 艶消しの黒長髪を束ね、ラフな格好でソファに座る男性。トリプルSSS-S3指定の犯罪者であり【レッドキャップ】のリーダーの【パドロック】はタバコを咥えながらダーツを楽しみつつ質問した。

 投げ飛ばされたダーツの矢は見開かれた眼球へ見事に刺さり、うめくようにが揺れ倒れる。


「おいおいおいおい、的が倒れてどうする? なってねぇ、なってねぇよお前ら」


 フルーツに突き刺さっていたナイフを抜き、矢の的とは違う的へとナイフを投げた。


 縛られた的───人間───はレッドキャップを追っていたどこかの冒険者ギルド。

 フィリグリーが全員を殺さず捕らえ、尋問も終えたのでパドロックが暇つぶしに利用していた。


「いや、私にはわからないが......先日拉致したデザリア軍の者なら知っているかもしれない」


 フィリグリーの返事にパドロックは口笛を鳴らし、


「いい仕事するなフィリグリー、早速そいつに話を聞きにいく。お前には引き続き駒の調達、、、、を頼みたい」


「了解した」



 戦力はパドロックとフィリグリーで事足りると本人達も断言しているが、捨て駒はいくらあってもいい。


 四大陸や【クラウン】を真正面から相手にする必要はないが、魔結晶塔、、、、が出現した際は十中八九戦闘になる。

 その時、捨て駒があれば動きやすくなる。

 そのための駒は既に100を超えているが、犯罪者は掃いて捨てるほど存在する。

 利用出来るものは利用すればいい。

 舵を取る必要はない。

 ただ【レッドキャップ】がケツを持つ、と言えばあとは好き勝手やって勝手に死んでいく。

 一瞬でもメンバーになれた気分を味わえるんだ。感謝してほしいもんだ。



「導火線に火をつけるのは誰になるか......」



 外界の地図を開き、パドロックは地図にタバコを押し付けた。



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