◇524 -10日目、騎士団本部へ-



 イフリー大陸で略奪種の討伐任務につき、ノムーへ帰還してから5日が経過した。この5日間は......ダラダラ過ごしてしまってコレと言って何もしていないわたしエミルこと天才魔女エミリオ。

 任務報告やら授業やらは一通りやっていたが、潜入クエストについての活動は何もしていない。


 今朝アスランからメッセージが届き、カイトウヤが上手く動いてくれたのはありがたかった。アスランの事が心配で心配で潜入クエストどころじゃなかったので、わたしの5日間を潰してくれたアスランには今度しっかりお礼してもらうとして、問題はアスランが捕まっていた理由だ。

 今イフリー大陸には王が不在。

 玉座───権力───を狙ったカス虫みたいな貴族共が次々とデザリア軍を私物化しようとしているらしく、アスランはちょっと行き過ぎた反発をしてしまったらしく逮捕されていたと。軍人の数十名も同じく。

 王の不在とまとまりの無さを知ったトウヤが「現状イフリーでは正しい裁きを下せるヤツがいないなら、脱獄くらいしても問題ないだろ」と言い、確かに、という事で脱獄したらしい......これ考え方を少し踏み外すと「正しく裁きを下せるヤツいねーからイフリーでは殺しOK! PK万歳!」ってなるだろ......早いとこ王様が決まればいいのだが、意味不明な貴族が玉座にあぐらをかけば地獄になるだけか。


 ここらの報告はセッカにもしたみたいだし、まぁあっちでどうにかするだろう。

 こっちはこっちで上手くやるから頑張れよセッカ。


 と、胸中で言ったものの、完全に足踏み状態だ。


「あぁ〜〜〜......とりあえず資料庫あさってくるか」


 今回の件に関しては180パーセント資料などない。が、ここはドメイライトだ。

 レッドキャップ、クラウン、その他犯罪者や女帝などの報告資料がある確率は高い。

 またまた脱線している感じがするが、足踏み状態では脱線もくそもないだろう。


「フム......騎士団本部の2階にあるのか」


 案内板で資料庫の位置を確認し、騎士団本部へ向かう。騎士ならば何もなく入れるが騎士学生と言ってもまだ正式な騎士ではないので、学生証を提示しなければならない。勿論わたしは持っているので問題ないがどんな資料を探しているか聞かれた場合の言い訳を考えておかなくては......、とウダウダしてる間に騎士団本部へ到着してしまった。


「あの、入っても?」


 と門番的な騎士へ学生証を提示し尋ねると、


「どうぞ、このまま真っ直ぐ進んだ先に大扉があります。その扉に向かって左側のお部屋でお待ちしておりますので」


「え? あ?」


「どうぞ」


 と、謎の返事と共に本部へ入る事を許可された。わたしの目的地は資料庫であって、その大扉の左の......その辺りではないのだが、よくよく考えるとこれは騎士団本部を徘徊するチャンスだ。

 騎士に止められ文句言われても、アイツが入れてくれてアイツの説明が悪いから迷った、とか言っとけばいいって事だろ? このチャンスは大きいぜ。


「サンキュー、んじゃ入るぜ」


 こうしてわたしエミルはドメイライト騎士団本部に足を踏み入れた。


「おぉ......すげーな。城じゃん 」


 城のように大きく、清潔感のある外装。

 行き交う騎士は各々の隊マークを持ち、武器の種類も違う。防具は統一している隊や最低限の決まりがある隊、完全自由な隊と、隊長の性格が見える。しかし全員が必ずどこかに同じマークを2つ持っている。

 ひとつは【盾枠に翼持ちライオンのシルエット】のドメイライト騎士マーク。

 もうひとつが初見の【正八角形枠に山とも岩とも石ともいえるマーク】だ。


「あのマークはノムー大陸のマークだよ。形は同じだけどウンディーは水、イフリーは火って具合に違うんだよ」


「ほー、だからみんな───!? ......はぁ」


「うわ! ひっどーい! エミルちゃん今こっち見て溜め息ついた!」


「あーあー近くでうるせーぞ、残念女」


 わたしの思考を読み答えてきたのは騎士の残念女、名前は......無い。


「つーか騎士様がこんな時間になにやってんだよ。仕事しろよ」


「残念! 私はさっき任務を終えて帰還しましたー! ってそれを言うなら学生がこんな時間にこんな所で何してるの? まだ午前中なのに、エミルちゃんはおサボりかな?」


 やっぱなんかコイツ嫌いだ。


「ま、学園にはこちらから言っておくから行こ行こ」


「勝手に行けよ。わたし資料庫に用事あるからじゃーな」


「え? 資料庫は中隊長以上の許可証がなきゃ入れないよ? 書庫は一応学生も使えるけれど地下書庫は最低上級騎士隊長の許可が必要になるよ? ちなみに私は特級騎士隊長であり大隊の時は治癒隊の隊長だよ!」


 な......んだって? 隊長って言葉が多すぎてワケわからんぞ......。簡単にいうと雑魚は自由に入る事も許されないって事か? そんなん言われたら益々入りたくなるし、コイツが隊長クラスなら、


「お前の許可あればいいって事だろ? 許可くれよ」


「お前って呼ばれるの嫌だなぁー。シンディちゃんって呼んでくれると嬉しいなぁー」


「残念だったな! お前の事は死んでもお前って呼ぶわ!」


「残念ってそれ私のじゃん......まぁいっか。ついてきて」


 いいのかよ、と思いながらどこへ向かうかもわからないままついていくと、さっきの門番が言っていた部屋に到着する。

 普段なら死んでもついていかないが、ついてきてやったんだ。後で許可のひとつやふたつ出してくれないと暴れるぞ。


「連れてきたよー」


「ご苦労」


 そこにいたのはドメイライト騎士団 団長のレイラだった。


「団長様も暇なのかよ」


 長くなりそうな雰囲気を感じたわたしは、あからさまに不機嫌な顔をして何も言われてないのにズカズカ進みイスへ座る。


「私は団長代理だけどね。それで、10日程経ったがどうだ?」


「どうだって、お前らこの眼鏡通して見てんだろ?」


 わたしが今装備している眼鏡は視力矯正品ではなく、眼鏡が見たものを登録済みのフォンへ映像化して送るもの。イフリーでデザリア軍人が爆発したアレも既に騎士団長やセッカ達に伝わっているという事だ。わたしが使った魔術【リバース モーメント】ももれなく。


「レイラが聞いたのは “怪しい人や気になる何か” があったかい? って事だと思うよー」


 怪しいヤツは......別にいない。気になる何かは......


「......席次」


「「 ?? 」」


「4、5、6、の席次のヤツは何してるんだ? 略奪種任務に駆り出すべきだったとわたしは思うぞ?」


 あの任務は結果的に成功したが、わたしが【バーバリアン ミノス】を連れて行かなければ危なかっただろう。もっと言えばデザリア軍人が短剣を狙っていなかったらわたしも危なかった......どう考えても戦力不足。

 わたしはこんな場所で死にたくないし死ぬ気は無いから、マズイ状況なら悪いけど普通に魔女力ソルシエールを使うぞ。


「バリアリバルでこの任務を持ちかけていた時、四席が行方不明に。続いて2日前に五席が行方不明になった」


「は? って事は行方不明者は20人になったのか?」


「残念ながらそゆコト。ひとりは剣術、ひとりは魔術が得意だったうえに2人とも男子生徒で席次持ち。それが失踪したって事なんだけど、どう思う?」


 剣術型が10名、魔術型が10名の合計20名が行方不明、そして全員男子生徒......サキュバスでもいんのか?


「席次持ちって騎士入ったらどのレベルなんだ?」


 ここは結構重要だ。そりゃ最初は新米かもしれないが、成績だけで考えたらどれ程の実力を持っているのか。


「そうだな......失踪した四席と五席は中級隊レベルだろう。冒険者でいう所のAに近いBクラスだろうか」


 まぢかい。結構すげーじゃん。って事は他に失踪した学生はBなりたてくらいのレベルか? 一応剣術や魔術で良さげな成績だったし。実戦で使えるかと言えば、使えないとは思うがそれは経験値の問題であって、戦力面だけを見たら全然使える。

 犯人は経験値でなく戦闘力で選んでるって事で間違いないだろうな。目的が全然わかんねーな。


「席次ってどうやったら貰えるんだ?」


「......本気か?」


「え? いや騎士になる気はねーよ? ただわたしが席次をゲットして強いアピールすれば犯人のタゲ向けれるかもしれないじゃん? それが一番早い気がするし」


 一瞬ピリッとした雰囲気を醸したレイラ。怒った時や覚悟を決めた時のワタポにそっくりだ。


「いいんじゃない? エミリオちゃんなら魔術使えばすぐだろうし!」


「んや、剣術で取る。んで魔術もすげーって見せりゃ100パー犯人のタゲになれんだろ? だから席次の取り方とついでに資料庫の許可くれ」


「席次を甘く見すぎだなエミリオ。でもまぁ、言っても無駄な性格というのはヒロからも聞いてる。やってみるといい。それと資料庫にはエミリオが欲しがる情報はないと思うよ? 有名犯罪者のデータはウンディーと共有していて、ウンディーの方がその他犯罪者のデータは多い。モンスターに至っては騎士団やユニオンよりも【マルチェ】と繋がっているモンスター図鑑を作製しているギルドの方がいいと思うけど......それでもいいなら許可を出そう」


「まぢかいな。それならいらねーな」


 なんだよ。資料庫とか言うからレアな資料やヤベー資料あると思ったのに......ユニオンにもあるならいいや。そっち漁った方がいいし。騎士団の歴史的なモンには興味ねーし、、、


「、、、なぁ、ひとつ教えてくれ」


「席次の取り方かな? それは確定的なのはないけど、席次を目指す人ならみんな知ってるコトだし全然教えるよ〜? なんならウェンブリーに聞いてみるのも手だし」


「いや、お前らに聞くのが一番早い事だ」


「なんだ?」

「ナニナニ?」



「元騎士団長───フィリグリーって強いの?」



 騎士団で誰も名前を出さなかった男。

 現在は【レッドキャップ】にいる騎士にとっては極悪な裏切り者であり、騎士団最強の男。

 下手なヤツに聞くより、この2人に聞いた方がより正確な情報が手に入るだろう。


 いずれぶつかる事もあるだろうし、キューレじゃないが情報は武器になる。


 あの悪魔ナナミンが負けた相手の情報が欲しい。




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