◇523 -蛮牛種の英雄-
崖を突っ走るという自殺ミノスの肩にしがみつき、わたしは魔力を感知した。魔力の量や質から障壁系である事は簡単に予想でき、案の定ラオブの突撃を障壁が受け止めていた。
障壁が破壊されるまで辿り着けるか不明だったので、一応ラオブに速度減少デバフをかけるべく、ちょっとした魔女戦術を使い見事ラオブ達にスロウを付与出来た。
そして───
「よっしゃあああ! 勝利の雄叫びあああああー!」
「「「オオオォォォーー!!」」」
ラオブミノスを我が軍勢バーバリアンミノスが討ち取り、極悪非道な略奪種を討伐してみせた。
バーバリアンズには様々なバフを付与していたとはいえ、勢いとパワーで押し切れたのはコイツ等のメンタルが強かったからだろう。いくら強化補助を使ってるとはいえ一度ボッコボコに負けた相手に挑むというのは並のメンタルでは難しい。
逆境を越えたキーが何なのかは知らないが、勝利は勝利だ! 略奪種相手に卑怯もクソもない。
「エミル! 無事だったみたいだね。デザリア軍の人は?」
略奪種【ラオブミノス】との乱戦が終了し、フォンのドロップアイテムポーチに入り切らないドロップ品が周囲に散らばる中をウェンブリーは進みわたしの無事を確認する。
「デザリア軍人の事は後で話す。それよりそっちもみんな生きるな?」
「前衛先頭に立ってくれていた騎士様は怪我をしたけれど死者はいないよ」
「めっさすげー数に囲まれてたのに全員生きてるって奇跡だな」
「本当だよ......それよりエミル、あのミノス達はなんだい? 害がないなら説明を早くした方がいいぞ?」
ウッホウッホ盛り上がるバーバリアンミノスを見るウェンブリーの眼は呆れている感じだが、他の騎士達は敵意の視線を送っている。害はないが説明も何も......わたし自身バーバリアンミノスの事をよく知らないが放置するワケにもいかんな。
「ボスババ、肩乗っていいか?」
「イイド、オデ、トモダチ」
「はいはい友達な。んじゃ乗るぜ」
ボスババ───バーバリアンミノスの
「よう雑魚共、無事か? ここにいるバーバリアンミノスは敵じゃない。略奪種に住処を奪われたって言ってたから一緒に略奪種討伐しようぜって持ちかけたらこんな関係なった」
「オデタチ、エミ、トモダチ。エミ、バーバリアン、エイユウ」
「エイユウ!」「エイユウ!」
突然の英雄コールはわたしもビックリしたが......悪くない。世界を救った勇者の気分だぜ。騎士学校なんて今すぐやめて年金的なノリの勇者給金や英雄金で生活していきたい。
「で、エミル」
鶏みたいな髪型を揺らすヒガシンがクチを開く。トサカヘアーが少しシュンってしてる事から結構大変な戦闘だったんだろう。実力的にというよりは数的に、だろう。その数を少しでも補うために、ヒガシンの隣にいる冒険者───!?
「バーバリアンミノスだったか? そのバーバリアン達をどうするんだ?」
ヒガシンの言葉がわたしの耳に全く届かない。隣にいる冒険者2名、知ってるヤツじゃん! 他の冒険者は知らんけど、そこの眼帯とヨツミミはフレじゃねーかよ! ヨツミミ───カイトの方は友好的だしすぐ友達出来そうだけど、眼帯───トウヤはぼっちオブぼっちだろ!? 全然知らん討伐パテに参加するとは思えないが、ここにいるって事は参加したんだろうし......あ、盲目で見えないからパテとかどうでも〜って、んなワケねーよな!
極秘任務で学生やってんのにここでバレたらおしまいだ。こうなったら闇魔術で直接頭の中に叫んでやるしか───
「なーんかあの学生、どっかで見た事あるような......」
「お前もそう思うかカイト。俺も何かが引っ掛かるんだよな......サイズ感か? いや態度というか......」
「でも雰囲気はあの学生の方が清潔感あるというか、知的というか......」
「男子制服だし違うか......いやでも似てる......」
おん? ヘソお前、おん? 今のはエミリオさんは不潔でアホみたいって事を言ってんのか? おん? 耳の中にタンポポの綿毛入れるぞテメー。ついでにワタポもその耳に入れるぞコラ。
「気になるなら後で話しかけてみるといいッスよ。ラフなヤツだし大丈夫ッスよ」
ナイスヒガシン! 話しかけてもらえると色々やりやすい! んで、ついでにこのバーバリアン共をどうすべきか教えてくれヒガシン。
「このバーバリアンは......もうちょいダベって住処に帰るから安心しろヒガシン!」
「ならいいけど、まぁ今日は疲れただろうし後は俺達でやるからジブチアチ戻って休むといい」
どこを拠点にしているのか会話の中で言い、2人に伝える作戦。見事だなヒガシン。
「んじゃわたし達は先にどっぷり休ませてもらうぜ。頑張れよヒガシン」
バーバリアン達にも住処へ戻るよう言いつつ、人を怖がらせたり迷惑かけたりしないよう伝えた。元々人とはそれなりに上手くやっていたらしい。何か困った事があったら力を貸すとバーバリアン達が言ってくれたのは素直に嬉しかった。
◆
夕方から夜にかけて任務───クエスト───をスタートさせて数時間で終わった。まだ良い子も寝ない時間帯に自由行動とは騎士団も中々わかってる。
とは言え体力的にはまぁまぁな疲労なのだろう、ウェンブリー達は宿で疲れに身を寄せて出かけようとしないので、チャンスだと踏みわたしは冒険者へメッセージを送り、密会する事にした。
ジブチアチの観光区ではなく村で待ち合わせ───と言ってもわたしが行った頃には既に2人は来ていたが。
「さっきはおつかれ」
「───......やっぱエミーだったか、おつかれさん」
わたしの声に返事をくれたのは
「やっぱわかる?」
帽子なし、髪色変更、衣服変更、程度では知ってる人なら見抜けるのか不安になってしまったが、
「あの言動をみたら引っ掛かる程度だったから、そんな簡単にはわからない」
カイトの友人で亡霊のように和國にいたトウヤが答えた。言動には気をつけて任務遂行しよう、と心に刻み、本題へ入る。
「冒険者も略奪種討伐のクエか?」
「も、って事は騎士にもそういう依頼あったんだな。でも俺達はついでだよ」
「ついで? イフリーに来た目的は?」
何だか冒険者に目的を聞くこの感じ騎士っぽい。カイトが話すらしくトウヤはクチを開かず、でもちゃんと聞いてる......コイツら妙にバランスいいな。
「俺もトウヤもデザリア出身......出身......とは言い切れないが、まぁ物心ついた頃にはデザリアにいたんだ。それで今回は今デザリアがどうなっているのか、イフリーはどうなっているかを見たくてね」
「ほー。んじゃさ、過酷なお願いしていいか?」
「過酷?」「お願い?」
過酷という部分に反応したのはトウヤで、お願いという部分に反応したのはカイト。眼を向ける部分がいい感じに違う2人だ......ひとり眼見えてないだろうけど。
「さっきデザリア軍人と戦闘したんだ。お互いソロでな。んで、デザリア軍が突然爆発して死んだ」
「はぁ!?」
「んでな、冒険者のアスランや軍人の一部がデザリア軍の本部にある地下牢に捕まってるらしいんだ。詳しい理由は知らんけど、助けてやってくれ。2人して牢は得意だろ?」
シルキで牢に入っていたカイト、存在が牢屋みたいなトウヤ。プロの中のプロと言っても過言ではないだろ。
「なんかその言い方すげー嫌だな......でも聞いちゃったら無視できないし、助けられるかはわからないけど探ってはみるよ」
「だな。無理に動いて捕まるのは嫌だけど、一応デザリア軍の動きには眼をつけておく」
「眼見えないのに悪いな盲目。ヘソも頼むぜ。今度ちゃんとお礼するからさ! んじゃわたし戻るけど騎士ってる事は秘密な! 一応極秘クエなんよ」
この2人かペラペラ言ったりしないのはわかってるが、一応念押ししつつデザリアの件も任せてわたしは宿へ戻る。
アスランが何で捕まってるのか不明だが、わたしが今優先してやらねばならない事は騎士学生の失踪調査と可能ならば解決する事......そのためにわたしは男子生徒として紛れ込んでいるんだ。
犯人の対象となるのは強めな男子生徒っぽいし、ノムー戻ったら少し派手に学生生活を謳歌しようではないか!
アスランの事は心配してるぞ? だが今わたしは学生生活を謳歌しなければならないんだ。これが仕事なんだ。悪いなアスラン。
「明日ノムー帰るっぽいし、ついたら資料庫いってみっかな」
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