◇525 -星賭戦-
フィリグリー・クロスハーツ。
騎士貴族の家系で大昔からクロスハーツ家は騎士としてその名を轟かせてきたが、戦争などで命を落とす事もあり、今となってはクロスハーツを持つ者はフィリグリーひとりだが、それを全く気にする様子もなかったという。
実力面は相当高く、歴代の騎士団長───全てクロスハーツ家らしいが───の中でもトップクラスの実力を持っている。【レッドキャップ】のリーダーとの接点は、騎士と犯罪者という関係でよく戦り合っていたらしいが毎回決着はつかず終わっていた。
と、レイラ達から聞いたが、同時にこんな事も言っていた。【レッドキャップ】のリーダーとの戦いが殺しか拘束でしか決着にならないとすれば結果は出ずに終わっていたが、どちらが優勢だったかで見れば、フィリグリーは負けだと......歴代騎士団長でトップクラスも【レッドキャップ】のリーダーには勝てないかもしれない、という事実は騎士達にとって絶望的だろう。
実際アイツの能力───パドロックの能力は火力的には全然しょぼいが、フィリグリーのような頭良さげなタイプにとっては脅威でしかないだろう。なんせリンクした相手の思考を完全に読む能力だからな。闇魔術とは違って能力、この違いは大きい。
フィリグリーの能力も知れた。
領域系、時限領域。その中で自分は回復するというものだった。しょぼそうに聞こえたが、これは領域内ならダメージを受けても回復するという事。そしてSFが高まれば時間延長は勿論、防御面にも効果が発揮されるだろう。
領域なのでメリットとデメリットがハッキリしていて、領域展開中に領域外でダメージを受ければ致命的なまでに痛覚を貫通するらしい。
ここから予想して、フィリグリーが能力を使った場合の倒す手段は2つ。
領域内でフィリグリーをオーバーキルする。
領域外に引っ張り出して叩く。
どちらもシンプルで、どちらも難しい。にしてもまさに領域系と言える効果だ。領域内では無敵とも言える性質......“領域はハマれば強い” という特徴にフィリグリー自体の性格やスタイルがピッタリとハマっている。
「お、エミル。授業サボってどこ行ってたんだ?」
「ん? おぉ......首席の───」
オートパイロットで騎士団本部から騎士学校まで戻っていたらしく、首席の......名前は忘れたが主席とばったり。
本部に行っていた事は言えねーし、授業を蹴った理由も考えていないが......まぁ適当に言えば何とかなりそうだ。
「今、空席の席次をかけて決闘してる連中がいるんだが、予定がないなら一緒に見に行くか?」
「席次をかけた決闘!?」
アレコレ聞かず話題を変えてくれたのはありがたいうえに、わたしが求めている席次を強奪するチャンスがある事まで教えてくれるとは、コイツ中々いいヤツだ。
決闘ってたしかあれだろ、意見がぶつかり合って終わらない時にお互いルールを決めて試合するあのあれ。冒険者もよくやるあのあれ。そのあれで席次を決めるって......
「席次って実力は勿論だけど騎士としての態度ってか精神的なのも関係してんたろ!? 勝手に決めていいのか!?」
「優先されるのは実力だからな......ほら、ポルクとかも席次貰ってるだろ?」
確かにそう言われればポルクの言動はわたしとそう変わらない。いやわたしより問題アリだ。それで確か九席。
ならわたしもチャンス大アリじゃね? こうしちゃいられねーぜ。
「行こうぜ! ついでに乱入して席次貰ってやるぜ!!」
「まてまてエミル、そんな簡単じゃないんだぞ!? 大体エミルと席次賭けてやってくれる人なんていないだろう!」
「あ? なんでよ?」
「エミルの成績......実力を誰も知らないんだ。そんな相手と戦う人なんていると思うか?」
「だからなんでよ? ビビリしかいねーのか?」
「明確なメリットがない相手に時間を使ってくれないって事だ。最低でも今月の成績くらい出ないと......」
「んだよ、そゆ事か。まぁ見てろって首席さん」
◆
学園内にいくつかある修練場で生徒達が空席の席次を賭けて決戦を始めた、と。
どれだけ血の気多いんだよ、と楽しくなっていたわたしへ首席は「ルールがあるから喧嘩じゃないぜ。突然襲いかかるような真似だけはするなよ」とわたしをそこらのアクティブモンスターか何かと勘違いしているような発言を念押ししてきた。
ルールがあるとは言え席次を勝手に決めていいものなのか? と思うがそれは言わず修練場へ突撃。2階の観戦エリアには既に何百人という騎士候補生が集まっていて、中央の修練場には2人、ひとりは床に尻もちし、ひとりは剣を向けていた。
「アイツが勝った感じか」
制服の差し色が赤の生徒か勝ち、緑が負けていた。
赤は上級、緑は中級、青は下級。
「エミル、あのモニター見てみろよ」
「モニター? お、ルール書いてある」
フォンをそのまま巨大化させたようは電子板がモニター。バリアリバルのユニオンやちょっといい酒場にはついてる映像や画像を一方的に公開するもので、ギルドメンバーが募集などの呼び込み宣伝の映像やニューオープンした店のCMなどがバリアリバルでは流れていたと記憶しているが......モニターがある建物にはあまり行っていないのでそんなに覚えているワケでもない。
今モニターに映っているのは席次を賭けた戦のルールで映像系ではない。
①
②致命的な怪我を負わせた時点で退学。
③学年問わず、席次審査の条件数星を集める事で審査を行える。
④星を集め終えても同意したならば試合可能。
⑤席次持ちは席次持ちとの試合のみ可能。
......なんか詳しくハッキリ書いてないルールだなコレ。①と②とまぁ⑤もわかる。③と④が意味不明だ。星ってなんだよ。
「首席、わたしって星持ってんのか?」
わからない事は聞けばいい。幸運にも今わたしの隣にはこの学園最強の男、なんとかなんとか がいる。
「その呼び方やめてくれ、オゾリフって呼んでくれればいい。で、エミルは今初期数の星を持ってるハズだ。フォンの学生証開いて名前欄に赤色の星ないか?」
首席改めオゾリフの言葉通りわたしの学生証の名前欄には赤色の星が2つあった。星をタップすると席次審査とやらについての情報が表示される。
どうやら学年で審査条件が違うらしい。他の学年がどう表示されているかは不明だが、わたしのフォンには “上級騎士学生の席次審査条件” と出ている。まぁ下の学年がどんな審査条件かなんて知った所で意味はないのでどうでもいい。
まずこの星を集めて審査をしてもらう行為は席次5から10までしか獲得出来ないらしく、席次が埋まっていたら審査もしてもらえない......って事はやっぱ基本的な席次認定をしてもらうではなく、暫定的というか......まぁ自分から売り込む時点で確定席次とは言えないわな。
席次審査に落選もある。ここまでは予想通りというか納得だ。この審査依頼を出す条件が重要。
①赤星十個を集める。
②赤星五個、緑五個集める。
以上の条件のうちひとつでも満たしていれば審査可能となる。
ふむ。こりゃ①1択だな。②だと席次もらえても低そうだし①の方が審査通過率が違うだろ絶対。
「どうだ?」
「大体わかった。赤10個集めりゃいいって事だろ」
わたしは出来るだけ早く席次が欲しいんだ。そのためには①の条件がより確率が高いのは見てわかる。上中5より上10の方が大変さが違うだろうし。
「オゾリフ、これって試合の順番とかあんの?」
「決まった順番はない。試合後にやりたいヤツがあそこへ立つ。それだけだ」
なるほどな。んじゃこの試合が終わったら飛び降りて赤星を煽るか。
周囲を見て赤星───上級学生の数を確認していると、黒マスクの上級騎士を発見する。
「あ、アイツ10位の......隣にいるのウェンブリーじゃね!?」
「本当だ。アンブルとウェンブリーって仲良かったのか?」
「いや知らん」
試合を見ながら何かを話している様子だが、ま、アイツ等は席次持ちだし星賭けを挑めないのでわたしには関係ない。
「よし、行ってくる」
試合が終わり両者が去った瞬間、わたしは2階から飛び降りる。着地の瞬間に極薄風魔術を使い落下速度を消し羽毛のように着地。そのまま修練場の中央へ進む。
「よぉ、お前ら見てるだけか? ずっと見ててもつまんねーだろ? わたしの星が集まるまで殴られ役やってくれよ」
周囲を見渡しながら大袈裟な仕草を織り交ぜ発言すると、修練場は一気にザワつく。【クラウン】のリーダーであり魔女であるグルグル眼鏡の【フロー】がよくやる、“ふざけた発言と大袈裟な仕草” は予想以上に人を撫でるらしい。これはわりと使えるな。
「おいエミル! 何やってんだよ!」
わたしの名がギャラリーから飛んできたので振り向くと、ウェンブリーが前屈み気味でこっちを見ていた。
「なにって、
2席と親しい、という印象を披露出来たこのチャンスを逃さずわたしは2回目の挑発を行う。すると、
「うるっさいなぁ。そんなに戦りたいなら相手になるけど、キミ星あるの?」
釣れた。
「赤星2個あるぜ、お前は?」
強そうにも見えない男子生徒で武器は......見当たらない。襟の色は赤、上級騎士学生だ。
「ニ個ぉ!? 話にならないよ」
笑いながら言う男騎士は他の上級生よりも若く......いや幼く見える。
「お前何個あんだよ? 全部賭けろよ」
「僕は赤が十あるけど、キミ二つしかないんだろ? 十とニじゃ賭けにならないよ」
男が立ち上がると女子生徒の一部が何やらザワつく。コイツ......モテるのか。ウェンブリーの時は次席だからザワついたと思っていたが、もしかしてウェンブリーもモテるのか?
わたしは魔女、女だが......なんだろう、モテるヤツは男だろうと女だろうと気に入らない
モテるイコール目立つ。わたしより目立つのは許せん。
「わたしが勝ったら8個よこせ。わたしが負けたら星は勿論やる。あとお前のパシリになってやるよ。それと───ウェンブリーの席次もお前にやるよ」
「はぁ!? おいエミル!!」
とんでもない声で驚くウェンブリーを余所に、わたしは話を進める
「どうするチビっ子? わたしに勝てば星も集まるし次席になれるしパシリも手に入る。負けても星が減るだけでゼロにはならない。これでもやらないなら別にいいぜ? 断っても今は馬鹿にしたりしねーよ」
今は馬鹿にしないだけで、この後からは一生馬鹿にするけどな。
「......ウェンブリーは反対みたいだけど?」
「当たり前だろ! 今すぐやめろエミル!」
「なんっだよウェンブリー! わたしが負けると思ってんのか!?」
「思ってるよ!!」
思ってんのかよ!! そこはお前、嘘でも「そうは思ってないけど〜」みたいな......そういうのあるだろ!?
「これじゃあダメだね。僕が勝っても次席になれないじゃないか」
「───なら俺の席次をエミルに賭けさせよう」
割って入るように声をあげたのは───首席のオゾリフだった。
わたしを含む全員がフリーズしたかのように修練場が静まる。
「お前がエミルに勝ったら首席でいいぜ。どうするトゥナ」
トゥナ、というのがアイツの名前か......つーか首席賭けるとか頭オカシイだろオゾリフ君よ。まぁここは黙っておくけど、そんな仲良くないどころか最近知り合ったレベルなのに、絶対イカレてるぞ。
「......言ったなオゾリフ、もう引き下がれないよ」
「問題ない」
おいおいおいおい、何かアイツやる気ってよりオゾリフに対してバッチバチな視線飛ばしてるんだけど大丈夫か? 無駄にキレさせたパターンか? なんでキレてんのよ......
スーパー短気かよ......。
「エミル、だっけ? 星賭戦を受けるよ」
そりゃこの条件なら受けるわな......ま、やってくれるなら何でもいいや。
「おっけ、降りてこいよスーパー短気」
エミルとして使う細剣【フェルシュング】をフォンポーチから取り出し腰へ吊るし、チビっ子を待った。
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