◇521 -蛮牛種-



 スンスン、スンスン、と豚のように周囲の空気を吸い匂い込み索敵するモンスターの群れ。二足歩行するモンスター達はわたしの前で足を止め、うるさく鼻を鳴らす。

 筋骨隆々な牛人で、焦茶の肌と赤い毛。斧や槌を背負う姿は学園3位のネリネがいう所のラグジュアリーなラオブミノスと見て間違いない。


「コノアタリ、スル」


───喋んのかよ!!


 っと、危なくツッコミをぶちかます所だった......1匹のラオブミノスが一際大袈裟に鼻を鳴らし片言で喋り始め、他のラオブも豚のような鼻を広げ匂い感知網を広げる。


「ナカマ、チガウ」


「テキ?」


「テキ、コワイ」


 背中の武器へ手を伸ばし始めるラオブ。両手持ちクラスの武器を片手で軽々と持ち、こちらへ近付いて来る......ここでわたしはハイディングの無能な点を思い出す。

 姿、気配、などを周囲に溶け込ませる隠蔽ハイディングだが、匂いや音は対象外。ラオブミノス達は匂いで感知するタイプのモンスターらしい......という事は、


「ウ! イル、ココ、イル!」


 こうなるワケだ。

 何かがいるとわかった途端にほぼ全員が荒々しい鼻を大小させ、わたしの完璧な位置を嗅ぎ当てようとする。ハイディングをリビールされるのも時間の問題......なので、


「───よぉ」


「!!?」


 こっちから出る作戦だ。

 こっちから出る作戦......こっちから......出てどうする? もう出てしまったけど、これからどうするつもりだエミル。ランクAモンスターを大勢相手にどうするつもりで出たんだ?


「ニン......ゲン?」


「あーっと、まぁ似たようなモンだ。お前らはラグジュアリーなラオブミノスだろ?」


「ラグアリジー? オデタチ、ラオブチガウ」


「オデ、ミノス。ラオブチガウ」


 チガウ、チガウ、と低い声で言い始めるモンスター共。どことなくアホっぽさも感じるミノスの軍勢の中で明らかに体格も武装も、角の大きさも違うミノスがノシノシ前に出てきた。


「シーッ。オデ、ハナス」


 人差し指をクチに当て───何かの骨から作られた仮面のクチ元に当て───仲間達を黙らせる1匹のミノス。赤い毛も他のミノスより長く武装もワンランク上......コイツがボスか。


「オデタチ、バーバリアンミノス。ラオブチガウ」


 言い放ち、呆然と立つバーバリアンミノス。わたしの反応を待っているのか誰も動こうとしないので、フォンを取り出し向ける。

 【ラオブミノス】のモンスターデータは持っている。自分で採取したモノでなく貰ったモノなのでバンクに【ラオブミノス】のデータは存在しているという事。これでコイツらのマナを感知してモンスター図鑑を引っ張り出せば嘘か本当かわかる。


 アップグレードしたフォンは以前よりも素早くモンスター図鑑をめくり、【バーバリアンミノス】を引っ張り出した。


「あら? 本当にラオブ違うな」


「チガウ」



 【バーバリアン ミノス】

 灼熱色の毛と焦茶の肌を持つ熱帯地域に生息するミノス種で太陽光を好む。人のように温厚な性格。モンスターというよりは蛮牛種という種族として認識してよい。しかし本質はモンスターなので結界マテリアに拒まれる。

 群れで行動する温厚で恩義の強い種。言語能力は低いものの理解力もあり、会話が可能。



 モンスターではあるが話が出来るのか......ならばわたしの勝ちだ!


「なぁお前ら、何で地下にいんの? 太陽好きなんじゃねーの?」


「オヒサマ、スキ」


「デモ、スミカトラレタ」


「ラオブキテ、オデタチマケタ」


 ラオブミノスが強襲してきて住処を奪われたのか。これはチャンスタイム到来だぜ。


「わたしは仲間と一緒にラオブを倒しに来た。んで仲間とはぐれたんだ」


 よし、攻めるか。


「わたしはエミ......リオだ。お前らラオブから住処取り返したいならついでに取り返してやるぜ?」


「ホントカ? エミ......リオ!」


「エミ......リオ!」


「エミ......リオ!」


 謎の間隔があくエミ......リオコールを浴びるわたしは既にバーバリアン共のリーダーのように手を上げてコイツらを制する。


「ついでだからな。でもひとつ聞きたい事がある。さっき地上うえで人が爆発したんだ。突然の爆発で意味がわからん......何か知ってるヤツいないか?」


「バクハツ、バクハツ......オデ、シッテル」


「お? まぢか! 教えてくれ」


「ソレ、エンジン」


「......エンジン? なんだそれ?」


「エンジン ノ ジョテイ オルベイア」


「───女帝!?」


 おいおいまぢかよ女帝って......かぁ〜〜、めんっっっどくせぇ相手じゃん。

 エンジンの女帝 オルベイア......オルベイアって確か るーと行った街でだっぷーが住んでた街の名前じゃなかったか?

 上質な鉱石が採掘できる火山の麓にある街で火山の街や鉱石の街と呼ばれてるオルベイア? あそこで女帝が現れたのか!? いや、今現れたワケじゃないか......女帝は確認された場所の名前をつけられる。過去にオルベイアで女帝騒ぎがなかったか調べてみればすぐわかるだろ。なんせわたしは今ドメイライトの騎士学校にいるからな! 資料庫漁れば一発だろ。


「サンキューな、お前らのおかげでヒント掴んだって感じだぜ。んじゃわたしは仲間のトコ戻るから、そうだな......朝になったらジフチアチの近く来いよ」


「エミ......リオ、ドコイク?」


「そのエミ......リオってのやめろよ」


「エミ、ドコイク?」


 わたしはエミって呼ばれるのか。まぁ今はエミルだしいいか。


「この近くの村で仲間がラオブと戦ってる。そこに突っ込んでラオブを倒す」


「ムラ......ムラ、キケン! ラオブロード、イマイル! キケン!」


「ラオブロード? 王様か!?」


 危険どころかチャンスじゃねーか! 王様をぶっ飛ばせば全部終わる。一撃一発一瞬で終わる!


「ロード、ツヨイ! オデタチ、マケタ」


 ほう......って事はヒガシン達の釣り作戦は成功って事か。わたし達の救出任務は残念だが対象が既に死んでいたが......村釣りの方まで失敗するのはゴメンだぜ。ウェンブリー達ももう到着してるだろうし、わたしも急ぐか。


「オデ族共、わたしに任せろ。ラオブを討伐してお前らの住処が帰ってきたら、お前らの英雄としてわたしを崇めろよ?」


 近くまでならバレないだろう、とわたしはフォンから魔箒を取り出した所でオデ族の長が言う。


「......オデタチ、イク」


「あ?」


「エミ、オデタチ、タタカウ」


「戦う? お前らが負けたラオブロードだぞ?」


「エミ、マカセロ、イッタ。オデ、エミ、シンジル」


「......死んでも知らねーぞ?」


「タタカウ」


 骨仮面の下の瞳がたぎっていた───気がした。

 ボス的バーバリアンだけでなく他のバーバリアンも「タタカウ」「シンジル」と言い出す始末。わたしひとりなら村までひとっ飛びだが............だが、まて。

 屈強なモンスター共の軍勢を引き連れて現れるって、めっさくそ格好よくないか? 格好いい。


「......よし、一緒に戦おうぜ! おいボス! わたしを乗せて先頭走れ! お前らはボスに続け! わたしが戦闘準備と言ったら武器を取り勝利への雄叫びをあげるんだぞ! いいな!?」


「「「オオオォォォーー!!」」」


 おぉ〜、迫力やべーなこりゃ。


「っしゃ!! 飛ばしていくぜ!!」



 こうしてわたしはバーバリアン ミノスを束ね引き連れる勇者となったのだった。



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