◇520 -リバースモーメント-



 イフリー産の大盾と片刃の剣は合わせる事で大斧に変形するギミックウェポン。この軍人も当然のように複雑な構造を理解し使い熟している。

 剣で斬りからの盾で突き、回転斬りの要領で大斧へとウェポンチェンジし大振り。この動作がなめらかでいて狙いもしっかり定められている。

 普通の剣でもこの三撃は受けきれないだろう。当然わたしの細剣では不可能だ。


「回避が上手いではないか。噂では剣術や体術が不得意だと聞いていたが......そこそこ出来るみたいだな」


「回避の達人と呼ばれてるからな。つーかわたしが勝ったら何でローユ狙ってるのな教えろよ?」


「勝てたらな」


 一歩で大きく踏み込み、次で大斧を豪快に叩きつける。地面を砕く瞬間、大斧がスパークするように火を上げた......これは......爆破か。

 抉り砕かれた地面の破片と土埃が邪魔をする中で、男は一歩踏み込み斧を水平に大振りし、そのまま斧を地面につけそれを軸に遠心力で身体を投げるように回す。豪快な攻撃と同時に距離を一気に詰める動き───ってヤバ、射程距離だ、


「痛ッ───!!」


 珍しいスタイルに心奪われ夢中で観察していた結果、簡単に射程距離まで招き入れてしまい、斧の大振りを回避しきれずガード───したものの超ヘヴィ級武器vs細剣では話しにならない。武器が折れる事は無かったが刀身ごと左腕を押され、斧を引き払った時に肉を斬られた。

 飛び散る血液が落下する前に垂直の一撃が降り落ちてくる。遠心力を上手に利用し、全身で振られる斧は予想よりも遥かに速い、が、剣術ではない。

 降り落ちる斧をターゲットに五連撃剣術【ホライゾン】を撃ち込む。無色光纏う刀身をまずは横から叩き込む。わたしが生み出した剣術【ホライゾン】は五連撃で、初動も軌道も自由自在。縦からでも横からでもスタート出来るチート剣術───だとわたしは思っている。

 風魔術を左腕に纏わせ、剣速を無理矢理加速させた【ホライゾン】はなんとか斧の軌道をそらす事に成功したも。しかひ無理矢理な速度上昇と左腕の傷、剣術ディレイによりわたしはすぐに行動出来ない。予想だと弾き飛ばすくらいは出来ると思っていたが、これは予想外。


「まぁ余裕だけど」


「何が余裕だ! 剣術で一気に───魔術!?」


 風魔術を腕に纏い、剣術の剣速を上昇させた。これで魔術と剣術は使った事になり対価として一時的硬直ディレイが発生する。この読みは正しい......が、わたしは魔女だ。剣術に対しては大正解でも、魔女に対しては基本も常識も、お前らが思う例外さえも通じない事の方が多い。

 和國でわたしは自分の剣術と体術......近接のショボさを文字通り身を持って知った。防御の雑魚さも痛感した。でも残念ながら今から近接を極めるとなれば相当時間が必要で、わたしはコツコツ努力するという行為が大嫌いな超天才型なんだ。

 自分の手札と天才的思考を持つエミリオ様の閃きが導き出した、地味だが素敵な魔術を見せてやるぜ。


「もう1回いってみようぜ」


「ッッ!!」


 再び無色光が刀身を包み、風魔術が腕を絡め剣速を加速させる。直前に行った攻撃を再び発動させる【リバースモーメント】。ディレイ中だろうと関係なくリピートされるので今わたしは完全にオート状態。

 薙ぎ払うように無色光放つ斧を構えていても、剣速はわたしの方が上。ディレイ中の相手わたしに油断したのか無駄に溜めが長い剣術......お前程度じゃ【ホライゾン】にはついてこれない。

 五連撃は全てヒットしたものの【リバースモーメント】のマイナスのひとつである “繰り返した攻撃の威力が低下する” という点でデザリア兵は命拾いした。勿論斬撃は受けたので傷はでき血は出ているがな。


「───ふぅ。わたしの勝ちだな」


 ここで【リバースモーメント】のふたつ目のマイナス、ディレイが上乗せでのしかかる。ガクン、と左腕が重くなり全身へと硬直が流れ込むものの、勝負はついた。

 ディレイ中でも魔術は可能なので地属性の拘束魔術でデザリア兵を捕え、ディレイから解放されると同時に茸印の痛撃ポーションを兵へぶっかける。


「毒じゃねーから安心しろよ。で、なんでローユ......対魔の短剣を狙った? お前デザリアはそんなもん狙ってる暇ねーだろ? 略奪種放置はアホすぎるぜ」


 魔術や妖術に対して爆発的な効果を発揮する【ローユ】が魅力的に思えるのは理解出来る。しかし今イフリーが直面している脅威は魔術ではなく略奪種だ。国民が拉致られて殺されている現状を無視してまで何にビビってる?


「......略奪種よりも危険な相手がいる」


「誰だそれ? そいつと戦り合うのにローユ奪おうとしたのか? デザリア軍は盗賊の集まりかよダッセーな」


 略奪種【ラオブミノス】はAランクモンスター、それより危険となれば最低Sランク。モンスターは確かSSが天井。Sからは全てがボス扱いになるのでAとSでは世界が違う。犯罪者という線もまだあるが......Aランクモンスターより危険な犯罪者ならばコイツはまず生きていないだろう。


「仕方ないだろう!? このままではデザリア軍は崩壊してしまう! そうなっては誰がこの国を守るのだ!?」


「知らねーよ。でも国を守るのは少なくてもお前じゃねーから安心しろ」


「......ッ! 貴様に何がわか───!?」

「───!!?」


 それは突然すぎて理解出来なかった。

 耳を叩く爆音と顔に当たる熱風、腹に響く振動の後、鼻を刺す臭い。

 わたしと会話していた男が突然爆発した。そう理解するまで数十秒かかった。それでもまだ脳の整理が追いつかない。すると地面が揺れ、崩落する。


 わたしは何が何だかわからないまま、脳の整理がつかないまま落下してしまった。





「痛ってー......頭打ったぞ、バカになったらどうしてくれんだよ」


 結構な高さから落下したにもかかわらず、わたしは頭を軽く打っただけで無事。地面が脆すぎるだろ、と思ったがラオブの巣を崩壊させた時の衝撃と今さっきデザリア兵が爆発した衝撃が地面を崩落させたんだろう......運悪すぎだろ。

 いや、運がよかったのか? 崩落した地面の下には地下道───地下世界とも言うべきか? 広く抜けた場所に落下したからこそ生き埋めにもならず瓦礫に潰させる事もなく無事なんだろう。


「地面の下にこんなんあったら崩落するわな」


 まるで洞窟内にいるような感覚に陥るが、ここは紛れもなく地下だ。天井を見上げると、わたしが落下した場所だけ妙に高い───地面に近い───ので、薄さ的な問題があったんだろう。他の天井は分厚く、氷柱石も沢山垂れ下がっている。


「天井が落ちてくる事はとりあえずなさそうだな......」


 安堵し、手頃な瓦礫に座ってウェンブリーへメッセージを送っておいた。自分は無事である事と気にせず任務をやってくれとの連絡を。


「登るのは余裕だけど、少しここで休憩しよう」


 魔箒を使えば天井の穴から地上に出られるし、今は焦らず脳内を整理する事にした。


 デザリア兵の爆発......略奪種より危険な存在......あの爆死と関係しているのか?

 ......考えた所で噂の危険なヤツを知らないからどうにもならない。

 何かしらの脅威がある事は間違いないし、もう少し休んだら地上へ、と気を抜いた瞬間、地下道に複数の足音が響く。頼りない感知術を発動させ意識を集中させ索敵すると───まだ遠いもののこっちに向かってくるモンスターの気配を拾った。


───結構いるな......ハイドマジックでやり過ごせるか自信ないけど、とりあえず様子見するか......


 岩陰に隠れ、ハイドマジックを発動。気配を極薄にし迫るモンスターを待った。



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