◇516 -4日目、予想外な再会-
トントン、トントン、と2回鳴っては何か声がして、また2回鳴っては声がする。それが数回繰り返され、ガチャ、とドアが開かれる。
かろうじて繋がる脳回線でそれらを薄っすら拾ったわたしはきっと今自分でも引くくらいのアホ
「エミル、もう朝の6時半だぞ! 寮長は7時前に全員起きているのか確認にくる、寝てたらまた掃除させられるだろ!」
この言葉でわたしは自分が今どんな身分でどこにいるのか思い出す。が、身体は「だからどうしたお前はどんな身分でどこにいようとエミリオだ諦めろ」と、まるで剣術ディレイに陥ったかのように動かない。この現象を起床ディレイと呼ばずに何と呼ぶのか。
「まだ6時半かよ......あと15分」
「昨日 “もう新人という扱いはしない” と言われたばかりだろ!? 連帯責任で俺まで掃除させられるのはごめんだ、起きないなら部屋を変えてもらうぞ」
6時半なんて見る人が見ればまだ深夜だ。そんな時間から元気よく怒る男性はわたしと同室の【ウェンブリー】という名の騎士学生。学園で2位の席次を持つ強者だ。なぜそんな優秀な学生とルームシェアしているかというと、元々この部屋に住んでいた生徒が失踪したからだ。強靭な寄生心を持つわたしは失踪した生徒の私物をパクれるならば最高だと踏み、この部屋を選んだ所うれしいおまけとして学園2位のウェンブリーがついてきた。しかしこのウェンブリー君はちょっぴり真面目で、ルールの中で自由にする、みたいな性格だ。それが悪いと言っているワケではないぜ? でももう少しこう......砕けていいとわたしは思う。
「おいエミル! 本当に起きろよ!」
「うわあああ! カーテン開けないでわたし今は吸血鬼的な何かなんだよ太陽光で死んでしまう!」
「お前が本当に吸血鬼なら昨日中庭で死んでるだろ!」
「ついさっき吸血鬼になったばっかりなんだって信じてくれよぉ〜あああ───日光が突き刺さるううううう」
貴族の横暴と太陽の暴行により強制起床させられる日々がいつまで続くのか......考えただけでも本当に死んでしまいそうになる。
「......おはようウェンブリー」
「おはよう、早く着替───......エミルって身体細い......というかラインが女性みたいなんだね......」
寝体勢から座り体勢にシフトしたわたしを見てウェンブリーは戸惑いのような表情を浮かべていた。朝からアホっぽい顔してるなコイツ、と思ったが原因はわたしの睡眠衣だった。勿論、妖怪眠喰 すいみん の事ではない。
3日目にしてすでに緊張感を失ったわたしはいつもの調子で寝てしまった。そうなると朝の格好は当たり前だが寝た時の格好になる。
シルキ後に大金が入ったのでわたしは “快適な睡眠を毎日” という売り文句に釣られて購入したララメイドのナイトウェアを装備している。
───よいか? もし下着や裸以外を見られた場合は「チビじゃからレディースかキッズしか合うサイズがないのじゃ」と言うんじゃぞ? 苦し紛れでもサクッと言葉が出る出ないでは大違いじゃ。
キューレの言葉を思い出し、わたしは女性みたいなラインの身体───立派な女性だわ───を堂々と張り、
「チビじゃからレディースかキッズしか合うサイズがないのじゃ」
「......何だいその喋り方」
「あ......あぁ、気にするな」
4日目の朝から詰んだかと思ったが、キューレ語と寮長襲来により上手い流れた。
◆
下は15からだが上に上限はなく、わたしは一応ピチピチの18歳で上級学生として潜入している。
下級、中級、上級の三階級に分けられていて1年経てば試験があり合格すれば階級が上がる。上級の場合は騎士試験に合格してドメイライト騎士団へ入団となる。
ここまでは何となくそんな気がしていた、で終われる内容だったがここからはちょっと驚いた。この学校にいる学生は学生という枠ではなく───いや学生なのだが───ドメイライト騎士の “見習い” という枠になるらしい。見習いでも騎士は騎士。任務があれば学校を、ドメイライトを、ノムーを離れるし実績は直接の評価に繋がり、給料も出る。
もう一度言おう。給料も出る。
「給料ほしい」
「唐突だね、なにか欲しいものでもあるのかいエミル」
「一生遊んで暮らせるだけの大金が欲しい」
「......はは、それは頑張って騎士にならないとな」
無駄に広いドメイライト二階層───騎士団が管理独占しているエリアをわたしはウェンブリーとダラダラ歩く。左手にはさっき買ったフルーツジュースを持って。
この二階層にも店はあり、ここがひとつの街のようになっている事に驚いた。範囲は断然一階層の方が広く店の数も人の数も多いが、二階層も下手な村よりは全然広く店の数も種類も不満がないほどだ。
なんでもこのドメイライト二階層は王や貴族の許可を得た者のみが店を持てるらしく、ターゲットは騎士や貴族街の連中。使う素材は勿論だが商売人の技術も高く、その分値段もロイヤルなものになっている。このレモンジュースも特種な技法でレモンを絞りジュースにしたのだろう。味も香りもそこらのレモンジュースとは段違いでカナリうまい。が、270ccで350ヴァンズは高い。
270ccとか言われてもピンと来なかったが手にしてビックリ、こんな少量で350vはやってんだろお前ら。と思わずにはいられなかった。
しかしこれがまた味がいい。不味かったら店ごと吹き飛ばしてやろうと思っていたが、ワラワは満足じゃ。って感じ。
「そんなに美味いか?」
「国宝級だぜコレ───あげねーよ?」
「いらないよ」
次の授業が行われる場所へ向かいながら、なんて事ない会話をする。
行き交う騎士見習い───生徒達も同じように、友人となんて事ない会話をする。
しかしここにいる全員が、騎士を志す者。ここにいる全員が、同じ目的で学んでいる。
不思議な感覚だ。
「......あ、ウェンブリー」
「あ! ウェンブリー!!」
不思議な感覚に浸っていると背後から女の声。流石は学園2位の実力者ウェンブリー、モテモテかよ。
「ん? やぁカトルとポルク。任務から無事戻ったみたいだね」
む? 今なんて?
「......うん。簡単だったから......」
「うん! 簡単だったから!!」
むむ? 同じ事を違うトーン、雰囲気で言う2人の女......何か知ってるぞ。
「そっちの人はだれ?」
「......誰? お友達?」
あ、違う事も言うんかい。
「彼は4日前に特別入学した───」
そこでわたしは振り向き名乗る。なぜすぐ振り向かなかったかというと、ウェンブリーの知り合い=多分凄みある人=ナメられないようにクールかつ強者な雰囲気を演出したかった、からだ。
「わたしはエミルだ。特別入学というレアな───!?」
「「!?」」
多分、今わたしはとんでもない速度で魔術を詠唱、発動しただろう。自分でも恐れる程の速度で、いや本当にすげー速度で眼の前にいる2人へ闇魔術を発動し「今のわたしはエミル、男だ! エミリオとは別人だ。いいな?」と脳内へ直接語りかけた。
「どうしたんだエミル?」
「んや、この双子があまりにも可愛くて言葉を失ってたぜ」
「......そういう事はあまりクチにしない方がいいぞ。それでなくてもお前は雑な性格なんだから」
「わーかったっての! てかよく4日で見抜いたなわたしの性格。やるなウェンブリー」
「私、という一人称は丁寧でいいと思うけど他は壊滅的でここじゃ嫌でも眼に入るからな......。まぁ悪いヤツじゃないからカトルとポルクも仲良くしてくれると助かるよ」
「......うん。エミル、が悪い人じゃないのは見てわかった......」
「うん! エミルも赤だから同じ上級だね! 仲良くしよう!!」
4日目で新たな友達が出来た───と言えば初対面にも思えるが、この双子とは残念ながら初対面ではない。
パールホワイトの髪とブルーの瞳を持つ双子。
タレ眼で前髪を下ろしている恥ずかしがりが【カトル】で前髪をアップして元気良さげな方が【ポルク】だ。
この双子は人間ではなく
まさかこんな所で再会するなんて、予想外にもほどがあるだろ......ビックリしたぜ。
「って、エミル急がないと剣の授業へ間に合わないぞ!」
「え? まだチャイム鳴って───鳴ったし!」
「あ! わたし達も
「......だね、わたし達も同じ剣の授業......」
剣の授業に遅刻しないよう───既に遅刻だが───わたし達はドタバタと走り修剣状へ向かう。
何とも落ち着かない再会だったが、以外にも双子があっさり合わせてくれたので助かった。が、授業は遅刻だったので怒られた。
上級生は授業回数が極端に少なく、各自ほぼ自習という形で自分の得意分野を伸ばしたり、苦手分野を補うべく日々頑張っている。一見楽勝にも思えるか、上級生は少ない授業時間を埋めるかのように “任務” が多く入る。
見習いでも騎士は騎士。そして上級生となればやはり実践での経験値が一番いいという事だろう。レイラ達もちゃんと考えて任務を流してくれているっぽいし、わたしから見れば楽勝余裕暇過ぎて寝そう、のレベルとみて間違いないだろう。
剣の授業後、わたし、ウェンブリー、カトル、ポルクの4人に同じ任務が下された。
明日、朝イチの船で【イフリー大陸】へ向かい、上陸後は【ジブチアチ】へ速やかに向かい騎士と合流。詳しい内容は合流後にあるので確り聞くように。討伐任務なので申請した武器の所有と使用を認める。
との事。
まさかのイフリー大陸! まさかまさかの討伐任務!
これは楽しそうだぜ!
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