◇517 -5日目、クゥ-
早朝から船に乗りアクビをしている間にノムー海域を抜け、イフリー海域へ入ったらしい。
わたし、ドメイライト見習い騎士───学生───のエミルは半分寝ている状態で乗船し、部屋につくやすぐ二度寝をしていたのでアクビしている間に、というのは嘘だ。正確にはイビキを〜となるがそんな事はどうでもいい。二度寝の気持ち良さを知るわたしでも寝ていられない程の暑さが船内に充満し始め、その暑さに起こされたのは二度寝に入って3時間後のついさっきだ。
「暑くなってきたぞ......異常気象か?」
「さっきも説明しただろ? この船は今イフリー海域なんだ。後2時間もすればイフリーポートに着くんだし、我慢出来ないなら外にいるといい」
ノムーポートからイフリーポートまで約5時間......だが、これは直行船での速度。経由船ならば1日では無理らしい。ウンディーポートからイフリーとノムーまで直行船で3時間。最新の船は結構速いとからいいが古い船だと直行でもこうはいかないみたいだ。
「エミル暑いのと寒いのどっち好き? 暑いのと寒いのね!」
くだらない質問をしてきたのは双子座の片割れポルク。コイツは本当にうるさいし可愛い顔して実はクチが悪い。
「どっちも無理」
「どっちかって言ったじゃん! どっちかって! ねぇどっち?」
「......ポルク、エミル困ってるからやめよう?」
「カトルはどっち? ウェンブリーは? どっちどっち?」
この調子があと2時間も続くのかと思うと吐き気がする。せめてこの暑さをどうにか出来れば......出来るじゃん! わたし天才だから!
勢い良くベッドから立ち上がり、もわん、とする空気を打ち消すように詠唱する。
「魔術?」
「......魔術だ」
「魔術だ!」
魔術センスの乏しい雑魚を余所にわたしは火耐性上昇バフを使った。わたしレベルとなれば火耐性を上昇させる事でこの暑さも打ち消せるのだ。水ならば寒さを。属性耐性の上昇がメイン効果で気温耐性はオマケみたいなものだが、その効果は気温耐性バフよりも高い。なぜならわたしは天才だから!
「ふぅ〜、、、世界が平和になったぜ。お前らにもかけてやろうか? 到着したらひとり1本マグマコーラでいいぜ」
「是非お願い」
「......わたしも」
「かけてかけて!」
これでマグマコーラを3本もゲット出来る。イフリー大陸の製法でしか生産出来ないコーラで、保存も他大陸では不可能。ノムーやウンディーにもそういったコーラが存在しているのでシルキも是非作ってほしい。
「凄いなエミル、この魔術は属性耐性なんだね......もしかしてエミルは魔術型なのか?」
「......入学試験のスコアは?」
適温になったわたしとポルクはさっきまでのやり取りか嘘のように、意味不明な指遊びを即興で繰り広げていたが、スコアとやらの内容は結構気になるので指遊びを中断し会話へ向かう。
「スコアってフォンに届いたやつ?」
「そう! スコアそう!」
段々とポルクの二段発言がシルキの鬼......名前は忘れたが四鬼の壱に思えてきた。鬼の方が凄みみたいなものがあったが。そんな事はおいといて、スコアとやらの通知をフォンのメッセージ箱から探り出し、もう一度自分でも確認してみる。
名前は【エミル】で性別は【Male 18】と......スコアも6や7が多く魔術は8。勿論これは完全な偽造スコアだ。フルスコアが10のところで剣術7や体術6の体力6など自分でいうのもアレだが高すぎる、ありえない。しかし今回の目的、謎の失踪を手引きしている存在に接触するには優秀でなければならない。
正義の騎士様が偽造スコアを用意した事でわたしも適当な仕事は出来ないな、とやる気スイッチを連打出来たが、これを見せていいものなのか......いいか別に。
「眼に焼きつけろ、これが滅多に拝めない天才のスコアだぜ」
フォンをベッドの上にぽんっと投げ、ここ最近で磨きがかかったドヤ顔を披露するも3人ともフォンしか見ない......タイミングをミスったか。
「うわ!? 凄いなエミル......低くて6は冗談抜きで天才だよ......魔術なんて8だぞ......」
え?
「......本当に凄い」
え? え?
「凄い! わたしも魔術凄いって言われてるけど5だしエミル凄いエミル!」
......え? これわりとガチでやっちまってるパターンじゃないか? チヤホヤしてくれるのは最高だが、行き過ぎパターンじゃないか?
学園2位が眼を丸くして驚く偽造スコアて......双子座も驚いてるし、これ本当に大丈夫なのか?
「てかなに、ポルクって魔術型なの? 性格的に突っ込みそうなんだけど」
「......ポルクは魔術型、魔術だけなら学園2位だよ」
「えっへん! 魔術で学園二位だよ! うるさいヤツはブッ殺してやるからな! うるさいヤツは!」
子供のような見た目で腰に手を当て胸を張るポルクだが、ブッ殺すだの見た目の可愛さを崩壊させる発言を普通にする。それにしてもポルクが魔術型だったとは知らなかった......記憶だと星霊界ではワタポにあっさり負けてたハズだけどまぁ時間は経ってるし強くもなるわな。
「カトルとポルクは学園でも有名なんだよエミル。なんせカトルは八位、ポルクは九位の席次についてるからね」
でた席次。みんなに細かい順位がついてる世界とかクソだろ......コイツはアホですよって言われてるようなもんだし、冒険者ランクの方が平和的でわたしは好きだ。
「その席次? ってのは何位まですげーのよ?」
少し不機嫌そうに言ったわたしへ3人は首を傾げた。そしてウェンブリーが説明役に。
「総合序列......席次は十まで。各種序列は三十までしかつかないよ。例えば剣術が十位だけど他は序列なしなら、席次につく事は難しいね。それでも剣術は学園で十というステータスは大きいけどね」
「あ、そうなん? 全員に何位とかついてるのかと思ったわ。それならいいな」
「エミルみたいな性格の生徒は席次で人を馬鹿にしりしそうだからね。だから全員にはつけないけど優秀な生徒にはつける。この席次や序列が騎士団に入団した時のプラスになるからみんな頑張ってるんだよ」
「へー。で、ポルクってそんな魔術すげーの?」
「凄いね。魔術だけじゃなく俊敏性も高く、剣術体術も魔術型の中なら高い方なんだけど......ほら彼女の性格が性格だからそういった点も評価対象になってギリギリ九位の席次なんだよ」
いくら実力者でも言動がアレだとダメって騎士っぽさ感じるわ。でもそれが騎士って感じもするし......てかなんで星座が騎士学校に来てるのかも不明だぜ。星霊界で色々学んで強くなった方が効率いいだろ。
「わたしの魔術も凄いけどもっと凄いのがいるんだよ! わたしの魔術も凄いけど!」
「......ポルクより魔術が凄いというか、ポルクより落ち着いていて多彩な魔術を使う人がいるの......それが席次は十位で魔術序列は一位......」
内容よりも珍しくカトルが長く喋った事にわたしは驚いた。慣れたら結構喋ってくれるタイプか。
「その魔術1位の名前は───おわ!? なんか船ガコンってなったぞ!?」
気になる魔術1位の学生トークを一旦止めるように船が停止し、アナウンスが流れる。
結構話し込んでいたらしく、船はイフリーポートへ到着したみたいだ。さっきの音は停止して錨をドボンした音か......ビビらせやがって。
「よし、降りよう。忘れ物のないように確認してからポルクから降りて」
「あいあいさー!」
「......次はエミル降りて」
「わたし? おーけーおーけー」
ポルク、わたし、カトル、ウェンブリーの順番で船を降りた。この順番に意味があるのか? と思っていたらバッチリ意味があった。ポルクの忘れ物をカトルが、わたしの忘れ物をウェンブリーが確り持ってきてくれた。忘れ物気をつけろよって言われて忘れ物するこの感じ......わたしとポルクはアホすぎだろ......。
「イフリー大陸初めてだから楽しみだね! あっついね!」
「......エミルのおかげで暑くはないよポルク」
「騎士様が迎えに来ているハズなんだけど、どこだろう?」
「それよりマグマコーラ早く買ってこいよ。バフ解くぞ」
と言ったもののわたし自身今ここを動くのは少し考えてしまう。
以前わたしは猫人族のるーとイフリーへ来たが、その時よりも活気は数倍ある。しかし活気の中にある......少しピリッとする緊張感はなんだ? イフリーポートにいるイフリー民だろう人達の視線も妙だ。ノムーの騎士学生というのは制服でわかるだろう。そのノムー民相手に......頼るような、でもどこか諦めているような視線はなんだ? イフリーとノムーは仲悪いで有名だというのに、敵意ではない視線............この大陸で何が起こってる?
「ウッス。エミ......ル、待ってたよ」
「あ?」
わたしの名前を
「よぉ、ヒガシン! 何やってんの?」
「バ、バカお前! ヒガシンさんに何て態度を!」
小声で焦り声を出すウェンブリーはわたしの頭を無理矢理下げさせ、自分も頭を下げる。
「大変失礼致しました! こちらのエミルは少々頭が弱く、只今礼儀を学んでいる途中でして......」
「......ごめんなさい」
「ごめんねー! 許してね!」
「おい! 何だってんだよ!? ウェンブリー、おま、離せっての!」
「あー、俺にはそういうのいいよ。気楽に接してくれ。任務中も指示に従いたくなかったら別にいい。でも、死んでも自己責任でよろしくな」
あー、あー......そゆ事な。
わたしは騎士学生でヒガシンは騎士だから神対応しろって事かよ......だりーなこりゃ。でもヒガシンでよかったぜ。知らん騎士ならコレ一発退場だったろうし、助かったぜ......。
「すんませんした」
「おいエミル! ちゃんと謝れって!」
「あーいいよいいよ、俺とエミルは知り合いなんだ。だからそういう態度になっちゃうのもわかるし、俺もそうしてくれって言ってあるし。キミらも力抜いて接してくれた方が俺もやりやすい。さて───馬車を用意してあるから行こう」
中々に心が広いヒガシンに救われたわたしはやっとウェンブリーの押さえつけ強制謝罪から開放された。この後もぶつくさ文句を言ってきたが、聞き流してわたし達は大型の馬車へ向かう。
「でっけー馬車だ......な!? あれお前......クゥ!?」
普通の馬車の2倍......いや2.5倍はあるであろうワゴンを引くのは馬よりも頼りになりそうな大型の狼で、わたしもよく知るフェンリルのクゥ。ワタポの愛犬......愛狼で間違いない。だって首についてる水筒ポーチに【フェアリーパンプキン】のギルドマークついてるし。
「クゥ!!」
「おー! やっぱクゥか! フェンリルモードはでっけーなー!」
首に手を回し頭と下顎をワシャワシャしてから「確り頼むぜ、相棒の相棒」というと力強い声で「クゥ!」と返事をしてくれた。
わたし達はワゴンに乗り、中にいたヒガシンの部下に軽く挨拶をして目的地である【ジブチアチ】へ走った。
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