◇515 -騎士からの依頼-2
2ヶ月ほど前、ノムー大陸の皇都【ドメイライト】にある
最初に失踪した生徒は剣術の実力が中々であり、成績も上位という男子生徒だった。性格も良く騎士も期待していた逸材が、寮に荷物を置いたまま行方不明になった。その男子生徒を捜索している最中にまた行方不明者がひとり、ふたりと。
結果的に2ヶ月で18人の生徒が行方不明となり、原因も失踪先も掴めていないらしい。つまり、
「お前ら騎士が無能って事を晒してるワケか。ウケる」
「貴様! 先程から無礼だぞ!」
机を叩き怒鳴るように発言したのは───名前も知らん男騎士。防具のタイプから見て壁だろう騎士は顔に細かい傷痕がある。
「お前こそさっきわたしをアレって呼んだろ? 無礼すぎて頭痛したわ。そもそもお前誰だよ、顔中傷だらけじゃん。鎧の下も傷痕か? 何か凄みあってこえーから怒鳴んな座ってろ」
「す......凄み......凄みか......。この傷は貴様等冒険者のユカという者につけられた傷。鎧の下にも確かに傷はある。ユカは中々の冒険者だ。自己紹介が遅れた、私はドメイライト騎士団のアストンだ」
ほう。アストンは音楽家にやられたのか。音楽家がガチで戦闘してるトコほぼ見た事ないけど、見るからにタフそうなこの騎士を刻んだとか......すげーな。
「そうか、よろしくなアストン」
「私はシンディ! って知ってるよね」
「初めましてシンディ。エミリオです」
「ひっど! 酷いよエミリオちゃん!」
残念女シンディは眼障りな巨乳で耳障りな声を出す。騎士に捕まった時わたしの “魔属性” を教えろ教えろってうるさかった女だ。誰も抑制しなければ確実にわたしを解剖してるレベルのイカレ女。わたしはコイツの事が全体的に嫌いだ。
「俺は自己紹介いらないッスよね」
「おう、今度なんか奢ってくれよヒガシン」
鶏ヘアーの元ワタポの部下、ヒガシン。
わたしが冒険者になる前に出会った騎士で、結構いいヤツ。
「私も挨拶が遅れたな。一応ドメイライトの騎士団長 代理 をしているレイラだ。噂はよく聞いているよ、エミリオ」
「ほう。騎士団長にもわたしの噂が届くとは、こりゃ世界のエミリオと呼ばれる日も近いな。で、その騎士団長様がなんでここに? パシリのひとりふたりいるだろうし、そいつを送ればよかったんじゃね?」
「私はあくまで騎士団長 “代理” だ。そして私達が直に足を運んだ理由も今から説明する」
ジトっとした視線と、やれやれと呆れる視線がわたしに突き刺さる。ナナミンとセッカだ。これ以上ナナミンを怒らせると悪魔的所業の餌食になりかねないのでおとなしく話しを聞いた所、例の失踪事件を団長代理様は何者かの仕業と考えているらしい。わたしも誰かの仕業だと思ったが、中々どうして簡単な問題でもない雰囲気だ。
失踪した学生のリストを見せてもらって気付いた事が2つ。
ひとつは、全員が男である事。
もうひとつは、9人が剣術で30位以内の成績であり9人が魔術で30位以内の成績である事だ。
犯人はランダムではなく、ターゲットを絞って何かを企んでいると見て間違いないだろう。
ここに騎士達も当然のように気付いていて、嫌な予感がしたらしく、信用出来るメンバーでここに来た、と。そしてここに来た目的───理由はひとつだ。
「エミリオ。騎士学校へ潜入し、失踪者の捜索を依頼したい」
騎士団長代理様はわたしを見てそう言った。
「まぁわたしにアレコレ話した時点でそうくるよな。でもいいのか? 冒険者と騎士って仲良くないし、お前は代理とはいえ騎士団のトップだろ? そんなヤツが冒険者に依頼なんてしたらそれこそ、自分等の無能を晒してるようなもんだろ?」
挑発やおちょくり ではなく、本当にそう思う。わたしが騎士ならばこの事実───団長が直々に冒険者へ依頼した事実───を知れば、騎士がショボいものに思えてしまうだろう。
「エミさんを筆頭に各地で色々と事を起こしてる奴等がいるんスよ」
騎士とは思えない態度と軽い口調で割り込んできたのは鶏ヘアーのヒガシン。これまで何度か会ったが、会うたびに装備が良くなってる。
「わたしを筆頭に? どゆこと?」
「エミさんがシルキ大陸を無理矢理開国したとか。それと同じようなタイミングで各地でモンスターが活発的に動き始めたりしてるんス。きっと世界樹や夜楼華でしたっけ? それらのマナの影響があるも思うんスけど調査中ッス。そういう報告がまとめて入ってきて正直騎士も手がいっぱいいっぱい。基本騎士学校の事は学校関係者が対応するんスけど、短時間で20近くそれもそこそこ出来る学生が失踪なんて絶対何かあるでしょ。学生とは言え騎士関係でそんな事起これば派遣する騎士も信頼度が高くなきゃ状況を混乱させるだけっス。そこで俺達ドメイライト騎士は実力も備えた信頼できる冒険者に極秘依頼としてクエスト発注する事に決めたんですよ。それがエミさんって感じッスね」
「おぉ、珍しく長く喋ったな」
「俺この後、略奪種の調査でイフリーなんスよ......この件サクッとここでまとめられたらノムー帰らなくていいし、ウンディーポートから出発出来れば距離的にもいいんスよね。
略奪種、とやらが物凄く気になる。が、これ以上脱線させるとヒガシンもさすがに怒りそうだ。
「なんかダルそうなクエだな......騎士絡みならワタポとかよくね? 頭のキレならハロルドとかもいるだろうし、なんでわたしに面倒臭そうなクエ回ってきたのか謎なんだけど」
「あー、それは消去法ッスよ。ヒロさん......ワタポさんは顔バレしてる。ひぃたろさんは半妖精なんで耳を隠す手段がない。プンプンさんも同じッス。それに失踪したのは全員男子学生で、剣術と魔術がそこそこ出来る。残念ながら俺達は他の冒険者の事を詳しく知らない。顔バレしてない、男に変装出来そう、剣術と魔術も出来る、そしてすぐ学園に溶け込めそう、って点を全てクリアしてるのがエミさんだっただけっス」
「......は? え? それはわたしが男子学生になって騎士学校に凸って、その犯人に狙われろと!?」
「そうッス。で、ここからは団長代理から説明あると思うんでそっちで聞いてください。いやー助かったッスよエミさん! やっぱエミさんなら引き受けてくれると思ってましたし、俺もこれでイフリーに行けるッス。んじゃ俺は任務あるんでお先に」
「いや待てって、おい、おいヒガシン!」
マシンガンのように喋って、無理矢理クエストを押し付けて、まぢにイフリー行ったぞアイツ......わたしやるなんて言ってねーのに......。
「ではこちらで学生証や制服は用意しよう。髪色を変えたりする程度の変装は頼むぞ。それとシンディが作った眼鏡を装備してくれ、これは登録したフォンに眼鏡で見た映像を送る事が出来る。それと名前だが......エミリオのままよりは変えた方がいいな......」
「まてまて団長代理様よぉ! わたしやるなんて一言も───あ? 誰だよこんな時にメッセ送ってくるアホは......セッカ? なんでお前ここにいんのにメッセなんか......!!? 女王様、このリストは?」
今の今まで会話に乱入してこなかったウンディーの女王セツカがここにきて動きをみせた。大型フォンを操作してなにかやっているのはわかっていたが、セッカの性格的にわたしがギャースギャースうるさい場合ほぼ必ずクチを挟んでくるハズだが、それが無かった。キューレもナナミンさえもクチを挟まず女王と何かしていた。
その何かが、今わたしのフォンに届いたメッセージだろう。このリストのようなメッセージが一体何なのか、ハッキリさせなければならない。
「それが今回の報酬。こちら側と騎士団側からの報酬をまとめたリストです」
「報......酬......この中からひとつとか、それ系?」
「いいえ、全部です。前払いとしてフォンのアップグレードや必要経費、少量ですがポーション類も」
「前払いでアップグレード!? それクエ失敗したらどーすんの!?」
「えっと......そうですね......ならこちらはクエスト受注報酬という特別枠でいきましょう!」
騎士学校なんてダルそうな場所行きたくもない。どうせ、規則、決まり、ルール、そこらがウザったいくらい絡みついてくるくせに稼げない環境なんだろう? そんな所好んで行くヤツは騎士になりたい正義マンか、何も考えてない脳無しかのどちらかだ。
そしてわたしはどちらでもない。
「このクエスト受けるぜ。わたしに任せろ」
わたしは冒険者だ。報酬を求める冒険者なんだ。だから───報酬に釣られても仕方ないのだ。
◆
そんなこんなでわたし、冒険者エミリオ改め騎士学生エミルは3日前からノムー大陸【ドメイライト】で生活を始めた。
エミル、という名前はキューレが考えてくれた。
わたしはエミオでも何でもいいだろと言ったがキューレが「それはダサすぎるのじゃ」と即否定してきたので任せた所、エミはそのまま、オを切り捨て、リを進めてル、エミル、という名を考案したのでわたしは即OKした。
プリティな髪色をどうするか、という所でキノコ帽子のお弁当屋がセッカ達へお昼ご飯を配達にきた。ここでしし屋も無理矢理作戦会議に参加させてみた所「簡単に染めるなら変色茸を使えば簡単! 今私はココア色しか持ってないけど、脱色茸を使わないなら半年くらい色がもつよ」と言ってきた。もうこれしかない、これ以外ありえない、考えるの面倒臭いし、の状態だったので即キノコを使い───食べて───髪だけじゃなく眉毛や睫毛まで自然かつ完璧なココア色に染まった。
他の準備も済ませ、3日前からドメイライトの二階層にある
騎士が発注したクエストであり、クイーンクエストでもある今回の依頼は「多発する学生の行方不明の原因究明、可能ならば解決」となっているが......何ひとつ掴めないまま3日が経過した。
確か明日───正確には今日の夜だがその時間既に学校は終わっている───任務から戻ってくる学生が数名いたハズだ。
潜入時点でそのメンバーは任務───騎士と共に行動し、何かしらの実績を残す授業───に出ていたので会うのは明日の朝が初めてだ。
そのメンバーを確認してから、今後どう行動するか考えよう。
「〜〜〜〜......っ」
騎士学校は思った以上にダルくて退屈、
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