◇470 -カゲロウ-1



 不思議とすぐにわかった。

 あの眼帯を見なくても、あの人物が盲目もうもくと呼ばれている───俺の親友であると。


 姿も雰囲気も、当時とは全く違う。

 それでも、すぐにわかった。


「やっぱり盲目って呼ばれてたのはお前だったんだな......眼、どうしたんだ?」


「......お前こそ、その耳と尻尾と模様はなんだ? いや、そんなものより───なんでお前がここにいる?」


 見えているのか? 眼帯の下からでも俺の姿が。


「仲間が夜楼華の毒に苦しんでる。毒を中和するのに夜楼華の花弁を求めてここへ来た」


「俺が知りたいのはそんな事じゃない。なんでお前がシルキにいるかだ。デザリアの騎士になったんじゃないのか?」


 そう、か。トウヤは俺が騎士にならなかった事を知らないんだったな。そもそも、俺はトウヤが生きている事を知らなかった......再会したとは言え俺達には大きな空白があるんだ。


「......トウヤ、あの日......10年前のあの日、お前を置き去りにして、見捨てて悪かった。そこまでしたのに、俺は騎士になれなかった......」


「それで、お前はこんな大陸で遊んでるのか? 俺に謝って何の意味があるんだ? そんな事よりお前には───」


 そんな事、という言葉で俺の謝罪が───長年積もっていた後悔を片付けられ、俺は食い気味でやり込む。


「そんな事ってなんだよ!? それに、遊んでるワケじゃない! さっき言ったように仲間が毒で───」


「お前には自分の身を危険に晒してまで助ける価値がある仲間なんていないだろ!?」


 今度はトウヤが、俺の言葉を潰すように割り込み、昔の俺を絞めるような言葉を放った。

 自分の身を危険に晒してまで助ける価値......あの頃のそう考えて行動していたワケじゃない。でも、俺の行動はいつもそう見えていたのだろう。


 現に、重症だったトウヤを置いて逃げたのは───俺なのだから。





 何をやってるんだ、お前は。

 心の底から俺は今のカイトに、怒り、のような感情が湧き上がった。

 騎士になれなかったのはいい。誰もがなれるワケではないし騎士が全てではない。だが、お前は他国に関わっている暇なんてないだろう?

 シルキ大陸から一歩も出ていない俺ですら、イフリーの情報は入手出来ている。外にいるお前がイフリーの情報を、国の内情を知らないワケないだろ?


 突然 “国” となったウンディー大陸に、イフリー大陸が攻めたという事実。

 その時イフリーの王は既に殺されていた事、何者かが死体を生きているように操りイフリーをウンディーへ攻めさせた事や、デザリアの品位を下げているからとの理由でラビッシュは破棄された事、ラビッシュに居た奴等はガキだろうと関係なしに奴隷のように扱っている貴族がいる事。

 イフリーは今、指示者───支配者が不在。

 どうにかその椅子へ座ろうと貴族共がうごめいているイフリーを、お前は放置して、何やってるんだ。


 俺に謝る暇があるなら、ひとりでも多く救えよ......夜楼華の毒から仲間を助ける? 笑わせるな───


「お前には自分の身を危険に晒してまで助ける価値がある仲間なんていないだろ!?」


 どこの仲間か知らないけど、お前が助けるべき存在はラビッシュの、イフリーの人達だろ?

 お前今まで何を───.........、何を......俺も......今まで、何をやってきたんだ......その気になればシルキから出られただろう? 俺は......


「昔の俺はそうだったかも知れない。でも、今の俺は違うぞトウヤ」


「───?」


「大切なモノが沢山できた。守りたい、と言えるほど俺は強くないし、弱い人達でもない。でも、だからこそ、その人達のために俺は俺に出来る事をしたい。俺の命を危険に晒しても、助けい、守りたいモノが今は沢山ある。......今更かって思うならそう思えばいい。変わった俺を笑いたきゃ笑えばいい。もう───昔とは違うんだ」


 あぁ......そうか。

 お前は、必死に進んできたんだな。

 今の俺は、お前みたいになれそうにない。


 今の俺は───昔のお前にそっくりだ。


「もういい」


「何がいいんだ? 今からでも遅くないだろ、トウヤ。一緒に来い」


「ひとりで生きるフリをすると決めたあの日から俺は変わった。お前こそ、変わった俺を笑いたきゃ笑えばいい。もう昔とは違う......その通りだカイト」


 今の俺は、自分のためにしか動けない。

 お前が俺の前に立つなら、お前を殺して魔女を追う。


「俺は帽子の魔女を殺すためにここに居た。今からその魔女を追う。それを邪魔をするならカイト───お前だろうと容赦しない」


「......わかった。なら───俺は大切なモノを守るために戦うぞ。お前が相手だろうとな、トウヤ」





「......擦り切れてしまう前に繋ぎとめられるか───切り捨てて進むか......運命さんは難儀な事をさせたがるのぉ」


 京で療狸やくぜんはカイトの占いの続きをした。占いというにはアタリすぎる未来予知の続きを。



───カイトよ、盲目───トウヤを生かすも殺すもお前次第じゃぞ。ここが運命の分かれ道、この先はワラワは見ぬ。お前さんがワラワに見せてくれるモノが、お前さんが手を伸ばして手に入れた未来じゃ。転がった物語の続きを拾うも蹴飛ばすも、お前次第じゃぞ。



 療狸は未来予知を止め、しし達が居る部屋へ戻った。




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