◇450 -療狸からのクエスト-1



 窓の外から見える朝の京───午前の京は夜とは雰囲気がガラリと変わり、鮮やかな街にも見える。しかしその街並みを楽しむ時間は1秒もない。


「ポコちゃん! 大丈夫か!?」


 見事見事に療狸やくぜん & 烈風れっぷうの前へ空間移動を成功させたわたしは、すぐにポコちゃん こと療狸の無事を確認する。

 汚れ崩れた着物から見える肌には傷が見てとれるも、本人はいつもの調子で「無事じゃ」と答える。


「あの人が療狸やくぜん?」


 隻眼で療狸を見る半妖精のひぃたろ こと ハロルドの問にわたしは頷き、ワタポを寝かせる。

 移動先が宿屋内という神移動を発揮した事で、移動後すぐに怪我人や謎病に苦しむ者達を寝かせる事が出来た。楼華島サクラじまやしろより何倍も楽そうな表情を見せ眠る者達に安堵するも、これは解決ではなく回避だ。


「とりあえず、一旦落ち着けるな......サンキュー、ポコちゃん」


「何を言っとる、落ち着くのはまだまだ早いぞ」


 療狸は怪我人や傷痕、苦しむ面々を見て状況を把握する。


「この傷はモズじゃの......そして他の者は楼華サクラにアテられとる......」


 傷痕を見ただけでモズの名が出るとは......アイツはそんなに有名で厄介なヤツだったのか? そして他の面々はサクラにアテられている、と? それはつまり───霧薔薇竜のようになるって事じゃ......


「エミリオ、空間魔法を繋いでほしい」


 アレコレ考えているわたしへ歩み寄り空間を所望してきたのは、雰囲気がどこか尖っている烈風。この大陸での烈風はどこか余裕が無いとは思っていたが、自分の故郷の危機ならば余裕も無くなるだろうと納得していた。しかし今の烈風は......そういう事でもなさそうだ。

 黒緑色の和國防具は所々が濡れているように濃く湿り、手には拭ききれていない血痕と抜いたままの太刀。

 療狸の状態から考えて、この血は療狸のものか? よく見ると療狸の表情もどこか安定率を失っている。

 って事は療狸を助けたのは烈風で───いや、そんな事はどうでもいいか。


「オーケー、場所も理解した。すぐ繋ぐぞ?」


「助かる」


 竹林道にいる螺梳ラスと鬼のマナをゴールに、空間魔法を繋いだ。烈風はなんの迷いもなく空間へ身を投げ、それを無言のまま見送る療狸の表情には様々な感情が───あったような気がした。


「.........さて、ワラワ達もぐずぐずしてはおれんぞ!」


 ポン、と手を合わせ療狸は現状を仕切る。この街にわたし達を呼んだのが療狸であり、恐らくサクラについても詳しく知っているだろう。


「まず、モズの斬撃を受けた者達はこれ以上今は治療出来ん。モズが愛用しとるカタナの重要素材は楼華結晶なんじゃよ。つまり、あやつの斬撃は楼華毒の斬撃という事じゃ。そしてモズは元人間で、命彼岸の三番目の被験者じゃ」


 サクラ結晶にサクラ毒、そして命彼岸.......和國絡みで出揃うだろうと思っていた言葉が、こうも出揃うと流石のわたしも萎縮してしまう。

 どれも危険なモノでありながら、どれも完璧な解決法を知らないのがわたし達の現状だ。


「次に、今苦しんどる者達じゃが、アヤカシと人間だけじゃろ? これは夜楼華が排出しとる微量の毒がアヤカシと人間にしか反応せんからじゃわい。楼華毒が人間の体内に入り込み、そこを宿とし瘴気を溜め込む。溜まりきった瘴気をその人間が吐き出し、更に伝染するのが楼華毒の怖い所じゃ。これに似とる伝染病が確か......然菌族ノコッタにも存在するが、あっちは同種病じゃし、規模も症状も楼華こっちの方がえげつないのぉ。アヤカシは元々人間じゃから対象になるんじゃ。例えアヤカシから妖怪になれたとしても例外なくのぉ」


「つまり、モズも蕾も原因はサクラ毒。中和方法は同じって事か」


 わたしはモズの話でサクラ毒というワードが出た時点でそう思い、蕾の話も聞き確信した。


「正解じゃ。その中和方法じゃが、その前にやってもらう事があるんじゃ。冒険者は確かクエストという依頼を受けて、報酬を貰うんじゃったな? 冒険者から数名、ワラワの力を少しだけ貸し与える。他の村や街の者全てを大きな街に集めて、この一件が解決するまでその街に居れ。報酬は別の冒険者に楼華毒の中和方法を教える。でどうじゃ?」


 ふざけんな何がクエストだ、と息巻いてやろうと思ったが、療狸の顔は見た事もない程真面目で、大神族様の遊び、ではないらしい。

 そうなると療狸の目的はなんだ?


「わかった。ボクでよければそのクエストを受けるよ」


 療狸の目的を見抜く前に、電撃魅狐のプンプンが名乗りをあげた。


「ほぉ〜、流石は魅狐様じゃの.......む? お主、魅狐族の中でも上等な種じゃな?」


「ええっと、ボクは魅狐だけど、魅狐として育ってないんだ......魅狐について何か知っているなら、この一件が終わったら聞かせてほしいな」


「先を越されてしまったけれど、私もそのクエスト受けるわよ」


「さっすが、ひぃちゃん! 優しい!」


「ちょ、プンちゃん、まだ何も解決してないんだから気を抜かない!」


 いつもの プーたろのイチャイチャを横にわたしは療狸の目的を見抜こうと頭を回し、納得出来る答えを見つけた。

 療狸は大神族。神的なにか。だが、シルキ大陸で暮らすひとりだ。自分が育ち暮らしている大陸を守りたいと思うのは当たり前の事だ。意外にかわいいヤツだな、ポコちゃんよ。そういうのいいと思うぜ。


「わたしも乗るぜ、そのクエスト。ワタポとついでに他の連中も助けてやるぜ」


「そこは、みんな助けてやるぜ! でいいじゃん。エミちゃんは言い方悪いよね」


「頭も悪いから仕方ないじゃないプンちゃん」


「あ? 先に耳長虫と静電気猫を駆逐するクエストやってもいいんだぜ?」


「ボク猫じゃなくて狐だよ!」


「仕方ないじゃない頭が悪いエミリオは基本的に勘だけで生きているのだから」


 あーでもない、こーでもない、と騒ぐわたしとプーとハロルド。余裕の無かった心はいつしか普段通りを取り戻したようにも思えたが、やはりまだ安心は出来ない。

 サクラ......あんなモノを作り出してるヨザクラを放置して本当に大丈夫なのか? 根本的な解決としてヨザクラを駆除した方がいいんじゃないか?


「魔女に魅狐にハーフじゃが妖精........なるほどのぉ。神様がるなら、礼を言いたいもんじゃわ......」


「あん? ポコちゃん何か言ったか?」


「うむ、喧嘩はそれくらいにして、早速クエスト詳細を話すぞ! よーく聞くんじゃぞ!」



 詳細を聞き、わたし達はクエストに向けて準備を開始した。




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