◇451 -療狸からのクエスト-2



 硝子製品のパーツに様々な素材を入れ、謎の機械めいたアイテムに硝子パーツをセットするキノコ帽子の獅人族リオン


「......しし屋、その合成ポッド? って自作?」


 恐ろしく複雑でいて、物凄く有能な合成ポッドを簡単に操作し半自動でポッドが何かを生産している最中にしし屋は薬草っぽい植物素材を石の器へ入れ、石の棒でゴリゴリ擦り潰す。


「ううん、こんなすげいの私には作れない!」


「すげいのかそれ。で、後どんくらいで出来そう?」


 加工、合成、生産......わたしには無縁の界隈、これからもわたしはイチ消費者として生きていく。そんな消費者は茸印の薬品生産者の獅人族リオン しし が作る即効性の高いポーションを今回のクエストでメインアイテムとして使う事を決めていた。今はその完成待ちだ。


「エミたんの分は昼過ぎには完成させるー! 一応、痛み止め程度の薬ならレシピをポコたんに教えてもらったし、だぷたんと手分けして作りながらポーション作ってるのだ!」


 しし屋も療狸を ポコ と呼ぶのな。そう言えば噂のポコちゃんはフェアリーパンプキンの半妖精と魅狐を連れて、どこに消えたんだか......まぁクエストの説明してるだろうけど。


「昼過ぎな。完成したらメッセくれよ、シルキ内ならメッセも使えるみたいだからさ」


「ほい!」


 しし屋の連絡待ち、となったわたしは宿屋から退散。行く宛などないが、宿屋にいるとどうしても気持ちが走ってしまう。


 現在、わたし達はシルキ大陸の首都───でいいだろう───京にいる。

 療狸やクソネミがひとつの宿屋を貸し切りにしてくれた。療狸は神的なにかなのでその権力的なのは理解出来るが、クソネミも中々の地位を持っているらしい。本人は嫌そうな顔をしていたが、療狸が「こんな時じゃぞ、使えるモンは全部使うのが吉じゃ」と耳打ちした事で、今この宿屋は “大神族様と眠姫様の貸し切り” となっている。

 華組の城でもいいんじゃねーの? と思ったが、それだと療狸の都合が悪くなるらしい。


 ま、立派な宿屋だし、こっちは1ヴァンズも払わなくていいからラッキーだけどな。


「───お?」


「ん?」


「あ!」


 1階へ降りると丁度宿屋へ戻ってきたフェアリーパンプキンの半妖精と魅狐がいた。


「終わったのか?」


 と、質問する。勿論これは療狸からのクエスト説明が、という意味なのだが、


「ま、まぁ、終わったわよ」


「う、うん! 終わった!」


「???」


 何とも妙な......歯切れの悪い返事。


「どんなだった? 軽くは終わったけど細かくってか詳しくは今からなんだよわたし」


 勿論これも療狸からのクエスト説明についてだ。わざわざひとりひとりへ説明している事から、内容が多少なり違うのだろう。2人はどんなクエスト内容だった? という意味での質問なのだが、


「......、......」


「、、、、、」


「あ? 覚えてないって事はないだろ?」


「「 ..........凄かった 」」


「は?」


「エミリオも行けばわかるわよ......」


「うんうん、すぐ終わるけど、すぐ終わらなかった」


「......は?」


 なんだコイツ等。わたしも行けばわかる? 同じクエストなのか? すぐ終わるのに凄く長かった? どっちだよ。


「プンちゃんは、その、どこまで?」


「え!? えっと、どこまでって......」


「は? 最後までだろ普通」


「「 最後まで!? 」」


 なんだこのコンビは声を揃えて裏がして。途中でクエスト説明終わったら困るの当たり前だろ。ついにポンコツになったか?


「......療狸は向かい側の宿屋にいるわ。速く行きなさい」


「ボク達は少し休んでから準備するよ」


「おう? 行ってくるわ」


 ここの宿屋貸し切りにしといて別に宿とるとか......クエスト説明もその場ですりゃいいのに、大神族ってのは無駄な事が大好きなのか?

 でも今は、この宿屋から少し離れたいしいいか。ここにいると、みんなを早く助けてあげなければ、という気持ちが湧いて先走ってしまう。


 みんなが自分で選んだ結果で苦しんでいるなら、ここまで助けたいという気持ちにはなってないだろう。だか今は違う。知らないうちにサクラ毒だの何だのって、そんなの本人達もわたし達も納得いかねーよ。やれる事があるならやる。助けられる可能性が1パーセントでもあれば迷う必要はない。


 今から療狸の所へ行って聞く内容は、1パーセント以上の確率で全員助ける事が出来るだろう。


 ついでに妖怪だかアヤカシだか知らねーけど助けてやるぜ。


「そういえば烈風れぷさん達どうしてんだろ?」


 しし屋だけでなく、烈風からも連絡待ちか。待つのは苦手なんだけどな、わたし。


「ポコちゃんいるかー?」


 向かい側の宿屋は本当に向かい側にあり、小さな宿屋。部屋数も2か3しかなく、そのうち一部屋しか扉がしまってない。破れそうな紙を貼られた扉......ではなく、えっと、戸? をわたしはガシガシ揺らすように叩き、療狸がいるかの確認をする。


るぞい」


「おったか、入るぞい」


 ススー、と軽い戸? をスライドさせ、室内へ入り、適当に座る。


「クエスト内容を聞きに来た───んだけども、その前にさ、ハロルドとプー何か様子おかしかったけどどうしたよ?」


「ワラワの力を少し貸してやっただけじゃ」


「大神族の力!? いいな、わたしにも貸してくれよ!」


「お前さんには必要ないのじゃ。さて、クエストの説明じゃが、お前さんは一番大変じゃが大丈夫かえ?」


「余裕だろ。それよりお前の方が大丈夫かよポコちゃん」


「む? あぁ、怪我はまぁ痛みこそ残っとるが平気じゃよ」


「わたし治癒術師でも医師でもねーから怪我の事はわかんねっすよ。それじゃなく、何か悩み事か心配事でもあんのか? ここで会ってから雰囲気違う気するぜ?」


「───別にないぞ? それを言うならお前さんの方じゃろ。魔力も生命マナも寺で会った時とは別物になっとるが......妖力は相変わらずの空っぽじゃの」


「天才とカリスマ性が爆裂して覚醒したって感じよ。すげーだろ?」


「凄すぎてワラワじゃ理解出来んから、本題に入るのじゃ」


「おう」


 お茶を入れつつ、療狸はクエスト内容を詳しく話す。わたしも天才カリスマ冒険者として、詳細を一文字も余さず脳内へメモする姿勢で耳を向けた。


「エミリオ、お前さんに頼みたいのはまず、夜楼華の花弁の採取じゃ」


「夜楼華の花弁? それマズくね?」


「まぁ聞け。お前さんへの依頼は夜楼華の花弁の採取と人工魔結晶の生産。この二つじゃ」


「は? 人工魔結晶? それ禁止だろ!?」


 何を言い出すかと思えば、違法じゃねーか。法律というものには疎い魔女のわたしでも、殺人、盗み、人工魔結晶の生産、はダメな事だと知っている。確か......人工的に魔結晶を作るには人の命が必要になる。そんなモノを作れなんて、コイツの頭はいよいよ神様状態か?


「まぁ聞け。確かに人工的に魔結晶を作る行為は何千年も前に禁止されたのぉ。じゃがある条件の中じゃったら問題ないんじゃよ」


 療狸から溢れ出る雰囲気が変化した。まるでプンプンがガチ魅狐モードになったかのような、安心感と不安感が同居するような、掴めそうで掴めない雰囲気......。


「人工的に魔結晶を作る手段は2つ、そのうち1つを恐らくお前さんは知っとる。じゃからそんな顔したんじゃろ」


 そうだ。わたしが知っている手段は人間50人分くらいのマナをクリアストーンに吸わせ、最後に欲しい属性を吸わせて完成するモノだ。冒険者になる前───ノムーのドメイライトを出てすぐに出会った【ペレイデス モルフォ】から聞いた生産方法。

 そう言えばあの時、セッカが人質にされてわたしは魔結晶を作る気でいたな......それを止めてくれたのは【ペレイデス モルフォ】のマスターであり、ドメイライト騎士の隊長として現れたワタポだ。あと時ワタポの剣術にわたしがクリアストーンを投げて、接触する瞬間に魔術を吸わせて爆発させたんだったな。それでワタポは片腕を失った。

 結果的にわたしはクリアストーンを失い、魔結晶の生産は出来ず、力業でセッカ救出へ向かったんだ。その時ワタポは騎士としてではなく、ギルドマスターとして現れ、わたしは使えもしない魔女力を引っ張り出してワタポの残る片腕を奪った。魔結晶こそ作らずに済んだが、ひとりの人間の両腕を奪ってしまった......魔結晶なんて作ろうとすれば最低でもひとりが犠牲になる。


 療狸が知っている別の生産方法はどんなものなのか知らないが、関わるのはゴメンだ。


「悪いけど魔結晶の生産なんて頭悪い事に関わる気はない」


「その言葉は話を聞いてからでも遅くないじゃろ? お前さんが知らぬ方法じゃぞ?」


「......くだらねーと思ったらすぐ帰るぞ」


「うむ、それで良い」



 話を聞き、具体的な部分も聞き、数十分後にわたしは療狸からのクエストを承諾、受注した。



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