◇448 -仏-1



 外に蹴り出された現在シルキ大陸で最もダサいわたし、エミリオは反省の海に気持ちを沈めていた。プーに当たる形で自分の雑魚さをスッキリさせたかったのか、本当にダサい事をしてしまった。


「プーにとって妹は大切な存在で、それをプーが───殺さなきゃならないんだし。そんな所を突いたらそりゃ怒るわな」


 怒ったのはハロルドだが。

 プーはきっと悲しい気持ちになっただろう。あの場でワタポが起きていたら、ワタポも怒っていただろう......そしてきっとワタポも、今はハロルドが、プーと同じくらい悲しい気持ちになっているだろう。


「謝らなきゃだな......落ち着いたら謝ろう」


 そう心に決めたわたしの耳が草の擦れる音を拾った。またあの、モズか!? と身体を起こし構えるも、モズの気配ではない。小さく、そして弱い気配。モズだった場合派手に暴れて社から誰かを誘い出し、モズを捕まえてロザの餌にしてやろうと企んでいたので内心ガックリしていると、小さな狸が2匹、茂みから飛び出してきた。


「お? 療狸やくぜんの子供か?」


『エミリオ!』『大変じゃ!』


「おぉ!? 誰だお前ら!?」


 喋った。それもわたしの名前を言った。狸に友達はいないが......この狸は妙だぞ。妖力の塊みたいな......マナがほぼ無い。つまりこれは───わたし達魔女で言う所の、使魔や召喚術と似た存在。そして「〜じゃ」という口調はキューレと療狸しかわたしは知らない。この場合間違いなく療狸だろう。狸だし。


「療狸の使いか? どうした?」


『そうじゃ!』『話が早いのぉ!』


 2匹の狸は素早い動きでわたしの足からよじ登り肩に乗る。そして、


『夢幻竹林で療狸が観音にやられたんじゃ!』

『療狸なら今の状況じゃったら時間くらい稼げるのじゃ!』


「あ? 観音って何だ? やられた? 時間稼ぎ? わかんねって! もっと簡単に言えよ!」


『療狸が殺されるかもしれん!』

『療狸じゃったら夜楼華の蕾程度じゃったら隔離出来るんじゃ!』


「───!? オーケーそれだけ分かればいい」


 療狸の命が危険であり、療狸は夜楼華の蕾程度ならば何かしらの対応方を持つ。それだけ分かれば後は頭のいい連中が何か考えてくれるハズだ。今わたしに出来る事は───


「おい! 緊急事態だ!」


 社にいるみんなへこの事を伝え、療狸を助けに行く事だけだ。


「竹林で療狸が殺されるかもって、この狸が!」





 わたしの肩から降りた狸は状況の説明にクチを走らせ、みんなが理解するよりも速く、わたしは夢幻竹林へ空間魔法を繋ぐ作業をした。

 この狸達が孤島である楼華島サクラじままでどうやって来たのかは知らないが、ここから竹林へ急ぎ向かうには空間が必須だろう。竹林道は知ってるし療狸のマナも妖力も知ってるうえに、療狸アイツは少ないとはいえ魔力もある。微量でもわたしが知る魔力があるならば、繋げるのは簡単だ。

 問題は繋いだ後、噂のカンノンとやらから療狸をどう守るか......いや、それ以前にまず、今わたし達が直面している問題、サクラ絡みを放置して療狸救出に向かっていいのか?


「エミリオ、その空間は自分以外を飛ばして閉じる、その後何らかの合図で再び空間を繋ぐ、は可能か?」


 笠のお化け───ではなく、滑瓢ぬらりひょんというよくわからない妖怪 螺梳ラスの質問にわたしは人差し指と中指を同時に立て、その後親指だけを立てる無音の返事をした。

 どっちもいける、の意を汲み取ってくれたらしく話は次へ進む。


「俺と八瀬と、あとひとり出来れば薄板持ちが......」

「俺がいくよ」


 螺梳の言葉に即座反応したのは龍組であり、今は療狸寺の刺繍入り装備で身に包む烈風。思えば療狸ピンチ報告をした瞬間誰よりも早く反応したのが烈風れぷさんだったな。さすが無駄に速くなる能力を持ってるだけの事は......無駄に速い......。


「よし、俺と八瀬と烈風でエミリオの空間に入り療狸を救出する。救出後は薄板でエミリオへ連絡し、空間で戻る」


「その間、私達はここで看病と警戒ってワケね?」


「あぁ。近くに居ると居ないじゃ大違いだろう? 頼めるか?」


「いいわ」


 ハロルドも螺梳の作戦を承諾し、わたしの空間はいつでも開ける状態である事をオリジナルのサインで伝える。



「準備いいか?」


 腰のカタナ───わたしの節穴でも中々の品であると理解出来る、凄みカタナを螺梳は少し抜き、青味のある紫とでもいうのか、独特な色で波模様を描く刀身をチラ見せし、心地良い音で納めつつ2人の準備OK合図を待つ。


「私はいつでもいける」


 和國装備の軽装───と言ってもニンジャ系ではない軽装で腕を回す眼鏡鬼。


「俺も」


 と短く答え、既に太刀を抜いている烈風は鞘を社へ置いていくらしい。黒緑色の刀身が微かな風を逆巻かせる、あの太刀も中々の品で間違いないだろう。


「エミリオ、頼む」


 何もない場所に開く虹色の空間。

 そこへ迷いなく飛び込む和國の三人衆。

 カンノンがどんなヤツなのか知らないが、不思議とこの3人なら療狸を確実に救出してくれる気がした。そして、療狸ならサクラ絡みの件へ何かしらの案をくれる気がした。



 そんな気がした。




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