◇434 -酒呑童子-1



 遊廓にある城は派手な見た目とは違って単純な造り。複雑化してしまうと住めたものじゃない、と意外にもまともな理由で中は簡単化されていた。簡単化これが侵入者には厄介で、隠れる場所もなければ逃げさ先でもすぐ発見され、確保されてしまう───のが普通だが、今侵入している者達は普通とはかけ離れている。

 発見されても顔色ひとつ変えず、挑んできた場合は相応の対応をとる。


「凄く、硬い、のね。鬼、って」


 向かってくる鬼をモモカを操り簡単に薙ぎ倒すリリス。既に3階まで進んだクラウンだったが、戦闘は全てリリス───モモカがしている。

 この調子で4階もあっさりと通過し、最上階である5階へ到着。


「誰もいない───あの奥にひとりいるくらいか?」


 最上階は長い廊下があり、所々に部屋もあるが気配は最奥の大部屋からひとつあるだけだった。ダプネはその気配を感知し、周囲への警戒を緩める。


「奥にいるのが目的の鬼サン! 酒呑童子ナリ」


「へぇ、その、酒、呑、サン、は、強い、の?」


「5本角ナリ!」


 下の階層には1本、2本角の鬼が多く、弱かった。数十名の3本角は他の鬼より強かったが、それでも物足りなさを感じていたリリス。4本を飛んで5本に会える事を嬉しそうにしていると、ダプネが先に立つ。


「その酒呑童子っての、わたしが相手していいか?」


「む、横、取り、は、ダメ、よ、ダプネ」


「んやんやんや! リリスちゃんは廊下ここで下から来る鬼を相手してくれナリ」


「下? あ、ほんと、だ、沢、山、きてる」


「うむうむ、わたしとダプネちゃんで酒呑童子を誘ってくるナリ! 仲間にした後で戦いたいならわたしがお願いしてやるナリ!」


「うん。それ、なら、いい、わよ」


 リリスにとって酒呑童子が重要ではなく、戦える事が重要だったので、酒呑童子ひとりと戦うよりも大勢の鬼、それも怒り登ってくる鬼を相手にした方が楽しいと判断し、廊下で迎え討つ役を嬉しそうに承諾した。


「うむ、それじゃ戻るまで鬼退治任せるわさ」


 フローはリリスを残し、ダプネと共に廊下を進む。無駄に長い廊下を土足で進む2人の魔女は半分ほど進んだ所で、


「酒呑は元々仲間ナリ。でもきっと喧嘩売ってくるナリ。お試しお楽しみ、みたいなノリで戦闘したいマンだから───ダプネちゃん相手してあげてな? 頃合い見て止めるから安心安全!」


「それはわたしが負けるって事か?」


「んーと、まぁそんな所ナリ。だってダプネちゃんもリリスちゃんも “鬼の殺し方” を知らないっしょ? 普通の殺り方じゃ鬼は殺せないわさ」


「今は強い相手と戦えるなら何でもいい」


「あれま! ダプネちゃんも狂戦ゴリラになったナリか?」


「なんだそれ.......、今の自分がどこまでやれるか試したいんだ」


「あ、そゆこと。それならいい相手ナリね。んじゃ鬼退治へゴー!」





 鬼が虎や龍と対峙しているような絵が描かれている大扉の前でわたしとフローは立ち止まった。フローはわたしを見て「行くナリ」と一言いい、扉を蹴り破った。


「たのもぉ〜〜!」


 とふざけた声を響かせるフローはいつもの如く緊張感を持ち合わせていない。


「あぁ! 扉壊さないでおくれよフロー」


 男の声が返ってくる。広く物の少ない部屋の奥で、大きなソファーに身体を沈めていた鬼はすぐ立ち上がり、フローの粗相に反応する。見た目は───子供のような鬼。


「酒呑童子ちゃん! 迎えに来たナリよ〜」


「まず扉を壊した事を謝罪するのが先じゃない?」


「あいやーごめんぴ。んで、迎えに来たナリよ〜!」


「───はぁ。フローは全く落ち着きがないなぁ。どうだい? 少しの間この遊廓で働いてみるのは? きっと色々学べて品もつくよ」


「めんどくせーからノーてんきゅー! わたしはいつでも能天気ー!」


「ははは、本当に能天気だ。でもそれがキミの魅力でもあるからね! それで......そちらのお姉さんはどなたかな?」


 フロー相手に笑顔で話す子供───年齢は恐らく相当上だろう───鬼は、わたしを見て紹介を待つ。フローが言っていた好戦的な鬼にはとても見えないが......角は確かに5本ある。

 鬼の強さは角の大きさではなく、数で決まる。3本でリリスは “モモカ” で楽勝だったし5本も大した事なさそうだな。


「このお姉さんは、魔女のダプネちゃん! クラウンのメンバーだわさ!」


「へぇ......! よろしくね、ダプネ。僕は酒呑童子、みんなは酒呑って呼ぶからそう呼んでくれると嬉しいな」


「あぁ、よろしく」


 なんだこの鬼......本当にフローが言っていた好戦的な鬼なのか? ニコニコ笑って握手まで求めてきて、本当に子供のような───


「───?」


「ダメだよ? 簡単に握手なんてしちゃ」


「あれまー! ダプネちゃんピンチ!」


 体温よりも少し高い温度をが伝わり、嘲笑めいた酒呑の表情がわたしを弾くように下がらせる。


「手、見てご覧なさい?」


「......なんだこれ」


 握手した手のひら、右手のひらが真っ赤に染まり、赤の中心───鬼の手が一番多く強く触れた部分は紫色に変わった。そして、


「痛ッ!!? ......ただれ始めた......お前、何をした?」


「今ので小範囲の爛れだけか......時間経過で溶けるかな? あ、怖がらなくて大丈夫だよ」


「何をしたと聞いている!」


楼華結晶サクラの破片を入手出来たんだ。それをちょっと加工して手袋に装着して、握手したらどうなるのかなーってね! 予想通り、アテられるみたいだし使い方によっては凄い楽しい代物だね!」


 サクラ......触れただけで効果を発揮するように加工したのか......それを握手で使うとか、コイツ頭おかしいんじゃないか?


「さてさて、ここに解毒剤があるんだけど、時間は約10分! 僕から奪えたらダプネを仲間として受け入れるよ!」


「ッ───」


「死んだら握手した自分を怨みなよ? 実際フローと行動を共にするなら僕より弱い時点でお話にならないと思うし......あ、僕は戦闘はそこそこで、本業はモノ作りだから解毒剤の効果は完璧だよ、安心して奪いにおいでなさい」




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