◇435 -酒呑童子-2
子供のような見た目をしている鬼、酒呑童子。戦闘はそこそこ、と言っていたが、何がそこそこだ。コイツは相当強い。わたしの魔術を妖術で相殺しつつ剣術は体術で流してくる。動きを確認するつもりで初手は見抜きやすいものを選んだが、時間も限られているし、今の攻防だけで相当な実力者だと理解できた。
「凄いねキミ! でも、その剣が足を引っ張っているね......安物だろう? 僕から解毒剤を奪えたらキミに合う超一級品を作ってあげるから、一緒に頑張ろう!」
解毒剤は腰に紐で吊るされている小瓶......アレを奪えばわたしの勝ちか。ヤツの右手にはサクラがある。それを警戒しつつ一気に攻めたいが、動きが速い。
不意討ちされた事に対しては若干......いや結構腹が立っているが、今は解毒剤の入手を最優先にしよう。アイツを叩くのは解毒剤後でいい。
「あら? どうしたの? 立ち止まっていても楼毒は止まらないよ? まだ諦める時間でもないし、僕も頑張って逃げるから一緒に頑張ろう!」
「何が頑張ろうだ......ところで、解毒剤は飲めばいいのか?」
「あぁ、そうだったね、ギリギリで奪えた場合は質問時間も惜しいよね。気が回らなくてごめんよ......。解毒剤は飲めばすぐに解毒が始まるから飲んでしまえば腐食は止まる!」
「そうか───じゃあ飲ませてもらう」
「え───!?」
わたしの手には既に解毒剤が。酒呑は腰の瓶を確認し、本当に奪われている事を知った時には飲み終えていた。
「〜〜......っ、酸っぱいなコレ」
「いつの間に......」
空の小瓶を投げ捨て手のひらを確認した所、本当に腐食が止まり、みるみるうちに回復する。
即効性か強く効果も絶大な解毒剤を作ったのがあの鬼か......フローが仲間として迎えている理由がわかった気がする。
「さて、これでわたしは時間に追われる事もない。このまま少し相手をしてもらうぞ、鬼」
「それはいいけど、いつの間にどうやって解毒剤を!?」
「そのうち解るだろ」
───数十分後、鬼との戦闘は終了した。
わたしは左腕と肋骨が数本折られ、爪での傷も複数ある状態だが、立っている。
「わたしの勝ちだな」
鬼は喉と腹が裂け、身体中に火傷を負い倒れている。
「......、、、いやぁ〜強いねダプネ!」
「鬼ってのは妖怪じゃなく化物なのか?」
醜い火傷は皮膚を溶かし肉を焼いている。喉も腹も深く裂いた。にも関わらず酒呑は立ち上がり声を出している。
顔が引きつりそうになる程デタラメな自己再生力。裂いた傷は塞がっているものの火傷はまだ癒えない。唇も焼け落ちキバは剥き出し、眼球が溢れ落ちそうになっている状態で、鬼は無邪気に笑う。
「魔女の魔術は治すのが難しくて参るよ、それにさっきの剣術はなんだい? 妖剣術によく似ていたけれど......魔術と剣術を上手に合わせたモノだよね? でもただの魔術剣術じゃない......妖力の特性を魔術で再現しつつ、その効果を持ったまま剣術と合わせたんだね!? 油断しちゃったなぁー魔術は別だとして、まさか安物の剣で肌に傷をつけられるとは思いもしなかった。ダプネは凄いね!」
「鬼ってのはみんな硬いのか? おかげで安物の剣がこのザマだ」
ガタガタに刃こぼれする剣を酒呑の足元へ投げ捨て、痛撃ポーションを飲む。
コイツは、酒呑は強い。今も単調な体術と弱そうな妖術しか使っていないうえ、能力もまだ隠している。クチ数が多く子供のような性格で巧みに
「あ、約束通り超一級品を作ってあげるよ!」
「あぁ、頼む」
「さて、僕は鬼達を止めに行ってくる。廊下に別の仲間がいるだろう? その人も強いね......。フローとダプネはここで休んでいるといい! それじゃあ行ってくるよ」
火傷も焦げ程度まで治り、酒呑は大きく手を振り部屋を出ていった。
「......フロー、あの鬼は廊下でリリスに喧嘩売ると思うか?」
「んーや、多分売らないナリ。だってリリスちゃん本格的にヤバイ系女子だわさ」
「確かにアイツはヤバイな」
「それよか、凄く強くなったナリね! 止めに入る必要ないって思えたのはビックリドキドキしたっちゃ!」
「あぁ......もう引き返せないからな」
「ふーん」
「それより傷治してくれよ、何か治癒系あるんだろ?」
「うわ、めんどくせー。酒呑が来たら治癒術持ちの鬼呼んでもらうわさ」
「なんだよそれ。まぁいいけど」
酒呑と戦闘して、酒呑がまだカードを隠しているのは間違いない。だが、わたしも同じだ。
魔術も剣術も簡単なものだけを使い、能力も隠している。難易度の高い極小空間魔法も計算通り繋げられる事もわかったし、クチ数が多い酒呑の気を会話へ向け、その隙に指数本が通る空間を繋ぎ解毒剤を奪った。こんな極小空間は攻撃面では役に立たないが使えて損は無さそうだ。
確かフローはシルキ大陸へ
「なぁフロー、アイツ本当にスミスなのか?」
「んあ? ほうあお」
「は? 何言ってるか───は?」
「んぐ?」
「お前......今それ食わなきゃダメか?」
グルグル眼鏡は怪我したわたしを放おって、ダラダラと寝転がりパンを咥えてフォンを触っていた。
「んぐっ、腹減ったナリ。和國の食べ物は高貴なわたしのクチには合わないわさ」
安物のジャムパンを食ってるクチがよく言う。
「───朝だな」
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