◇407 -金熊-
蜃気楼2階にある大広間。綺麗に片付けられた室内はだだっ広く窓以外なにもない。本来ここは宴会などを行う場だが、もう何十年と使われる事がなかった部屋に、ウンディー大陸のジュジュ、リナ、だっぷーと噂の鬼がいた。
「お? 人がいるじゃん。キミら眠姫を......ってその格好は外からの者達!?」
酒の匂いを漂わせながら3人を見てはしゃぐ鬼。
「鬼......なんだか凄くエロイ!」
「エロ鬼ニャ! にゃっは!」
「ハハハ! それ、よく言われる!」
と、楽しげに会話を始める女性陣を横にジュジュは鬼を観察していた。武器の類は見当たらない。手には瓢箪と大酒皿。ほろ酔い気味で上機嫌な鬼。今の所危険度は低い。今の所は。
「俺はジュジュ、まぁ......商人だ。あなたは?」
地下で遭遇した鬼とは違って敵意は───地下の鬼も敵意というより遊戯だったが───ない。そう判断したジュジュはとりあえず会話をしてみる事にした。
「ジュジュ! よろしくね! 私は
自己紹介に明るく自己紹介で応じてくれた
「私はだっぷー! ホム───......
「私はぁリニャ! 見てにょ通り
簡単に名乗り、リナは金熊が注ぐ酒に瞳を輝かせヨダレを飲む。常時酩酊状態とも言えるリナは酒が大好物の猫人族。この場にゆりぽよが居た場合、リナの自己紹介後に付け足しとして「リニャに火ぃ近づけると爆発する恐れがあるニャ、気を付けるニャ!」とふざけた情報を添えるだろう。そう言われる程リナは酒を飲む。
「なになにー? リニャは酒イケるクチなの?」
「イケるクチニャ! それは
嗅いだ事のない香りを持つ酒はそれだけでリナを刺激する。ヒクヒクと鼻を動かし香りを落ち着いて嗅ぐも、やはりリナの記憶には存在しない酒。
「これは
「妖酒う!? それが妖酒なのお!?」
素早い反応を見せたのはリナではなく意外にもだっぷーだった。リナは酒好き、ジュジュは商人、この2人が反応するならばわかるが、だっぷーがいち早く反応した事にリナもジュジュも、金熊もなぜか驚いた。
「妖酒だよ、それも極上の妖酒。呑んでみる?」
「
「私は......いい! いらない!」
「俺も遠慮しておく」
「あらー、残念。まぁいいや! さぁリニャ! 酒は沢山ある! 付き合えよー?」
「
酒を餌に奇襲を仕掛けてくるのではないか、と構えていたジュジュだが、どうやら本当に酒を呑ませるだけらしく、大酒皿に注いだ妖酒をリナへ渡し乾杯、金熊は瓢箪から直接呑む。
「───にぃ!!? すっごいニャ! これ、にゃろうま!」
「でしょでしょー!? にゃろうまって初めて聞いたけど、私達が言う所の鬼旨いって事かい!?」
「それニャ! 鬼旨ニャ!」
極上の妖酒に舌鼓を打つ鬼とやかましく騒ぐ猫人族は一瞬で仲良くなり、ジュジュはただ戸惑う。鬼と遭遇 即戦闘になるものばかりだと思っていたので今の状況───仲良く酒を呑む状況は予想外もいいところ。仲良くするのはとてもいい事だが、ジュジュには放置出来ない事があった。
───戦闘になったらなっただ。
「なぁ金熊、なんで鬼は
「眠姫を拐いに来た! でも私はそういうの乗り気じゃないんだよねー。やったやられたやりかえす、ばかりじゃ何の解決にもならないし、今やるべき事は妖怪もアヤカシも人間も手を取り合ってシルキ大陸の
想像もしていなかった答えにジュジュのみならず、だっぷーも、リナも眼を丸くした。しかし金熊が言っている事は正しい。やった、やられた、やりかえす、だけでは絶対に何の解決にもならないし進歩進展もない。個々の種の問題ではなく自国の問題という大規模なものを前に、いがみ合っている場合ではない。鬼という種、組織として金熊は蜃気楼へ来たものの、金熊個人としては今ここに自分が居て、眠姫を狙っている事自体間違えだと感じている。
「......私達は、
だっぷーは強い瞳を金熊、そしてジュジュへと向けた。ひとりではどうにもならない事がある。だっぷーはそれを嫌と言う程知っている。大切な人を探すにも、救うにも、ひとりでは不可能だった。でも自分の問題だからこそ誰かを頼るのは違う、巻き込む形になってしまったら申し訳ない。と考えていた。それでも、助けてくれる人はいる。だから、今度は自分が助ける側になるのだと決めていた。そこに国の違いだとか種族の違いだとか、そんな事は助けない理由にならない。
そう強く訴えかける瞳に金熊は小さく笑い、両手を開き手のひらを見せる。
「ジュジュ、先に言っておくけど私はキミ達とやり合う気はない。大名達が言う今の外の者達とキミ達は全然違うし、大昔に会った外の者達に似た優しさや人らしさを感じたよ。鬼も妖怪もアヤカシも、猫人族も人間も、人だ。支え合える時は支え合って生きて行きたい」
人間が人だとばかり考えていたジュジュ、だっぷー、リナは金熊の言葉に誰よりも人らしさを感じた。
「そうだな。それが一番いい」
「......ハハハ、鬼なのに鬼らしくないよね? ハハハ、でもこれが私だからどうしようもないや!」
「いいと思うぞ? 魔女なのに魔女らしくないヤツや天使なのに天使らしくないヤツもいる。自分らしささえあれば種族らしさなんて必要ないだろ」
「そう、かな......ジュジュは優しいなぁー! 恋人がいなかったら惚れてたかもよ?」
「そりゃ残念だ。ま、金熊くらい綺麗な人になら恋人くらいいてもおかしくないよな」
「恋人いるんだあー!? ねね、話聞かせてえー!」
「私は酒ニャ! 酒をもっとくれニャ!」
恋バナに花を咲かせたいだっぷー、酒を呑み尽くしたいリナ、困ったと言いつつ嬉しそうな金熊。どこの大陸───国にいても、どの種族でも、人と人はやっぱり協力しあえるものだ。好き嫌いや合う合わないはあるが、協力は出来る。それが言葉を持ち感情を持つ、人だ。
「楽しそうな話も美味そうな酒も、今は一旦ストップだ」
ジュジュは鬼も含めてこの場にいる者を束ねるように言い、鋭い視線で金熊を見る。
「地下で鬼が暴れてる。俺達の仲間と少年が残ってる。他の鬼の動向も気になる」
「うん、だから協力しよう。私もやっぱり仲間を止めたい。こんな事間違ってる」
上からの命令だから、と自分へ言い聞かせて蜃気楼まで来た金熊だが、やはり今の自分達の行動、今のシルキ大陸には納得出来ない。誰かが何かしてくれる、と他人任せにしていた自分も悪い。今度は、自分で、自分の意思で動いてみよう。
金熊は胸の中にある今まで眼をそらしていた本心と向き合い、決心した。
「ありがとう、助かる」
「こちらそこ、ありがとう」
優しき鬼、金熊はシルキ大陸の今のため、未来のために、鬼としてではなくひとりの人として、旗を掲げる事を決めた。
外から来た者と手を取り合って、まずは四鬼を止める。そう意気込んだのもつかの間、
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