◇402 -蜃気楼-3
天井を突き破り現れた鬼は、こっちの都合などお構いナシに拳を撃つ。長身で筋肉質という何とも恵まれた体格から放たれる拳は速度と威力がまさに鬼と言える。
「あっぶニャ! 酔っぱニャ、私酔っぱニャんだぞ!? それにぃ私は女ニャ! 優しくするニャ!」
わたしでは全く見えなかった拳を酔猫リナはギリギリで回避、鉄格子を押し千切るという規格外なんて言葉では片付けられない威力はわたし達の戦闘スイッチを無理矢理押した。本能的に距離をとったウンディー勢は全員武器を取る。そんな中、
「遊びに誘われたのは俺達だ。みんなはエミーと先に行ってて」
ヘソ出し瑠璃狼───カイトは流動するように微発光する大剣を構え、鬼を見る。
「お前ひとりじゃ遊びにならねえなぁ......最低でも後ひとり、お前残れ。そうしたら無闇に追わぬが......鬼ごっこがしたいならそれでもいいぞ? 捕まえたら潰すが」
ご指名されたのは角猫るーだった。
「突然湧いてその身勝手は頭にくるニャー。俺達はお前と遊んでる暇にゃいんだけど......追われるにょも面倒ニャ。俺とカイト───と、お前達も一緒に遊ぶニャ?」
隻眼の鬼猫は鬱陶しそうに伸びた髪を揺らし、鬼が現れた穴の方を見る。わたし達も釣られて眼を向けると、雪女、妖華、そして白蛇が。
「雪女と妖華は上に行った方いいぞ? なんせ俺の他に3人の鬼が蜃気楼に入ってるからな」
「ヒェ、鬼が3人!?」
「どうして......」
「どうでもいい。お前を殺して武具素材にしてやるよ、鬼」
慌てる雪女、雰囲気を鋭くする妖華、邪魔されてキレてる白蛇を他所にわたしは、
───おいおい聞いたかキティ、アイツみたいのが他に3人もいるらしいぜ。
───聞こえたニャ。あんにゃの相手にしてられにゃいし、音を聞いて上手く逃げるニャ。
スーパー小声で呟く。これも拾ってくれるキティことゆりぽよ。そして相手に聞こえないギリギリで返事をくれる。地獄耳ってやつは便利だな怖いな。
キティだから有効に使えているが、わたしがあんな能力だったら盗み聞きして一日を終える日々だろう......能力もそうだが、全ては使い方次第という事。つまり、こういう事だ!
「おい角男!」
「俺か?」「俺ニャ?」
るーお前のは一応耳だろ! 黙っとけ!
わたしは大きく一歩踏み込み、鬼を指差す。その間にウンディー勢は隊列を組み直す。
「お前だ鬼男! 鬼を3人も連れてきやがって! 何しに来たか教えろよ」
───キティ、わたしが気を引くからだっぷーに粘度抜群のアメーバを鬼にブッパして、と頼んでくれ。
「ハッハッハッ、鬼の俺を前にして中々の度胸だなチビガキ! 教えてやってもいいが、何を払う?」
「あん? チビガキじゃねーエミリオさんだ覚えとけ。あと、払うのはお前だろ? 遊び相手にそこの2人貸してやっから言えよ」
───帽子を触ったら撃ってくれ。
わたしは極小音で呟きつつ、後ろにいるヘソ&るーを見る。わたしが鬼の方を見るまでの間にキティの耳が2回ピクリと動いた。おそらくあれが伝言完了の合図だろう。これで準備は完了、鬼という種がどこまで強いかは知らないが、粘度ネバネトのアメーバ弾を食らえば逃げる時間くらい作れるだろ。鬼の目的さえわかればいい。そしてわたしの予想だと目的はウンディー勢ではなく華組。
「───遊びとかどうでもいいから」
わたしが鬼の方を見返すとほぼ同時に龍組の白蛇が鬼へ斬りかかった。鬼の首を正確に狙い躊躇せず振られたカタナは───鬼の腕によって止められる。
「んな!?」
「ニィあ!?」
「硬い
「鉄なのおー!?」
わたし、キティ、しし屋、だっぷー、が思わず声を出した。白蛇の攻撃には驚いたがそれよりも....鬼はカタナを生身の腕で受けた。その音がまるで鉄と鉄の衝突音で腕には傷ひとつない。
「カイト.....お前ひとりで遊んでくれニャ」
「無理無理。今の見てわかったけどソロじゃ持て余す」
「弱気ニャ〜、ほえァ」
ギチギチと鍔競り合いのような形で押し合う白蛇のカタナと鬼の腕。火花こそ発生していないが鉄と鉄が噛み合い押し合う音と全く同じ。
異常なまでの鬼の硬さにるーとカイトは呆れ笑い、リナは調子狂わず酔いモード、華組はあの鬼を相手にするかまだいるであろう鬼を探すか迷いつつもこの場に残っている───という事は華も目的を知りたがっているって事だろう。
「......カイト、るー、お前ら残ってあの白髪の少年と一緒にアイツを叩け」
黙っていたマフィアがそう言うと脳筋獣耳達は揃って頷き、
「パテリダがそう言うならそうする」
「だニャ。どっちみちあにょ鬼にゃら追って来そうだし、そうするニャ」
なるほど、マフィアがここのリーダーか。メンバーを見る限り一番落ち着いて物事を考えたり状況を整理出来そうなのは確かにマフィアだ。キューレと2人でパテの脳をやってたっぽいが、そのキューレはしし屋のキノコ
「しし、キューレの状態は?」
「ん! 安定して眠ってるダケ、急がなくても大丈夫ダケど」
「うむ......悪いがもう少しそのままで───エミリオ、ゆりぽよ、ししはそちらの華組と共に行動して他の鬼を探して叩け。俺、だっぷー、リナも同じく鬼を探して叩くが、俺達は鬼を探しつつ華の知り合いも探す」
突然の無茶苦茶な指示にわたしは勿論反対だったが、クチを開いた瞬間キティが猫パンチを打ち込んできたので言葉は出ず、
「わかったニャ」
とクソ猫は返事をしやがった。このクソ猫.....いつか尻尾にネズミ捕り噛ませてやるからな。
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