◇401 -蜃気楼-2



 脳筋アホ 2名が鉄格子タイプとはいえ鉄の扉を蹴り破ったシルキ大陸 京にある華組の本丸、蜃気楼の地下牢。とりあえず牢から出る事に成功したウンディー勢は身体を伸ばしつつわたしが教えた状況を各々整理した。その最中、キノコ帽子のしし屋は扉を直すべきか悩んでいたので「直すなら脳筋獣耳アイツらに直させるべきだ」とわたしが言い、カイトとるーはパワープレイで形だけ扉を直した。


 大名だいみょう大親族だいしんぞく夜楼華ヨザクラ腐敗仏はいぶつ.....。

マフィア達───ジュジュ達ならピンとくるかと思っていたがやはりモノを知らないと何とも言えないらしい。しかしどうやら腐敗仏とは遭遇済みらしく、奴等のキモ恐ろしさを知っていた。そして、その腐敗仏戦で有能情報屋のキューレが瀕死状態───からは回復したらしいが今も昏睡していると。

 さらにさらに、上では華組の雪女と花妖怪が龍組とやり合っている状況。響く音から考えて激戦を繰り広げているのだろう。


「なんでマフィア達がシルキに来たのか知らんけども、とりあえず蜃気楼ここから出ようぜ。話はそれからだ」


 折れた刀をフォンへぶちこみ、ナイトメアジャケットは.....まだ装備しなくていい。外套がハーフサイズになったとはいえ、上衣を装備すればもっさり感が顔を出すだけだし。


「ここから出るにしても、出た後の宛はあるのか?」


「大親族んち行く。さっき言った療狸やくぜんってヤツの寺なら華も龍もいないし、キューレの怪我も診てもらえる」


 妖怪はいる事は黙っておこう。それにしても......、


「ずいぶん派手にバトってんな。天井抜けたりしねーよな?」


 音だけでなく揺れも並の戦闘とは思えないが、まず雪女も花も白蛇ってヤツもパワータイプには見えなかった.....それでもこの激戦。確かに雪女の力は強く感じたが、妖怪は力が強い、にしたって限度があるだろ。


「キティ、ちょい聞き耳してみて」


 パラパラと落ちてくる木屑に、流石に違和感を感じたわたしは猫人族ケットシーの地獄耳キティことゆりぽよへ上の状況を音から予想してもらう事に。と言ってもこの猫人族の耳はチートクラスで、音から予想ではなく、音で現状把握出来てしまう。音を聴き取る能力ってショボそうに思っていたが実は凄い。


「───んニッ!? にゃんか凄いにょがいるニャ! 3vs1でも余裕そうにゃヤツが」


 可愛らしく猫耳をピクつかせ、尻尾を立てる猫人族ゆりぽよ。あの耳が拾った情報が3vs1.....


「雪女と華女とさっきの白蛇.....あとひとり誰だ?」


 わたしの記憶では3人しか上にはいない。勿論この蜃気楼にいるであろう新たな華組───例えば鬼や眠喰───が参戦したのならば4人でも不思議ではない。


「化物でもいるにょかニャ? こにょ揺れは普通じゃにゃいニャ」


「んにぃぃあぁ〜私にょ視界も揺れてるニャぁぁ〜んころにゃん」


 脳筋猫人族のるーは鬼角のように変化してしまっている耳を撫で、何やら考える。隣ではフォンから酒を取り出して飲む酔い猫のリナがフラフラと。るーはともかく、リナも大剣を背負っているがベロベロの状態で大丈夫なのか?


 キノコ帽子のしし屋とホムンクルスとかいう架空っぽい存在のだっぷーは小瓶やら素材をトレードしてるし、狼耳おおかみみと謎の模様が身体に残ったヘソことカイトはリナから貰った酒を呑んでるし、コイツら本当に頭大丈夫か?

 大名だとか大神族だとかの話は確りしたし聞いてたうえでこの有様......


「とにかくここを出てエミリオの知る大神族の所へ行こう」


 唯一まともなジュジュが言うと、意外にも全員言う事を聞いた。よくこんな自由溢れ散らすクズ共をまとめていられるなマフィアよ。まぁ実力面は優秀だしここは上手にマフィアを抱え込み、ダブル鴉をゲットしに行く方向へ話を進めれば勝ち、サクッと素材ゲットしてこんなあぶねー大陸ともおさらば出来る。


「よし、お前ら! わたしについて───」

「エミリオ待つニャ!」


 わたしの事をフローと呼ばなくなった猫人族のゆりぽよは、療狸から借りた外套を強く引きわたしを引き戻す。たった数歩しか歩いていないというのに力技で足を止めさせるのはやりすぎじゃね? と思ったのも束の間、あと2歩程で到着していたであろう場所の天井に亀裂が走り、落ちる。

 砂埃が煙のように立ち込める地下で薄っすらとシルエットが浮かんだ。まず長身、そして───角のような影。 


「ハッハッハッ、絵魔えまを相手に床を壊しちまった。匙加減ってものがイマイチわからぬ」


 と豪快な笑い声を響かせ、何かを飲む影。体格と声は男性で、長髪のシルエット......


「......なんだコイツ?」


「わからにゃいけど......地下この 上にいたにゃかでは気配が一番大きいヤツだニャ」


 わたし、そしてゆりぽよが小声を出し会話すると、大きな影はピクリと反応した。


「あ? 誰かいる......みたいだな。8匹か、誰だお前ら」


 豪快に突き抜けた───突き破られた───天井は今もまだ砂埃を漂わせる。ここが地下という事もあり、ロクに掃除もしてなかったのだろう。お互い影は見えるものの姿が見えないウザったい煙を、長身の角男は腕のひと振りで消し飛ばした。


「角あるじゃん!?」

「角あるニャん!?」


 わたしとゆりぽよは揃って声をあげると鬼男は豪快に笑う。


「鬼だから角があっても不思議じゃないだろう? それより何だお前ら! 元気いいガキだな───って後ろはガキじゃないな」


 最前列にいたわたしとゆりぽよしか見ていなかった鬼はスッっと視線を奥へ向け瞳を鋭くした。


「上に仕事が残ってるんだが.....誰か片付けるだろ。仕事よりお前らに興味が湧いた。そこの耳2匹と角1匹───俺と遊べ」


 ボキボキと指を鳴らす鬼は体格も性格もパワータイプに思えたが、予想以上の───予想外の速度で移動し、カイトとるーへ肩を組みリナを見て挑発的に、楽しげに笑った。



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