◇403 -蜃気楼-4



 夜の匂いが深みを増すシルキ大陸の首都 京にある城、蜃気楼。地下に鬼が現れ、るー、ヘソことカイト、そして白蛇を残してわたし達は1階へ登った。

 大剣使い2人と未知数な白蛇が鬼の相手をしている間に、わたし達は別の鬼を探す。勿論、わたしはそんなもんシカトしたいのだがここで自由に振る舞えば後々助けてもらえないかもしれない。ここでマフィア達───ジュジュ達の指示に従って動いておけば後で「鬼退治手伝ったろこっちもよろしく」と鴉回収隊に強制入隊させる事が出来る。

 幸い、狙いの鴉は素材であり【廃楼塔】とやらにある事までわかっているので、時間はまぁある。


 マフィア達は別ルートで鬼を探すらしく、1階で分かれ、今ここ───蜃気楼の入り口近くの広間には、魔女の歴史上最強であり天才のエミリオ様と他がいる。

 鬼は地下にひとり、他に3人の鬼が蜃気楼にいると言っていた.....詳しい目的は不明だが華狙い───だと思っていたのだけども、白蛇がスーパー掠り傷だったがダメージを負っていた事から考えて、邪魔そうなヤツなら誰でも消すノリか? そういうのはレッドキャップとかクラウンとかでお腹一杯なんだけど。


「キティ、しし屋と一緒にここから出ろ」


「にぃ!? にゃに言ってるニャ?」


 華とか龍とか鬼とか、そういうのは勘弁してほしいが帽子事情で今放り投げる事は出来ない。いくら安定して安静にしていると言っても場所が場所なだけにキューレが心配だ。


「竹林に入ったらキティの耳で探りながら上手く進んで───」


 ここでわたしは外套を脱ぎ、キティへ渡す。


「この匂いがする場所を目指せ」


 療狸から借りた外套は、療狸寺で焚いている妙に落ち着くハーブか何かの匂いがついてる。猫人族であるキティは嗅覚が並より良く、しし屋も獅人族。2人とも人間や妖怪よりは鋭い嗅覚を持っている───と信じたい。


「フロ.....エミリオはどうするニャ?」


「わたしは鬼を探す。いいか? 大きな寺についたらすぐキューレを診てもらって、寺に人間がひとりいるから、その人間に頼んでここまで送ってもらえ」


「キューレさんを安全なトコへ運んでノコノコ戻る! 理解!」


 しし屋はすぐに外套の匂いを確認する。キティは何か納得がいかない雰囲気だがキューレの事を考えれば、


「わかったニャ。すぐ戻るニャ」


 そういう答えを出してくれる優しいヤツだ。


「モンスターの気配とかしたら全力で逃げて寺を目指すんだぞ。そしてすぐ戻ってきてくれ」


 キティとしし屋は頷き、蜃気楼から走り去った。


「ひぇ〜エミリオさんは意外に優しいんだね。もっと自分の事しか考えてない人だと思ってたよ」


「優しさの代表だぜ? でも今は自分の事を優先して考えてる部分もある。鬼がどんだけ強いか知らねーけど、地下のアレを見た時点で相当厄介だって事はわかったからな。だからすぐ戻ってきてって言ったんだ」


 鋼鉄のような皮膚を持つ鬼を相手に、数が多すぎるなんて事はない。むしろ2人が戻ってきても少ないくらいだろ。それ程までに鬼の硬さ、頑丈さは衝撃的だった。


「どうして鬼が今ここに.....それも龍組と同時に.....」


 ヒェヒェ雪女とは違って確り根を張って考える妖華だが、


「......考えてる暇はないですね。とにかく鬼を探しましょう」


 状況判断、何を優先すべきかを見極める力もあるらしい。龍については詳しく知らないが、華は結構いいメンバーが揃ってるな。


「動く前にひとついいか?」


 すぐに鬼を探すべきなのはわかっているが、闇雲に探しても疲れるだけ。鬼を敵と考えて......


「ここに宝、または今シルキにとって大切な何かはあるか?」


 鬼の前に龍が来たってのが引っ掛かる。蛇だけど。


「ヒェ!? まさかエミリオさんまだ何か企んでるの!?」


「あ? 何言ってんだお前! いいからサクッと答えろ溶かすぞ」


「宝、はわかりませんが......今のシルキにとって大切な鍵はあります」


「それだお花ちゃん、蛇.....じゃなくて龍と鬼が同時に来るとかおかしいだろ。仲間じゃねーみたいだし、蛇も鬼も仕事って言ってたから裏で糸引いてるアホがいる」


 裏で糸を引いてる輩は決まってゴール品を狙う。今のシルキにとって大きな意味のあるモノがその鍵だとしたら、鬼に指示を出したヤツはそれを狙ってる。華と対立している龍が来たタイミングってのが尚更怪しい.....龍に指示を出してるヤツが鬼にも指示を出したか? 後々面倒な事になる前に龍を消して、鍵は鬼に奪わせる。地下で鬼と短い会話をしたがその時点で鬼は「何を払う?」と言ってきたし、あの頑丈さだ。シルキで何が起きても生き残れる自信があってもおかしくはない。報酬を提示して噂の鍵を奪わせる。その時邪魔してくるヤツは全員消せ、みたいに言えば必然的に華と龍を消す事にならないか?


「エミリオさん考え込んじゃったよ」


「早く鬼を探さないと.....」


 レッドキャップのやり方、表をゴタゴタにして裏で美味しい部分だけ食べるやり方を雑にしたような感じだな.....今のシルキ事情は一応療狸に聞いた。詳しい話は聞いてないが、誰と誰がバチバチしてて何がどーなったらヤベーのかは聞いた。


「なぁ、その鍵って......ヨザクラに関係あんの?」


 ヨザクラ、というワードが2人を停止させた。それ程大きな意味を持つ───多分、木だろうヨザクラは療狸ポコちゃんの話を聞いた限りでは今のシルキの環境.....内戦を起こした木。

 手っ取り早くゴールするならヨザクラをどうにか出来る力かあればいい。


「エミリオさんは、敵?」


 真面目な表情でひぇひぇ女のスノウがわたしを見る。確かにコイツとはやり合った仲だが、わたしはスノウを嫌いじゃない。


「敵じゃないけど、華の味方でも龍の味方でも無い」


 今言ったのは嘘ではない。どっちの味方でもないし、どっちの敵にもなりうる存在が今シルキにいるウンディー勢だろう。勿論わたしも含めてな。


「......鍵っていうのはミソ、眠喰バクの事です。詳しくは言えませんが、もしエミリオさんの勘が当たっているなら、鬼の狙いも龍と同じく眠喰」


 眠喰.....アイツが鍵!? 華組の鬼の方が厄介そうに思うけど、華が言うならそうなんだろうな。


「とにかくミソの所へ急ごう! 龍もひとりとは思えないし、鬼も狙ってるなら急がないと!」


「そうだね、みんみんの所へ速く!」


 確かにそいつが鍵なら速く近くに行った方がいいな。

 フォンをタップし、上衣【ナイトメア ジャケット】を取り出し装備。カタナや箒を包んでいた黒布や丸笠やらをフォンポーチへぶち込み、剣と短剣の位置も慣れ親しんだ位置へ。魔箒を手放し、その上に立ち乗りしたわたしは、


「ついてくから案内よろ、スピードも結構出せる」


 和國スタイルという窮屈なものをやめ、普段のスタイルに落ち着いた。



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