◇394 -エミリオの魔法-1
ぎっしりと石を積み作られた城壁。城内へ踏み込むにはあの城壁をどうにか越えるか、幅広の橋を渡り、門を潜る以外にない。
城の周囲は水.....広く頑丈そうな橋が一本だけ。見た感じ、城壁の石は無駄に仕上げられていて滑らかだろう、月光をいい具合に反射させているのでまず間違いなくよじ登れない。門番は京門と同じく2人.....となれば、奴らを華麗に気絶させて潜入するのが強者感!
そうと決まれば決行だ。テルテルから眼コピした手刀を早速披露してやるぜ!
◆
「ニャン! ケン! ニャン! アッチ向いて〜ニャン!」
と、地下牢に響く緊張感の無い声。
「んにぃ!? ゆりぽよ今にょはズルいニャ!」
「リニャ弱いニャ〜。そんにゃんで私に勝つ気だったニャ?」
「次はししニャと だぷ が勝負ニャ」
半狼風の人間カイトと猫人族のるー は檻の中だというのに寝る始末。
パーティーリーダーのジュジュも大アクビ。皇位情報屋のキューレは華組の優しさで上の階にある布団で眠っている。ししの話では「危険ゾーンは超えたけどちゃんとした治療が欲しい」状態。華組が治療してくれているかは不明だが、
「おい! 見張りはいいから外に来い!」
慌ただしい足音が響いたと思えば大声が響く。見張り兵が牢を離れた瞬間、ゆりぽよは猫耳をピクリと動かし聞き耳を立てる。
「.....にゃんか外で騒ぎっぽいニャ。誰か城に侵入しようとしたっぽいけど、失敗にて逃げてるみたいニャ」
「レッドキャップか!?」
ジュジュはゆりぽよへ聞くも、兵は既に外へ。するとゆりぽよは能力を使い、外の音を掻き集める。
「黒い服、笠、背中に武器、くらいしか特徴がわかってにゃいニャ」
「そうか.....とりあえず全員備えよう。何が起こるかわからないしな」
◆
「どこに隠れた!?」
「まだ必ず近くに居る! 警戒しつつ探せ!」
と、まさかまさかの大騒ぎ。犯人はこのわたし、影に隠れて華麗に手刀をお見舞いしたエミリオさん。予定では手刀、気絶、潜入、だったのだが手刀が予想外に雑魚すぎて門番兵はお怒りに。テルテルみたいな体術をやろうとしたのがそもそも間違いだったんだ。だってわたし、体術なんて習った事ないし。手痛くしたし。
それにしても、華組って結構いるんだな。この調子じゃ見つかるのも時間の問題......つーかコレ大名に知られるパターンじゃね? そうなったらマフィア御一行は問答無用で仲良く死刑執行? おいおい冗談じゃないぞ、こんなのわたしが殺したみたいになるじゃねーかよ! それは勘弁───.....コレ、もう騒ぎになってるし突っ込んでよくね?
わたしは草影コソコソ動き兵の様子を探る。兵が近付いて来たらコソコソ移動し、また様子を見る。草影を移動中、何か薄いガラスのような物を踏んでしまい、パキン、という音に心臓を跳ねさせるも兵達には聞こえなかったらしい。兵は多少の音や気配は拾えない......となればフォンを触るチャンス! わたしは即座にフォンの画面をタップ、ショートカットに設定していた霧薔薇竜の剣【ブリュイヤール ロザ】を取り出した。上衣【ナイトメア ジャケット】は.....まだいいか。
城に入るまでこの外套で───
「ヒェ〜、みんな熱くなりすぎ。最低2人で行動して、落ち着いて探して」
辺りの様子を見るべく顔を少し上げた瞬間、城から人影が現れ、指示を飛ばした。兵達もその指示に即従った事から権力者である事は間違いない、アイツは───雪女だ。
「初っ端で雪女かよ.....」
外套の前を全開にし、ブリュイヤールロザを腰へ吊るす。ロングコートのようになった
「
───!?
「木の影に居るのはわかってるよ」
木───の影にいるわ。草影じゃなくて木影に移動してましたわエミリオさん。つーかアイツ、何でわかったんだ? まさかエスパーか? リビールされた気配はないしエスパー説が濃厚だな......正体まではバレてないっぽいし、笠で顔を上手に隠して、
「.....よくわかったな」
サムライニンジャのエミリオ参上! ビビれビビれ、この強者オーラにビビった瞬間突っ込むぜ!
「さっき雪の結晶踏んだよね? アレ、設置型の感知術なんだ」
全くビビらねーのな! それに感知を設置するなよ! あのガラスっぽいやつだろ? 踏んだよ、バッチリ踏んだよ! クソ!
「で、何しに
───コイツ、
「......はぁー。なんだってバレんだよ.....まぁいいか」
本当になぜバレた? と思ったが簡単な話だ。魔力は魔術で包んで普通の魔力と同じ質にしてるが、妖力を感知すればいいだけの話。妖力感知に対して対抗手段など知るワケもなく、そもそもわたしは妖力がない。今この和國で妖力なしの存在は多分わたしだけだろう。
バレてしまったのなら顔を隠す必要もない。笠は帽子より広くて深いから視界にストレスもあったし、なにより雪女クラスを相手に笠装備では話にならん。
「また会ったな雪女......。あと、わたしこう見えて2000越えの長寿美魔女だから、エミリオさん な?」
笠を放おって格好よく顔を見せたわたしは愛剣ではなく、療狸から借りた背中のカタナへ手を伸ばす。抜きはしないものの、やるとなったらやるぞオーラを醸し雪女へ視線を突き刺す。
「エミリオさん、目的は?」
「妖怪退治───じゃなくて、お前等が捕まえたウンディー勢を引き取りにきた」
カタナへ手をかけているのに攻撃に備え構える雰囲気がない雪女はペースを崩さず会話を要求する。
「引き取りに来た理由は?」
「大名ちゃんが知ったら即処刑なんだろ? 引き取った後は考えてない」
「そうだったんだ。でも───ここまで騒ぎを起こされたら私達もはいどうぞって渡せない」
「あ? なんでよ」
「今シルキは他国の人に構ってる暇はないんだけど、ネズミ一匹に手を焼いたなんて龍に知られると色々とね?」
華と龍がサクラだったかヨザクラだったかを巡ってバッチバチなのは知ってる。そして雪女が言ってる意味もなんとなーくわかる。
ネズミ一匹に華組をかき混ぜられた、なんて龍に知られればそりゃもう馬鹿にされるだろうな.....そして龍は「ネズミ一匹にやられたんならイケんじゃね?」とかなって特攻してくる恐れもある。
でも───
「───そんなんわたしの知った事じゃねーな。パッパと捕まえたウンディー勢を出せよ妖怪。そうすりゃサクッと退散すんぜ?」
「ヒェ....話が通じないなぁ。言ってるじゃん、他国の人に構ってる暇ないって」
冷気───を肌が感知した時には既に雪女は抜刀し、地面をなめらかに滑るよう駆けていた。わたしが理解した時点で雪女はカタナを絞り、様になっている動作で振る。
「───っば!?」
間抜けな声で迫る雪女の斬撃を受け止める事には成功したが、まさかこんなドライに開戦するとは思わなかった。
「今のシルキにとってはキミ達の存在自体が厄介なんだ。悪いけどエミリオさんも大人しく捕まってくれない?」
───やべぇ、やべぇ妖怪の力強えぇ!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます