◇390 -イフリーの王族-2
少し冷える和國の夜。
お茶をとりに行ったハズのひっつーとわちきが「冷えてきたから中に入ろう」と言うので千秋ちゃんと共にわたしも寺の中へ。ひっつー&わちきはお茶を用意してくれたが一緒には飲まず、2人は夕食の準備へ。「手伝います」と千秋ちゃんが言うも、どうやらこの療狸寺には沢山の妖怪が住んているらしく、手は足りているみたいだ。
なので、自動的に外の続きへ。なぜウンディーは国になったのか、苦いお茶で唇を濡らし、記憶の箱から引っ張り出した内容をわたしは話した。
当時ウンディーの事実上の支配者はユニオンのトップに君臨していたロキ───レッドキャップだった。犯罪者を一掃するとか世界征服みたいな理想を語ってたが.....もうよく覚えてない。そのロキがリリスに殺されて、ユニオンのリーダーが死んだ事でウンディーが崩壊するだのなんだの。このチャンスを狙ってイフリーがウンディー侵略作戦をコソコソと。イフリーの軍やらノムーの騎士やらがウンディーに入り込み始めて、このニ国は仲が悪いから戦争でもおっ始めるんじゃねーの巻き込まれるとか冗談じゃねーぞ! って事でウンディーを国にしてしまえばイフリーもノムーも簡単には動けなくなるだろ。
「とか、そんなノリでノムー王の娘である王族の中の王族セツカ様がウンディーの民を他国の火の粉から守るために自ら女王となりウンディー大陸を国にしたのだ」
「そんな事が.....」
多分あってる。まぁ理由はどうあれ今はもう立派な国だ。クソピエロの件でノムーともいい関係になれそうとか、イフリーはアスランがどうにかしてみるとか、こういう難しい話はわからん。
「ノムーはまぁいいんだけどさ、イフリーが中々ウザかった」
「ウザかった? まさか.......イフリーの王が、強行手段に?」
「お? そんな事まで知ってるのか───ってイフリーに住んでたなら王の事も知ってるか」
イフリー大陸を統括していたデザリア王は軍にウンディーを襲うよう命じた。しかしこの時点でデザリア王は死体───リリスの人形だった。いつから王が死体人形なのかは不明だが、少なくともウンディーを襲撃してきた時は死体.....つまりイフリー大陸がウンディー大陸に明確敵意を持っているワケではなく、レッドキャップが裏で糸を引いていた。この事実によりセッカはイフリーを責める事も攻める事もせず上手くやった。
「デザリア王は.....一体なにをしたのですか?」
「王を知ってるなら大体予想出来るだろ? 予想どーりって感じで間違いじゃないと思う」
そろそろ話すのが面倒になってきたわたしは徐々に適当モードへ。何があったか話した所で今更何の意味もないし、わたしが大活躍した話でも無いからつまらん。
「.....王は、昔はそんな方ではなかった」
「あ、そっか千秋ちゃんは昔の王を知ってんだもんな。ん? でも待て、強行手段〜ってのは何でそう思ったんだ?」
わたしは苦いお茶をすする。これがコーラ.....いやオレンジジュースでもいい。その辺りの飲み物だったら今最高に幸せなのにな。など考えつつ千秋ちゃんの言葉に耳を向けた。
「昔は優しく、厳しい王でした。どんな小さな間違いにも全力でいて、どんな方にも優しくて.....しかしある日突然、人が変わった様に冷たく、酷く歪んでしまいました」
「あらまぁコワイ」
「犯罪者だけではなく、口答えする者にまで刑罰を与え、最終的には家族にまで.....。イフリーの歴代の王は極端な考えを持つ者達ばかりでした。しかしその歴代の王さえ凍りつくような人間に、デザリア王は変わってしまった.....」
「そりゃタイヘンだ」
適当に振って喋らせる。このスタイルでわたしは千秋ちゃんの言葉を聞き流していたが、次の言葉は「聞き逃すなど勿体無い!」とわたしの脳と耳、全細胞が反応した。
「私は.......王の娘でありながら自分の身が大事でデザリアから、イフリーから逃げてしまいました。変わってしまった父が怖かった、変わり歪み続ける父が怖かった、自分にその視線を向けられた瞬間、私の中にはイフリーの民の事など微塵もなく、殺されるのではないかと怯え.....逃げてしまいました」
「───まぢで?」
「はい......私は我が身大事で、イフリーの民を守る事もせず、執事だったテルテルを無理矢理連れて逃げてしまったのです」
「え、ガチで?」
「はい......」
なんてこった。
千秋ちゃんはイフリーの支配者、デザリア王の子供だった。ひっつーやわちきと比べて確かに喋り方とか上品な感じしたが、そういう性格なんだろ、と流していた。いやむしろ喋り方だけで「コイツは王族だ!」と嗅ぎ分けれるならわたしはシルキなんかに来ない。でも待てエミリオ落ち着け。まずは確認するんだ。千秋ちゃんが本当にデザリア王の子供なのかを。話はそれからだ。
「千秋ちゃんってデザリア王の子供なの?」
「え? あ、はい。ノムーの姫を知っていたのも、何度かそういう場で顔を会わせた事があったからです.....が、今となってはもう大きな差が出来てしまっていますよね。私は逃げてシルキに行き着き、セツカさんはウンディーの女王様......」
確かに、セッカのペンを折った話をした時千秋ちゃんはノムーの姫と同じ名前、と反応した。デザリア王が変わった───ウザウザ王になった───事も知っていたし、これはガチのまぢに王族か? もし、もし千秋ちゃんが本物の王族───それもデザリア王の子供なら、上手く味方につけて恩を厚着させれば.....金または金になるモノを頂戴できるのでは!? シルキで金になる素材 鴉 をゲットして戻ってイフリーで千秋ちゃんからガッポリ頂戴すれば防具の強化、武器の強化も、勢い余って洗練も出来るんじゃないか!? いや相手は王族.....家の一軒くらいは買えるのでは!?
落ち着けエミリオ落ち着け!
ここで落ち着き、考え、最高の選択で王族に取り入るのだ。
大丈夫、わたしなら出来る!!
「エミリオ!!」
「あわわわ、大変です大変です!!」
王族様に寄生する自然かつ大胆なプランを考えていると騒がしい声とうるさい足音が揺れる。千秋ちゃんと、何事だ、と足音が聞こえる方を見ていると2人の妖怪が戸を豪快に開いた。
「外から来た人達が花組に捕まったみたいよ!」
「魔女さんのお友達では!?」
突然の事にわたしは戸惑ったが、落ち着いている状態を保ちつつ質問をする。
「外って別大陸だよな? つーかどこでそんな話聞いたんだ?」
今
「療狸様が狸達から聞いたのよ! 華組が外の者を拘束して蜃気楼に連れて行ったって!」
「ポコちゃんって狸と話できんの!? 何かウケるなそれ」
「何笑ってるの! 拘束されたのよ!?」
「今聞いたっての」
拘束されたくらいでガーガーと.....このひとつ眼はなんでこうクチうるさいんだ。
「あ、エミリオさん。
「いいんじゃね? 何したか知らねーけど少し牢で頭冷やせってんだ。どうせショボい事だろうし」
「華組はちゃんとしているので無いとは思いますが.....もし大名達がこの事を知ったら即処刑でしょうね」
「は? 大名ってなに? ザザミ?」
それに処刑って、何やらかしたか知らねーけどジュジュ達マフィア御一行は処刑されるような事しないと思う。それにもし処刑レベルの事をするやら簡単に拘束されるようなヘマもしない。
処刑レベルの事件起こして即拘束出来るような楽勝メンツじゃない。
「大名は外で言う王族です」
「大名さん達は外の人達を凄く嫌うんですよ」
「理由なんていくらでもつけれる。とにかく外の人達は拘束後即処刑.....それが大名達が自国を守るやり方.....」
「は? 理由適当で殺されんの? 何だそれ頭腐ってね?」
和國───シルキの王族様の考えが理解出来ない。しかし千秋ちゃん、わちき、ひっつーの表情に嘘は見えない。
「おぉ、ここに全員おったんかえ。その様子じゃと話は聞いたのぉ? エミリオ」
「理解できないって顔だなエミリオ」
「ポコちゃんと、れぷさんいたのか。で、大名の話はガチ?」
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