◇379 -本拠地への帰還 華-2



華の都と謡われるだけあり、京は鮮やかで風情ある街並みが広がる。行き交う人々も品があり、格好もそうだが冒険者達は嫌でも浮いてしまうが、そんな事を気にする余裕も無いほど疲れ果てている。たった1戦で想像以上の消耗をした冒険者達は京の宿へ迷う事なく進み、大部屋へ流れ込んだのは数十分前の事。ポーションや治癒術でダメージや傷を癒し、現在は各々がシルキ大陸という未知に対し、可能な限り準備をする。未知に対して様々な予想をした上でイレギュラーに備える姿勢は冒険者の基本であり職業病とも言える。


「しし、キューレは無事か?」


龍の刺繍を持つ防具を装備した上から質素なマントローブを羽織り防具を隠すジュジュ。冒険者であり【龍組】の烈風から買い取った防具はこの街ではよろしくないと直感的に思い、隠すという判断をとった。自国ではない国にいる以上はその国のルールには最低限従い、下手なトラブルを起こさない。それがジュジュの中のルール。


「キューレちゃんは今みんなが診てくれてる、さっきまではちょっとダケ危ねい状態だったけど今は落ち着いたよ」


合成ポッドをフル活用しつつ自身も素材や薬品の調合をするししは、トレードマークのキノコ帽子を脱ぎ、テーブルの上に置いていた。その帽子内部で小人人間が自分達よりも小さくなっているキューレを応急処置しているらしい。完成した薬品を極小瓶に詰め、ししは謎の収納力を持つキノコ帽子へ入れる。その薬品を使っての応急処置だろう。


「よおし! 私も準備終わったし、ししちゃん手伝うよお」


露出度の高い装備を好む見た目は完全に人間だが、実体はホムンクルスであると最近判明しただっぷーがししの調合を手伝う。初見ではまず扱えない超希少であり貴重なアイテム、合成ポッドをあっさりと操るだっぷー。この2人は錬金術師アルケミストでもあり、だっぷーは色白の腹部にある【狼マーク】のポーションを生産し販売、ししはトレードマークのキノコをモチーフとした【茸マーク】のポーションを生産し販売している存在。薬剤師顔負けの薬品調合も、消耗品生産業者も苦笑いする程の高いスキルと常識離れした知識でポーション生産などをやってのける冒険者だ。


「だぷちゃん、たしかホムンクルスだよね?」


「え? あー.....うん!」


ししの質問───再確認───に対し一瞬顔を渋めただっぷーだったが、元気よく答える。すると今度はししが表情を一瞬曇らせたように見えたが、気のせいだとだっぷーは判断し、ししの話を聞いては答え、今のキューレに合うであろう薬品調合に熱を出す。そんな2人を見て少し微笑んだカイトは大剣の手入れを済ませ、フォンポーチに収納した。


「んに? カイト終わったかニャ?」


同じく大剣使いの猫人族るーはカイトへ声をかける。そこへ酔い猫大剣使いのリナも参加し、同武器トークに華を咲かせる。


「.....ニャ、私ひとりかよ」


弓の弦調整をしていた猫人族のゆりぽよは乗り遅れた感に舌打ちしつつ、弓の調整や矢の確認を続ける。各々シルキ大陸に、妖怪や腐敗仏に思う事があるものの、今は休息と準備を優先した。





京を一望出来る背の高い建物───華組の本拠地であり城、蜃気楼。薄く赤みかかった城壁へ近付く3名、螺梳ラス、スノウ、モモに気付き駆け寄る華組の兵。


「お、お迎えだ。もういいぞ」


螺梳は笠の下で言い、八重モモへ顔を向ける。


「もういいのかい? 中まで運ぶよ?」


華妖術を器用に使い、眠喰と夜叉を運んでいたモモは螺梳へ言うと、駆け付けた華の兵がモモを見てピタリと足を止めた。

現在のモモは染楼───通常時のモモではなく、黒楼───変化系能力時のモモ。色や姿だけではなく性別までもが別。兵達も噂には聞いていたが、その姿を前に驚きと戸惑い、そして警戒が働く。


「ははは、私って信頼されてないのかな?」


「されてるよ、染楼モモさんはね。でも八重ヤエは私でも冷たく感じる部分があるから仕方ないよ」


「まぁそんな所だ。───2人を中まで運んで、ゆっくり休ませてやってくれ。あと、冷水風呂を用意してやってくれ」


螺梳の指示が飛び、眠喰と夜叉は直ぐ様中へ運ばれ、スノウは傷を癒すべく城門を潜り冷水風呂へ向かう。


「......今朝から竹林に行ってたのか?」


螺梳は足を止め黒楼へ訪ねた。ウンディーからの途中参加だった螺梳には状況がハッキリ掴めていない。


「そうだね。朝方から竹林道の華組側を調査してたかな」


「調査? 何の調査だ?」


「螺梳さんが大好きな───腐敗仏」


この言葉に螺梳は瞳を鋭くし、心なしか身体を強張らせた。黒楼はその反応を楽しげに見てから今朝の事を語った。


「なるほどな。昨日、竹林で一体の腐敗仏が.....誰が討伐したのかは不明か。それを龍組も調査していて遭遇、そこへ外の者も混ざり乱戦か......何にせよ華組こっちは全員生きててよかったな」


「生きてて、ね。僅か半日で基盤が崩れたと私は思うけどね」


黒楼の言う基盤───バランスは確かに崩れてしまった。それもたった半日で。今まで緊張状態だった華と龍が本格的に衝突し、外の大陸から入り込んだ者の手によって龍組は鵺を失った。華組も死者こそ出ていないが、夜叉と眠喰は昏睡し雪女は片腕を失った。そして、この件を知る者が華と龍以外にも存在する。療狸寺の者だけではなく、どこかふざけた魔女と、ここまで同行していた冒険者達。この魔女と冒険者が顔見知りならば情報を出し合い、起こった半日の出来事が把握出来てしまう。ひとりの冒険者が言っていた「種族の枠を壊した好き勝手な魔女」の話を思い出し、螺梳は冒険者達と魔女が顔見知りである事を確信する。


「螺梳さん? 螺梳さーん」


「ん? 悪い、どうした?」


「京にいる冒険者達、捕らえた方がいいんじゃないかな? 何が目的でシルキへ来たのかは知らないけど、今は構ってる余裕はないし外の人に中を混ぜられるのは気分が悪い」


「うーん」


「ここまで来たら、私なら龍を叩いてシルキを総括してから夜楼華の件に取り掛かる。それまで外の連中には横槍ひとつ入れさせないよ」


「......ま、それを決めるのは俺やモモさんじゃなく、眠喰姫おひめさまだ。それと、そろそろ黒から戻ってくれ。調子狂うしみんな怖がる」


「あら、残念。黒楼わたしの方が螺梳さんの相手出来ると思ってたんだけどね」


「助かってるよ、だからまたよろしく頼む。今はもう戻っといてくれ」


「そう、それは残念」


大陸が溜め息を優しく吐き出すように、華の香りを乗せた風が吹き、黒楼は染楼へと姿を戻した。


「......螺梳さん、私ミソの所行ってくる」


「おう、モモさんも怪我人なんだから無理するなよ」



モモは蜃気楼へ、螺梳は翻りマントを揺らして城下町───京にいる冒険者の元へ向かった。



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