◇376 -金紅の剣杖-4
話には聞いていたが、こんな鉄の塊が海に浮かび、海を泳ぐとは信じられない。
リピナは噂の潜水艦を前に驚きと不安の視線を向ける。冷たく重圧的な外装は紛れもなく金属製、形状は船とはほど遠い球体系。今浮かんでいる事事態が奇跡にも思える潜水艦に、これなら3名が乗り、海の中を進まなければならない。
「うっは、こんなモンに乗るとか自殺すんのと同じじゃん」
天使みよ も潜水艦は初見らしく、ボディを手で叩き笑いながら笑えない事を言った。しかしリピナも同じ事を思ってしまっていた。
「大丈夫よ。ここまで
半妖精は相変わらずクールな雰囲気で潜水艦へ近付き、フォンを向けた。すると潜水艦の外装に線が走り、入り口が現れる。潜水艦もフォンも技能族が生産した知識と技術の結晶とも言える便利アイテム。フォンで潜水艦をある程度操作可能にし、極力潜水艦自体にパネルやスイッチをつけないよう造られている。
「さぁ、早く乗りなさい───プンちゃんもね」
入り口が開かれた潜水艦を前に半妖精はここに居るハズのないギルドメンバーの名をクチにした。リピナもみよも知る魅狐プンプンの名を。
「プンプンいんの!? どこ!?」
と、キョロキョロする天使みよ。
「え? いないでしょ?」
と、周囲を見渡すリピナ。
「そこの看板の影にいるわよ」
と、魚のイラストが描かれている看板の影を指差し呆れる半妖精ひぃたろ。2人は看板を凝視───看破の視線を送るもプンプンの影さえ見えない。
「......ハァ、全く。ギルドボックスにいれっぱなしの貴族から貰ったアイテムの中から、マントを取り出したんでしょう? あれは停止している状態に限りハイドレートを急上昇させる。隠蔽が苦手でも動かなければ高ハイドになるものね、プンちゃん」
フェアリーパンプキンは以前、貴族の屋敷で何らかのクエストをした。沢山のリワードを貰ったものの、ゆっくりと見て分ける時間もなかったのでそのままギルドメンバーが共有出来るアイテムボックスに入れたままだった。そのボックスからプンプンはマントを取り出し、今現在使っている。
「えー、ひぃちゃんそれ勘? ボクのハイディングにマント効果も盛ればイケると思ったんだけどなぁー」
「うお、ガチでプンプンいたし」
「本当だ、ビックリした」
みよ、リピナは突然姿を見せるプンプンに驚くが、ひぃたろは小さなため息ひとつで言う。
「普通の隠蔽じゃその “魅狐の雰囲気” は消せてないわよ」
「げっ、忘れてた.....不便だなー、エミちゃんの魔女の魔力を隠す~みたいな魔術あればいいのに」
「例え魅狐の雰囲気を隠す魔術があっても、プンちゃんには難しいんじゃない?」
「う.....」
プンプンは現在、能力のstageとframe SFが危険ラインを突破した状態。その証拠、あるいは代償として常時銀魅狐化している。狐耳のような感知器官と蓄電尾が九本、顔の模様は無いものの瞳の色は朱色で毛の色も銀。魅狐族はプンプン以外生存しないので、他の魅狐がどうだったのかプンプンもひぃたろもわからないが、九尾の化狐と言われても文句を言えない状態であり、以前はなかった魅狐の雰囲気───正確には “魅狐の妖力” が濃くプンプンに宿っていた。勿論それが妖力である事を本人もひぃたろも知らないが。
「ババーって魔女の魔力隠してんの? きめーな」
「みよっちも天使である事を隠してるじゃん? ってかババーって、アンタそれエミリオ以外に言うんじゃないよ?」
天使みよもリングピアス【エンジェルリング】で天使族の象徴である翼を隠しているが、それは自分が天使族という事を隠したくてやっているワケではない。エミリオも今となっては魔女である事を隠しているワケではない。他の魔女に感知されないよう日頃から魔力隠蔽魔術【マナ サプレーション】を自身へかけているだけ。魔女の力を使えばマナサプはあっさりと解けてしまうが、晒したままよりはいい。
「で、プンちゃんも行くんでしょ? 和國」
「もちろんだよー! どうせ次で無理矢理行こうと思ってたし」
「うっは、プンプンって結構パワープレイするよね。そういう所好き!」
「いいじゃない。プンプンみたいな前衛タイプがいればひぃたろも治癒に専念出来るだろうし」
「何言ってるの? 私は戦うわよ。治癒よろしくねリピナ、みよ。さぁ早く行くわよ、シルキ大陸へ」
「「 おー! 」」
「え? ひぃたろは
騒がしくも冒険者の第二陣、人間リピナ、半妖精ひぃたろ、天使みよ、そして魅狐プンプンが潜水艦で和國───シルキ大陸を目指しウンディーポートから出航した。
◆
「あん!?」
「? なに、どうしたの?」
「いや.....今調子のったクソガキ天使にババーきめーって言われた感じした」
空前絶後の美女であり天才の魔女こと、わたしエミリオは、ここ
「何の話かわからないけど、突然動かないで。今エミリオの怪我診てるんだからさ」
「おう、悪いな。もう動かねーからキッチリ治してくれよ」
と、ひとつ眼妖怪のひっつーへ言ったものの、最強のわたしは大きな怪我はしていない。わちきが甘酒とやらをパクってくるまでの間、暇だったので怪我してないかを診てもらい、小さな怪我でも治癒ってもらおうという魂胆だったが、ひっつーはリピナと違って手際が悪い。丁寧なのだろうけど、わたしはもっとこう.....サッ! ササッ! とした治癒術が好ましい。
「───はい、もういいよ」
「サンキュー。あれだな、ウンディーの治癒術とひっつーの治癒術は何か違うな」
「そりゃね。わたし達が使ってるのは魔力を使う治癒術じゃなくて、妖力を使う治癒術だからね」
「ふーん。で、れぷさんは?」
一緒にいたハズの烈風がいなくなっている事を訪ねると、ひっつーは「怪我の具合が具合だから、療狸様が診てるよ」と答えた。つまりあのおっぱい狸のポコちゃんは、ひっつーよりも有能な治癒術師と言う事だろう。わたしも大怪我した際はポコちゃんにお願いするとして、さて......これから、どうしたものか。
「ま、甘酒っての飲んでから考えよう」
「ん? 何か言った?」
「いやいや、なんも言ってねーよ」
療狸寺を脱出し、夕鴉と夜鴉があるであろう場所へは甘酒とやらを堪能してから向かうとしよう。そうしよう。
「~~~っ......ネムテ」
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