◇375 -金紅の剣杖-3



冒険者の街、自由の街、女王の庭、等々.....今では様々な通称を持つウンディー大陸の首都【バリアリバル】にある【ユニオン】にリピナは居た。ユニオンは冒険者登録やギルド登録、依頼登録などを行う場で、クエスト受注などは集会場になる。

太陽はゆっくりと泳ぎ、時刻は午後になった頃。ユニオンの受付人達も入れ替わる。


「あ、リピナ様」


ひとりの受付人が話し掛けてきた。見た目は年端もいかない少年だが、実年齢は50を越えている小人族ピコ。今のバリアリバルには以前とは比べ物にならない程、様々な種族が身を隠さず人間と同じように生活している。


「どうしたの?」


実年齢はリピナよりも遥か上、と理解していてもサイズが5、6歳で、見た目が8~10歳程度なのでどうしても子供へ接する口調と態度になってしまう。リピナは膝を折り、相手の目線に合わせる。


「女王様がリピナ様が訪れた際は、女王の間 までお招きしてほしいとの事で」


「そう、わかった......ねぇ」


「はい?」


リピナは答えつつ小人族をじっと見詰め、問う。


「辛くない?」


「え? 何がですか?」


「そういう口調とか態度とか。ここは自由の街だよ? 自分のスタイルでやっていいと思うよ」


「あ、えっ.....と」


「自分のスタイルがそれなら、失礼なのは私の方かな.....ごめん忘れて。伝言ありがとう」


リピナは小人族の頭へポンポン、と手を置きお礼を言う。すると小人族は ボッ と顔を赤く染め、あせあせとユニオン受付人の作業へ戻る。


───当たり前だけど、冒険者だけが職業じゃないんだ。


カウンターの奥へ滑り込むように戻り、書類整理をする小人を見てリピナは「ふぅ」と息を吐き出した。バリアリバルに辿り着いた者は皆、冒険者になるために来ているとばかり思っていた。勿論、ちょっと考えれば冒険者以外がいても不思議ではない。しかし街が街なだけに、そういう答えが常に浮上する。今の小人のように冒険者に向いていない性格の者もいる。それでも種族の枠を越えて世界を知りたいと思っている者は多いのだ。そんな者にも眼を向けたのがウンディーの女王セツカ。言ってしまえばセツカ自身も冒険者という柄ではなく、王族だが威張り偉そうな人物でもない。モンスターとの戦闘など危険が伴う事をやらずとも、この街では───この世界では生きていける。そこに種族という小さな区切りは存在しない。


本来はそうあるべきなのだろう。しかし他の大陸ではそうもいかないのが現実であり、現状なのだ。とリピナは胸中で嘆き、セツカが居るであろう女王の間へ進む。両開きの大扉につけられているリングを掴み、扉を叩く。すると中から「どうぞ」と反応があり、リピナは見た目ほど重くない扉を押し中へ。


小人ピコちゃんから伝言聞いて来た───おぉ、みんな居るじゃん」


女王の間には知る顔が並んでいた。


「やほーリピナ、さっきぶり!」


と、元気の良い声で言うのは常時九尾状態の魅狐プンプン。本人の話では能力ディアのSFを突破した事で瞳と毛の色が変色し、尻尾と耳がしまえない状態になったらしい。

その隣には眼帯の半妖精。そして両義手の人間と白銀の愛犬───と言っても狼だが。


「やほーって、フェアリーパンプキンは暇なの?」


「貴女こそギルドメンバーは出張治療で走り回ってるのにマスター様はずいぶん暇そうね」


「出張治療や治癒術依頼をギルメンに任せてここへ来てるのに、暇人の集まりなら帰らせてもらうよ?」


と、半妖精の言葉に返事しつつ近くへ歩み寄る。いつからこういう関係になったのかわからないが、フェアリーパンプキンや他の冒険者と皮肉めいた事を言い合える仲になった事をリピナは少し嬉しく思っていた。


「いよーう、リピナ! さっきマユッキーの所行ってきたけど、まだ寝てたわ」


「いよーう。みよっちは元気そうだね」


天使族の少女みよへ挨拶を返した所で、後天性悪魔のナナミが愛剣である二本のカタナをテーブルへ置き、イスへ腰かける。


「さっさと始めようセツカ。こっちだって暇じゃないんだ」


書類整理をしていたのか、髪を束ね眼鏡を装備していたナナミだったが、着席と同時に眼鏡を外し髪を解放する。


「そうですね。集まっていただきありがとうございます。早速ですがこの中から3名、和國へ向かってもらいます」


和國というワードが飛び交うであろう、と予想していたリピナやフェアリーパンプキン。しかし一声目でそれが出てきたうえに3名を和國入りさせるとは予想していなかった。現在、ウンディーポートには小型の潜水艦が2隻。1隻の上限数は8名だが、3名しか和國入りさせないと......。


「和國の話題は出るとは思っていたけれど、8のところに3は勿体無いと言うか.....攻略効率が悪くない?」


リピナ同様に思っていた半妖精がすぐに切り込む。和國入り、つまり和國───シルキ大陸で何らかの行動をし、結果を持ち帰る事、つまりクエスト。そうなれば最大数で挑んだ方がイレギュラーに対しての対応幅が広がり、より良い結果を望める。


「私も考えましたが、クラウンの再臨により危険指定集団や犯罪者達が刺激され活発化しています。今はまだ報告にはありませんが、きっとこの先レッドキャップも活発化するでしょう。ウンディーを手薄にするのはやはり危険だと判断し、小型船では3名を和國入りした大型船パーティへと合流してもらいます。小型は大型からの連絡を受信するだけなので、和國へ上陸する際は大型のレーダーを上陸場所とし、上陸後は大型からこちらに残る小型へ連絡を入れてください。それから3日以内に新たな連絡が無い場合は、こちらの小型船で最後のパーティを送ります」


現在和國入りしているメンバーは、ジュジュ、キューレ、しし、だっぷー、カイト、ゆりぽよ、るー、リナ、の8名。

ウンディー側から更に和國へメンバーを送るとなれば少数にしなければ “セツカが気兼ねなく命令出来る冒険者” が一気に減り、実力的な面でもウンディーの戦力が減ってしまう。

和國入りしているメンバーや今集まっているメンバーよりもランクや実力が上の冒険者、同等の冒険者などは存在している。しかし、女王の無茶を二つ返事で飲み込む冒険者が減ると不安にもなるだろう。セツカが気兼ねなく接する事が出来る冒険者は、他の大陸で言う所の王直属騎士や兵と言ったところだ。それらを失っている状態で何かが起こった時、嫌でも一歩遅れてしまう。それを回避しつつ、和國との関係を築くためには、和國入りするメンバーを厳選、最小数にしなければならない。


元々イフリー民だったアスランは支配者無き大陸イフリーで「王になって戻ってくるわ」と言い、アクロスやイフリーの軍人ゆうせーと共にウンディーを離れた。ビビやララは冒険者である前に鍛冶職人。クラウンの一件で冒険者達は実力も装備も更に高めるべくビビへ依頼を入れ、アスラン同様に元々イフリー民だったララにはイフリーの者の依頼も。ノムー民もビビやララを頼っている。本業が繁盛している中で彼等を和國へは送れない。



「3人か.....大型のメンバーを見る限り、やっぱり今回は私が行く。ししの治癒術や薬品、だっぷーの薬品があっても、純粋な治癒術師が居ると居ないじゃ大違いだし。うちのメンバーはウンディーに残ってもらうから何かあった時は頼っていいし」


最初に名乗り出たのは治癒術師のリピナ。彼女の言う通り、治癒術師が居ると居ないでは安心感も安定感も大違い。


「私も行きたい! 和國!」


次に名乗りをあげたのは天使族の少女、みよ。彼女も治癒術───と言うにはあまりにも法則無視した癒しの風───が使えて、治癒系の最終手段としては存在感を持つ。そして一見頭が悪そうにも思える雰囲気だが、賢く妙に頭の切れもいい。プンプンが能力に呑まれかけた時やクラウン襲来時に彼女は良く働いてくれた。


「リピナとみよ.....2人とも治癒系が使えるわね。リピナのギルメンが残るならウンディー側のヒーラーも心配ないだろうし、3人目は私がいくわ」


3人目はフェアリーパンプキンのマスター、半妖精のひぃたろ。彼女も治癒術を使えて再生術の才能も持っている。そして高レベルな剣術と魔術も扱える。前中後、全てをやれる万能多才な冒険者。


リピナ、みよ、ひぃたろ、と名乗り出た所でセツカとプンプンがクチを開こうとするも、悪魔がそれを止めるように立ち上がる。


「決まりだ。本人達が行ってくれると言ってるんだ。他の者は何も言わず見送るべきだ」


───私はまだやる事があるんだ。3人決まったんだしガタガタ言って無駄に時延するな!


悪魔の黒赤の瞳はセツカとプンプンへそう叫び、2人も引き下がる。和國へ新たに向かうメンバーも半ば強引にナナミがまとめ決定し、ナナミは残っている作業を片付けるべくセツカと、なぜかワタポを連れ作業室化している空き部屋へと戻る。和國入りする3人は大変そうな悪魔を見送り、ウンディーポートへと向かった。



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