◇362 ───



グルグル眼鏡の下───頬付近に見える涙と割れたハートのメイク。変装アイテム【マジカル ピエロ】ではなく、グルグル眼鏡の魔女が個人的に気に入っているピエロペイント、クラウンメイク。


「フロー。スミス、は、どこに、いる、の?」


奇妙な句切りをつけ喋るオッドアイの女性は人形のようなドレスのスカートをふわりと揺らし屋根へ登り、可愛らしい靴で着地する。


「シルキ大陸だわさ」


「へぇ、和國、ねぇ.....。今、ウン、ディーで、話題、に、なって、る、わよ? シルキ」


指にある無数の縫糸をいじりながら言う女性に、グルグル眼鏡の魔女は「ほえぇー」と気の抜けた声を返し立ち上がる。


「知ってるわさ。エミリオが海底洞窟ブッ壊した事も、ウンディーに技能族テクニカの潜水艦がある事もぜーんぶ耳に入ってるっちゃ」


クラウンメイクで笑うグルグル眼鏡はオッドアイの女性と共に窓から室内へ戻ると、限りなく黒に違い緑髪の魔女が古い本を読んでいた。


「ダプネちゃんや、シルキへ行くぞい」


「......シルキ? 何で?」


古い本を閉じ、グルグル眼鏡の話へ耳を傾ける。


鍛冶職人ブラックスミスを拾いに行くわさ」


「スミス? 和國にいるのか?」


「そうだっちゃ。宛はあるってか、その子も実は! ここだけの話! なんと! どぅるるるる~.......ばん! クラウンなんだよ~ん、ウヒヒヒ」



【クラウン】

変彩の魔女フローをリーダーとした集団。

現在、公になっているメンバーはリーダーのフロー、黒曜の魔女ダプネ、死体人形師リリスの3名。リリスの人形としてモモカも含めれば4名となる。


「どんな、子、なの?」


縫い痕が気に入らなかったリリスは、その指を数本切断し縫い直す理解不能な行動をご機嫌に行いつつ、スミスの存在を気にする。


「鬼だよ、オニ!」


左右の人差し指を頭の上で立て、角のようにしたフローは「オニオニ!」と言って笑う。


「何でもいいが、今わたし達は地界ここでは最大レベルの犯罪者クラウンだ。素早く仲間を拾って今後の事を話すべき時期だろうな」


「それは、そう、ね。私、も、ダプネ、と、同じ、気持ち、よ、フロー」


黒曜の魔女と死体人形師が同調し、フローはわざとらしく顎に指を当て「うーーん」と考える。


「ちょっかい出して遊びたいけども、今は散り散りのサーカス団員を集めた方が確かに面白そうだぬ。今シルキにはエミリオがいるっぽいけど、今回は観察だけにしておきまひょ」


「エミリオが........」


「ダミだよぉ~ダプネちゃん。今エミリオに手を出すと絶ッッ対、妖怪おっぱい狸ババアがしゃしゃるから」


「何だそれ?」


「あちしの中で今ブッ殺したい妖怪No.1が、その狸妖怪ナリ! でも今は大神族だいしんぞくだから、あっちも下手に手出せないし、こっちも下手に手出すと手足のどっちかもげちゃうっちゃ!」


何の魔術かわからないが、フローは ~ちゃ に合わせて星を瞬かせた。魔力の無駄使い魔術の無駄撃ちに関してフローの右に出る者はいない。


「よくわからないが、今は派手に行動しないって事はわかった。ところで、他に仲間は何人いるんだ?」


外そうとし、ぐしゃぐしゃに絡まったネクタイに苦戦しつつ、フローは思い出すように数え答える。


「団員は鬼を含めてあと2人、誘いたい子はひとり.....あいやー、ネクタイこんがらがっちょん! 直してけれー!」


フロー、ダプネ、リリスの他に鬼ともうひとり。そして誘いたい人物がひとりの合計6名(仮)がクラウンのフルメンバーとなるらしい。勿論、今後出会う者の中でフローのお気に入りがいればスカウトし、成功すればメンバーは増えるだろう。


「シルキまでは一瞬で行けるわさ。明日出発する感じで~一応遊べるように各自準備しなされな~!」


フローの言う遊びは争い事。ふたりもそれを理解し、ネクタイも外れたので解散する。ダプネとリリスが去り、部屋に残ったフローはヨレヨレのカーディガンを脱ぎ捨て、シャツをめくりあげお腹を出す。


「ンフフ~お久しぶりの、お披露目お披露目ぇ~」


ご機嫌な鼻唄を添えて撫でられる腹部には───大きなクチが、舌を卑しく伸ばし涎を汚ならしく飛散させていた。


「次は何を食べようかにぃー? グヒヒ」


フローのクチと腹部のクチが同時に同じ笑い声をあげ、同時に舌舐めずりを行い、何度も何度もグヒヒと笑った。





「そろ、そろ、かしら、ね」


独自の空間移動術───空間を力で抉じ開け繋ぐ空間魔法───でリリスは飛び、薄暗く湿り気のある地下をひとり歩き呟いた。分厚い木製の扉を前にし、クスクス笑う。


「さて、私、の、かわい、い、かわい、い、人形モモカ、は、どの、子、かしら」


軋み鳴く扉の奥は可愛らしい壁やカーペット、ベッドやイス等も女の子らしさが強く、メルヘンデザインの部屋───を赤く汚し座り込むひとりの少女がいた。


「......アハ、これは意外ね貴女が残るなんて想像もしていなかったわさすがオリジナルね! 素、敵、よ、モモカ」


可愛い壁や床、ベッドもカーテンも血痕で酷く汚れ、室内に散らかっているパーツをリリスは足蹴にし、座り込むモモカの前へ。


感情を結晶化し奪う能力を持つ人形を使い、リリスは全てのモモカから感情を没収し、殺し合いをさせていた。そして生き残ったのが一番気弱で頼りないオリジナルのモモカだった。


「大、丈、夫よ。壊れ、た、お、人、形、は、私、が、直し、てあげ、る」


ベットリと濡れ汚れるモモカの顔をネットリと舐め上げ、リリスは身体をゾクゾクと震わせた。



「ア...アァ.....待っててねプンプンもう少し待っててねプンプンプンプンプンプ...ンッ........ぁ.....」



リリスは真っ赤に膨れ上がり熱くなる気持ちを何度も何度も撫で、雷撃を受けたかのような痺れる熱に魅狐を想い、躍り撥ねる妄想の中で魅狐を汚した。





フローやリリスと会話していた部屋を出たダプネは、そのまま階段を降り建物の外へ出る。頬には星のメイクが施され、今ダプネの姿は誰もダプネだと認識出来ない。


「マジカルピエロ.....こんな物よく作ったな」


今の自分にとっては便利の一言だが、高レートを一瞬で叩き出すハイディングアイテムを作り出したフローに呆れさえ覚える。

ダプネもフローも種族は魔女。昔から互いを知っている者同士だからこそ、呆れという感情が湧く。ダプネが最低級の魔女子だった頃、フローは既に変彩魔女アレキサンドライトの名を持った四大魔女だった。


───とても優しくて、魔術のコツも教えてくれて、わたしもエミリオもフローが好きだった。


昔の事を思い出すダプネだったがその先───好きだったフローがどうして今のフローに変わってしまったのかを、うまく思い出せない。記憶が曇りかかったように、ぼんやりとして。


「.........準備しよう」


いくら思い出そうとしても迷い込むように曇る記憶にダプネは「覚えていないならたいした事じゃない」と自分に言い、思い出すのを止めた。




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