◇357 -現喰-12



妖怪だとかアヤカシだとか、よくわからないワードが登場する中で、わたしはキッチリとこの妖怪アヤカシ? 達の特性を拾った。

雪色の髪で左腕が無いのは雪女。

白桃色の髪で首や肩を凍止血しているのが妖華。

真っ赤な眼の赤黒クマが眠喰。

雪女は氷で妖華が花で、眠喰は話を聞いてもコレと言って特徴のない妖怪。


相手が鬼で呑まれとなれば、こちら側の戦力を完璧に確認したい所だがそんな時間は無い。持ち合わせていた薬品類を全て取り出し、消耗した体力の回復や傷の痛みを誤魔化しつつ、わたしは無茶苦茶に武器を振る鬼のデコを凝視した。変化系の暴走や呑まれを止める方法は他の能力種よりもシンプル、変化した部分を叩けばいい。あの鬼の場合は角だが.....10センチもない角をどう狙うか。


「千秋ちゃん、その鳥は───死体か?」


わたしは狼印の体力増強ポーションをあおりつつ、合流した寺の人間、千秋へ質問した。

この竹林までわたし達を運んでくれた巨大鳥をわたしはどこかで見た気がしていた。気のせいだと思っていたが今ハッキリ思い出した。この鳥は───初めて猫人族の里へ行った時、途中で出会った変化系能力の末路とも言える存在。元人間か猫人族かは知らないが、まず間違いなく能力効果に呑まれた存在。


「はい。外ではフレームアウト、と言う状態で出会いました」


「そうか......まぁいいや。んし、一瞬で終わらせるぞ」


話は一旦置いといて、自分へ気合い入れるように声を出し、剣は腰の鞘へ戻し短剣を左手に持つ。


「あそこでバグってる鬼。頭の角を叩けば100パー黙る。ただあの瘴気は能力的なモンなのか鬼そのもののモンかで、消える消えないは変わる」


対魔の短剣【ローユ】を鬼へ向け、妖怪達へ質問するように瘴気を話題にしたものの誰ひとり答えない事から、そもそもあの状態になったのが初という事だろう。ならば、角を叩いて黙らせてみるのが一番速い。瘴気が消えればラッキー、消えないのなら鬼という種が持つモノだとわかる。それで鬼退治は終わりだ。


「魔術や妖術が飛んできたらわたしがパリる! テルテルは背後、千秋ちゃんは上、れぷさんと雪女は横から風と雪使ってスモーク.....えっと、鬼の視界を潰せ! 華は正面から鬼のカタナを下へ弾き埋めろ! 華がカタナを弾いたらお前が角を斬れ、寝不足妖怪」


作戦と言う名の特攻を提案ではなく決定案として言い放ち、わたしは短剣を構えた。あの鬼がプンプンのように攻防に使える広範囲スキル持ちならば特攻は自殺行為。なのだが、狂ってる様子でそれらを乱発していない所を見ると持っていない。だからこその、特攻───ごり押しだ。


「───飛ばしていくぜ!」





血液が沸騰し臓器が、骨が焼け溶けそうなほど熱い瘴鬼しょうきが夜叉のアヤカシあるふぁ の体内を駆け回る。灰黒の皮膚が焦げ剥がれては塵となり、皮膚の下に張り巡らされている組織が体液や血液を滲ませたかと思えば、すぐに灰黒の皮膚が被う。あるふぁの身体は死滅と再生を恐ろしい速さで繰り返していた。想像を絶する痛みを振り払うように荒れる夜叉は何度も大太刀を振り、その度に瘴鬼が濃く溢れ出る。能力に呑まれかけている状態でも痛覚がまだハッキリしているという点を帽子の魔女は見逃していなかった。


最初にテルテルが夜叉の背後へ強烈な蹴りを撃ち込んだ。右足に褐色光を纏った妖体術は地属性、貫通効果が炸裂し夜叉は耐えるように土を踏む。

この瞬間に上空から緑色光纏う羽根が降り注ぐ。千秋は巨大鳥の大翼を羽ばたかせ羽根が矢のように夜叉の足を貫く。無数の羽根は杭のように夜叉の足を打ち、足裏を地面へ張り付ける。


具体的な内容を一切告げなかった魔女エミリオの作戦を各々が汲み取り、より現実的なものへと自分達の中で再構築し、迷う事なく動く。


鎌鼬の妖怪と雪女のアヤカシは【龍組】と【華組】、長年敵対している相手だからこそ、手の内も知っている。この人選がエミリオの狙いなのかたまたまなのか、それはエミリオしか知らないが事をスムーズに運ぶ。雪女が妖術で大粒の雪を舞い上げた瞬間に鎌鼬が不得意な妖術で突風を起こす。攻撃ではなく眼眩ましなので出来るだけ広範囲に風を吹かせればいい。妖術が不得意でも発動させてしまえばあとは勝手に夜叉の視界を雪が潰してくれる。

視界を雪に潰された夜叉は一瞬驚くも、すぐに大太刀を構え神経を研ぎ澄ませた。この吹雪に乗じて接近してくるであろう相手を斬り捨てるために。しかし、熱く煮えた神経を吹雪が冷たく癒す。焼けるように痛む皮膚を冷たく撫でる吹雪に夜叉の腕は緩んだ。その一瞬を妖華のアヤカシは逃さず、渾身とも言える重剣術を瘴鬼纏う大太刀の腹へ叩き撃つ。


盛大な火花と、砕けるような鋼鉄音。

大太刀【鬼殺し】の長い刃は滑らかに、深く地面へと入り込み、妖華のカタナは役目を終えたと言わんばかりに砕け散る。絶妙な角度で地面へと入り込んだ刃は簡単には抜けず、自身のカタナへ大きな負担をかける角度での攻撃も全力で放った妖華。結果、愛刀の刃はガラスのように砕け散ったものの、これで角に集中できる。


夜叉の足は地面から動かせず、大太刀は抜けず、すぐに視界は吹雪に潰される。夜叉が妖術の詠唱へ入った瞬間、吹雪の中を短剣が飛び、夜叉の肩へ突き刺さった。すると溜めていた妖力が蒸発するように消えた。


行動不可、武器は動かせず、妖術も打ち消された状態で、夜叉は歯噛みする。


「───!? 速くしろ寝不足妖怪!」


魔女が吹雪の外で大きく叫ぶ。夜叉はこの状況を文字通り吹き飛ばすべく能力を更に解放しようと力んだ。ここで能力ディアのステージとフレームを解放されれば手詰まり。夜叉自身も完全に呑まれてしまう恐れがある。

これ以上時間をかけるのはマズイ。直感的にそう思った眠喰は、自身にまとわりつく迷いを脱ぎ捨てるように肩の外套を払いカタナを引くように降ろした。


吹雪の中で見えるふたつの影に全員が息を飲む中、魔女エミリオだけは鬼の結果ではなく、眠喰が今見せたカタナの降り方に興味を持った。しかし魔女もこの状況では「今の何かスゲーな!」などとは言わず、一太刀の結果を無言で待った。

カタナを降り終え、数秒後に夜叉の角を走る剣線。眠喰は僅か10センチとない角の中間を見事走り、変化系能力の弱点ともいえる変化部位をこの上なく優しく軽い剣撃で斬り離した。


「───よっしゃ! ナイス!」


角の斬れ端が宙で消滅したのを確認したエミリオは声を上げ、親指を立てた。

その声を合図にするかのように夜叉はぐらつき、皮膚と髪は色を戻し、その場に倒れる。

一瞬とは言え、嫌に張り詰めていた緊張がほどけ、各々は詰め止めていた息を吐き出した。



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