◇356 -現喰-11



───術発動までが速すぎる....。


妖怪 眠喰バクの すいみん は魔女エミリオの下級魔術の詠唱、発動速度に驚きつつも仲間達へ一度視線を流す余裕を見せた。


雪女のアヤカシ スノウはエミリオが発生させた炎を消すべく氷属性妖術を詠み、発動させた所だった。妖華のアヤカシ モモは龍組の妖怪と鍔競り合いのまま。そして───夜叉のアヤカシ あるふぁはエミリオが発動させた炎魔術の中。


───まずは火の玉を斬り消す。


自分に迫っている7発の火球ファイアボールへ赤い瞳を向け、すいみんはカタナを肩の高さまで上げ、切っ先をファイアボールの方向へ向け、片手持ちで構える。すると刃を青色光が包み、すいみんは “自身の妖力を水属性へと彩色” し、水属性妖剣術を発動させる。


「───ッ!!」


無音の気合いで放つ水というよりは沫の剣術。カタナを振る毎に沫がプクプクと浮いては弾ける七連撃の水属性 妖剣術で7発のファイアボールを斬り消し、最後の一撃を終えてすぐ、そのままの姿勢で今度は緑色光をカタナに纏わせた。

剣術から剣術へ繋げる技術を和國シルキの者達も当たり前のように行う。それに対しエミリオは、


「それ出来んのかよ」


と舌打ち混じりに吐き出し、風属性の魔剣術で妖剣術へ挑む。互いの風───妖力と魔力が反発するようにぶつかり、互いの連撃は一撃目で大きく仰け反りファンブル。当然、ファンブル後はディレイが課せられ硬直状態に。


「移動は出来ねーみたいだな」


「移動?」


「ハッ、知らねーんだなお前」


エミリオとすいみんが軽い会話を済ませると硬直は解け、すぐに再開───と行きたい所だったが、お互いの仲間が止める様に現れる。


「エミリオ!」「みんみん!」


烈風とスノウが名前を呼び止め、


「夜叉が!」「あるふぁさんが!」


テルテルとモモが鬼の名をクチにし、魔女と眠喰は鬼の方へ視線を送り、眼を見開く。

エミリオの炎もスノウの氷も今となっては跡形もなく消え、鬼の瘴鬼は逆巻くように昇る。周囲の竹や草などは枯れ腐り、夜叉は苦しそうに唸り大太刀を振り回す。


「あるるん......」


「おいおいおいおい! 何なんだよあの鬼! 無差別に剣ブン回してあぶねーって!」


大太刀が竹の数センチ前を通過した時、竹が溶けるように枯れる。それをみたエミリオは騒がしかった表情を一瞬で鋭く尖らせ、眠喰へ質問する。


「アイツの名前言ってたよな? 防具も似てるし、お前らの仲間か?」


眠喰は自分が質問されている事に視線で気付き、頷いた。





あそこで派手に瘴気を着込んでる鬼はコイツらの仲間か。だから鬼退治を邪魔してきたってワケね。わたしは帽子ごと頭を掻き、どうしたものか、と考える。

鬼は火傷が痛かったのか暴れているが、わたし達を発見出来ないのか闇雲に剣を振り回す雑な暴れっぷり。考える時間はまぁ、ある。と言っても考える事なんて何もない。


「お前ら妖怪パテのリーダーは誰だ?」


「リーダー.....? 一番偉いのはミソだけど」


白桃カラーの髪を持つ妖怪が答え、わたしはすぐにそのミソへ言う。


「ミソってどいつだ? まぁいいや。あの鬼をどうしたいか決めろ。殺すか止めるか」


「......え」


赤眼を不安そうに揺らし、ガン見が声を溢した。


「え じゃねーよ。鬼だか妖怪だか知らねーけど、ありゃ能力に呑まれそうって状況だろ。謎の術や技じゃなく、能力持ちなら起こる普通の事で普通じゃない状態だ」


わたしの言葉を理解出来ないのか、妖怪達は眉を寄せ考える。和國では何て言うのか知らないが、あの鬼は変化系の能力持ちでそれに呑まれそうになってる。瘴気は......能力の効果なのか鬼全体の問題なのかは知らないが、あの苦しみ方は能力ディアが原因で間違いない。


「わたしは魔女だ。帽子妖怪でも何でもねー魔女だ。能力についてはどの種よりも多分詳しいぜ」


魔女力ソルシエール色魔力ヴェジマが出てから、記憶の底にあった曇りが少しずつ晴れ、わたしは幼い頃に読み漁った本と吸いまくった知識を詰め込んでいた記憶の棚を発見出来た。

どういう原理でわたしの記憶がボケっとしてたのかは知らないが、思い出せたならオッケーだ。


「魔女!? 外の世界からどうやって和國ここへ!?」


「んな事は今どーでもいいだろ赤眼。それより、どうすんだ? 殺すも止めるも早く決めなきゃこっちがキツくなるだけだぜ」


あの瘴気が能力効果───プンプンでいう雷なのかは不明だが、サクラに似たものならば纏っている鬼にも影響は出るはずだ。能力と瘴気が関係ない場合は......お手上げ。瘴気を撒き散らされて猫人族の里にでも届いたら迷惑だし、ここで瘴気を止めるしかない。


「私は.......」


赤眼を妖怪ふたりへ送り、妖怪ガン見は言葉を続けた。


「......助けたい」


「オーケー、手伝ってやるから報酬頼むぜ妖怪! れぷさん、テルテル、しっかり手伝えよ!」


助けたい───止める方を選ぶのは何となくわかっていた。ので、わたしは殺すか止めるか質問したのだ。正直能力に呑まれかけたヤツを相手にするのは大変すぎるし、こっちの数は多いに越したことはない。この妖怪達がどんな妖怪かは知らないが “仲間を助ける手助け” はすこーし理不尽な報酬を請求してもイケる流れだ。


「エミリオ、まさか」


「おっと烈風、それ以上は何も言うなよ」


わたしの天才的思考を読み取った烈風は呆れ顔でわたしを見るが、何も言わせない。


「テルテル、千秋ちゃん呼んでくれ。手は多いほうがいいし」


「わかった」


ここで上空旅行している千秋ちゃんを呼ぶ。これで寺の連中にも「エミリオさんは頑張った」と言える。そうすれば狸女も何かくれんだろ。貰えるものはゴミでも貰う、それがエミリオ様だ。



「さて妖怪。お前らは何が出来る?」



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