◇336 -鬼の毒-1



緑の鱗を着込んだような黄色の刀身を持つ太刀と、使い込まれた味のあるカタナ、峰が濃い黒緑色の太刀が竹林道でブレては盛大な火花を散らし嫌な鋼鉄音を奏でる。

風を切るような速度で動く烈風と見極め正確な起動でカタナを振るあるふぁ。


「退け! 今華組と事を構える気はない!」


華組こっちも同じ気持ちだけど、退くなら龍組そっちが退いてくれ!」


龍組の鎌鼬───烈風と、華組の夜叉───あるふぁ は両組では大人な思考と温厚な性格を持つ者だが、今の状況やお互いの関係を考えれば退くワケにもいかない。

何の役にも立たないプライドか、敵を前にして、退いた という事実を作るワケにはいかない2人は苦しそうに眉尻を上げ鍔競り合っていると、


「おい、喧嘩すんなよ」


2人を両断すべく、遠慮なしな横一閃の斬撃が空気を圧し斬る。鍔競り合いからすぐに防御体勢へ入るも、ベルの斬撃は片腕振りとは思えない重さを纏っていた。ギィャン、と耳に残る嫌な音と斬撃の方向に流れる火花を視界に捉え、鎌鼬と夜叉は身体をぐらりと揺らしバランスを崩す。それをS3犯罪者───ベルが見逃すハズもなく、水平に走り抜けた太刀を持つ手を返し、刀身に無色光を纏わせ踏み込む。


───ここで剣術か。


2人は同時に脳内で言い放ち、同時に強く歯を食いしばった。体勢バランスは悪いが、不可能ではないと踏んだ2人はここも同時に、剣術を立ち上げる。


3名の単発剣術が吸い込まれるように集まり、一層激しい音を散らし上げ、衝突。鼓膜を揺らし刺す音を置き去りに───あるふぁと烈風は見事に打ち返された。


「.....おいおいオイオイッ! 今のを受け止めらんねぇのはぇだろ! 殺る気あんのか?」


ガッカリ、ではなく、怒りに近い声質を吐き出したベルは失望の溜め息を竹林に吐き捨てた。


「なん、だ、アイツ」


「油断するな、アイツはトリプル......外じゃ最大級の罪人だ」


大きく仰け反ったものの倒れる事だけはどうにか避けた あるふぁと烈風は、ベルを睨むように見続け剣術硬直ディレイ回復クールを待った。幸い発動した剣術は単発だったため硬直の回復もすぐに済み、改めて武器を構える。


「今俺が攻めなかったのは、テメェ等の切り札を見てぇからだ。来いよ、出し惜しみしてっと殺しちまうぜ?」


外から入り込んだ存在───和國の者から見れば外来種と変わらない存在のレッドキャップだが、威圧感は下手な妖怪、アヤカシよりも深く重い。

外では最大級の犯罪者.....その言葉がどれ程のものなのかあるふぁには測れないが、対峙した時点で直感的に “放置するのは危険” という嫌な感覚が背を撫でていた。


「......一時休戦といかないかい?」


あるふぁは烈風へ問い掛けた。すると、


「いい考えだね。乗った」


烈風はあっさりとあるふぁの提案に乗り、ベルだけに意識を向ける。今シルキ大陸の事情は内戦.....しかし今この瞬間は、内戦だの敵対だのそんなものを一旦捨ててでも処理すべきだと判断した。それ程までにベルが纏う雰囲気は異質であり異常。


「2人で来るか? いいじゃねぇか、そういうの待ってたぜ」


ベルは担ぐように太刀を構え「ここからは待った無しだ」と言い放ち、夢幻竹林を駆ける。

一直線に攻めてくるものだとばかり思っていた烈風はベルの以外な行動───周囲を回るような行動に驚くも、あるふぁは全てが初見、驚きも戸惑いもなくカタナへ褐色光を纏わせる。

地属性を持つ妖剣術を立ち上げたあるふぁを追うように烈風も緑色光、風属性の太刀へ纏わせる。

色を持つ剣術光を目の当たりにし、ベルはわざと速度を低下させる。元々動き回るタイプではないベルがさらに速度を低下させた事により、狙いやすくなる。


単調な時計回り。この動きに合わせ、狙いを定め、あるふぁと烈風は同時に動く。

二連撃 飛燕系 風属性妖剣術を放った烈風。太刀という長さのある武器から放たれた風の斬撃は竹を数本斬り、ベルへ直進する。

一撃目はベルの剣術により叩き落とされ、二撃目も同じく叩き落とされるかと思った瞬間、風の斬撃は小さく拡散するように弾け、ベルの太刀を圧し上げた。

この瞬間にあるふぁは竹の間を縫うように進み、三連撃 重剣術に重い地属性を乗せた妖剣術を全力で叩き撃つ。


ベルは仰け反りに近い体勢で武器を持つ右手は圧し上げられた状態。剣術もファンブル判定で本来よりも長く重いディレイが課せられる。体術を使った所で完全にあるふぁの間合いに入っているため逃げられない。確実に入る。そう確信したその時だった。

何の前触れもなく全身の力が、自由が奪われる。

武器を振る事はおろか立っている事も出来ないほど一瞬で全身の感覚を奪われる。


───何だ?


カタナを包んでいた褐色光は小さく点滅するように瞬き、靄のように消滅。ファンブルした。ファンブルのペナルティでずっしりと重くなるハズだが、その重ささえも感じる事を許されない。感覚の自由が一瞬で奪われたような何かに、あるふぁは倒れ込む。倒れる瞬間見えた烈風も同じように力無く竹林に倒れる。


「ちょっとやり過ぎたか? さじ加減ってのがわかんねぇな......」


ベルは半笑いの声を降らせ、ディレイを感じさせない歩みであるふぁへと近付く。


「出し惜しみしてっと殺しちまうって言ったろ?」


どこか残念そうな声で言い、ベルは太刀をあるふぁの胸へ突き刺した。背から胸を通り、地面まで貫通する黄色の刃。しかしあるふぁに痛みの感覚は届かなかった。

太刀は雑に抜かれ、次は首へと刃が向けられるも、数センチ前でピタリと停止。ベルはあるふぁの首を撥ね飛ばすのを一旦止め、地面に太刀を突き刺した。


「......なぁ、お前等、サクラってのとヨザクラっての知ってるか?」


質問を飛ばした瞬間、放れた位置にいる烈風は地面から突き出た黄色の刃に貫かれる。しかし烈風にも痛みは訪れず、刺された感覚さえも感じない。


「.....あー悪ぃ、これじゃ喋れねぇよな」


細かい調整は向いてねぇ。とベルは愚痴のようなものを溢した途端に2人へ激流のように痛みが襲いかかる。焼けるように熱い傷口からマグマのように溢れる血液、一瞬で全身の神経を焼き切るように駆け回る痛みに視界が霞む。


「俺の持つ “麻痺領域” は拘束に便利だが尋問には不便なだ.....麻痺の加減を覚えるのはダリィが、刺してから解除だと痛がっちまって話も出来ねぇな」


SSS-S3の犯罪者ベルが持つ、領域系の能力。

領域は使用者を中心に拡散するのが基本動作だが、ベルは領域を広げ、設置するように2人の周囲を回り回っていた。時間差で発動する領域.....領域系はハマれば無敵と言う者もいるが、その理由が設置可能であり、設置した理由をタイミングで発動可能であり、研げば研ぐほどその効果は馬鹿げたモノになるという点。

様々な能力が存在する中でも、低リスクでその効果を実感出来るのが領域系能力。ベルの領域は自分以外を麻痺に陥らせるもので、現在のステージは3フレームは2───S3F2の80%という危険水準まで達している。

使わなければ成長せず、使えば使うだけ自分を失う。ベルは全ての能力ディアについて回るリスクにさえ恐れず、装備品や剣術、魔術と同じ感覚で能力を使用していた。


「サクラとヨザクラってのがどんな物なのかくらい話せねぇか?」


地面から太刀を抜き、最後の質問、と言わんばかりの声音を降らせたベルだったが、あるふぁは答えの代わりに生命マナを削るように妖力を纏い拡散させた。

ベルの全身を叩くあるふぁの存在感という圧に乗った妖力と微かに溢れるマナは、ベルを数メートル圧し退ける事に成功。あるふぁはゆっくり立ち上がる。


「最初に首を斬るべきだったな......妖怪もアヤカシも、胸を刺されたくらいじゃ死なない」


再生こそされていないが、吐き出される血液量は圧倒的に少なくなる。


「───変化系か、いいねぇ。痺れるじゃねぇか!」


雰囲気的なモノではなく、明らかに魔力やマナ、妖力が変化した。妖力こそ知らないベルだったが魔力に似た別の力、と認識していたため、その変化にも気付き楽しげに笑い、混合種武具キメラウェポンを構えた。



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