◇335 -夢幻竹林-2
「俺はあの冒険者───烈風を殺る」
「オレはヌエと呼ばれていた中心に立つ人」
「私は白髪の人ッスね」
レッドキャップの選択に対し、龍組は、
「俺はベル───黄緑の太刀使い」
「その人は俺が相手したかったよ.....トウヤは指名通りでもいいかい?」
「何でもいい」
承諾するように言い、各々ターゲットへ視線をぶつけ合ったかと思えば、レッドキャップは翻り走った。
「遭遇したヤツを殺れ」
「了解」「了解ッス!」
ベルの指示は短かったが、ジプシーとテラは「今選んだヤツと後ろにいるヤツひとりを殺れ」と受け取り、ベルもそのつもりで言った。突然、それも全員同時に背後へ散った事に対し龍組は驚きこそしたが、去るならば追う必要もないと判断した直後、
「───華組だ」
トウヤは華組の妖力や魔力、気配を感知してポツリと呟いた。
「誰かわかるかい? トウヤ」
「......鬼、雪、桜かな?」
「それは丁度いい、全員ここで潰そうか。烈風! 死にたくなければ半端な優しさは捨てろよ」
「...........」
無言の烈風を他所にヌエとトウヤはレッドキャップを追い走り出す。遅れて烈風も竹林道の土を蹴りあげ、レッドキャップ───華組の方へと進みつつ腰のカタナを抜く。
同じシルキ民を殺したくはないし、言ってしまえば争いたくもない。烈風の気持ちは常にそうあったが、内戦が始まってしまってはもう後戻りも出来ない。自分の命をとるか相手の命をとるか。この二択が迫られれば、もちろん自分の命をとる。烈風だけではなく、龍組も華組も、自分を犠牲にしてまで相手を大切に思える気持ちがあるのならば内戦など起こるハズないのだから。
「殺されたくないのなら、殺せ。奪われたくないのなら、奪え。悩む必要もない簡単な事だ」
黒革の奥で瞳を何色にしてギラつかせているのかわからないが、トウヤは烈風へハッキリとした強い声で呟き、背負っていた槍を取り竹林を駆け抜ける。
烈風は何かを噛み砕くようにグッと奥歯に力を入れ、噛み砕いたものを吐き出すように溜め息を落とし、走る速度を上げた。
◆
「龍組よりも先に誰かくる!」
感知術など使わなくともわかる、胸焼けするような気配にあるふぁはカタナを構える。
モモ、スノウも武器を構え、迫り来る気配へ集中した瞬間、その気配の後ろから龍組が迫っている事を知る。謎の連中と龍組が華組へ迫る中で、退却という選択肢は姿を見せた謎の3名が一瞬で消し去る。
逃げれば追ってくる。
放置するには大きすぎる。
レッドキャップの姿を見ただけでそう思わされる。それ程濃い殺意を纏った3名は華組の姿を確認し、瞳をギラつかせた。
「カタナ持ちは俺が殺る!」
「では、オレは魔銃持ちを」
「私は───ペンと紙ぃ!? そんなので殺れるんスか!?」
あるふぁをベル、スノウをジプシー、モモをテラが狙いレッドキャップは速度を上昇。僅か数秒後、龍組も到着し、竹林道───夢幻竹林での難戦が開幕。
華組を襲うレッドキャップ、そのレッドキャップを襲う龍組。ベルは「アイソレーション」と言い放ち
ジプシー、テラもベル同様、戦いやすいようにターゲットをまとめ他の者と距離を取った。
アイソレーション。
分散や孤立という意味を持つ冒険者用語で、ターゲットを戦いやすい場へ釣り、処分するという意味も持つ。レッドキャップは自分のターゲットを他の者のターゲットから切り離し、邪魔が入らないよう戦闘する形を一瞬で作り上げた。
ベル、あるふぁ、烈風。
ジプシー、スノウ、ヌエ。
テラ、トウヤ、モモ。
仲間を助ける事も求める事も出来ない夢幻竹林は薄い霧に殺気を交え震えた。
◆
長い髪が邪魔にならないようシニヨンヘアに固め、華組の制服───和國系の軍服へ腕を通す。
妖怪
───みんな無事でいて。
夢幻竹林から発せられた僅かな戦意を感知したすいみんは急ぎ準備を済ませ、カタナを腰へさし最上階の窓から外へ飛び降りた。
左肩から下がるマントと呼ぶにはえらく狭い外套を靡かせ、迫る地面に向け腰のカタナを抜く。赤色光を帯びた刀身は炎斬を飛ばし、地面を焼き抉る。剣術の衝撃と炎の風圧がすいみんの落下速度をふわりと中和し、あっさりと着地したすいみんは迷う事のない足取りで竹林道まで走り向かう。
龍組のヌエは
人里に居たすいみんは運よく魅狐の手から逃れていたが、何が起こっているのかも知らず、全てが終わった頃、自族の領土へ戻り絶望した。
両親が、自分に良くしてくれる大人達が、同族が、眼も向けられない姿で転がり散らばっていた。
奪われてばかりだ。
すいみんはそう思わざるを得なかった。
友人達を夜楼華の毒で失いかけ、アヤカシにする事で命を繋いだが、友人達は自分の事をまるで覚えていなかった。
家族、同族が魅狐の手によってひとり残らず奪われた。
魅狐を怨んだ。そして魅狐はその事件から半年後、楼華を手にした人間達によって絶滅した。
魅狐が絶滅した。憎い魅狐が。しかし すいみん はちっとも喜べなかった。
もし、自分のように生き残った魅狐がいたとしたら、あの時自分が感じた絶望感をその魅狐も感じるのだ、と思えば胸の奥が痛く締め付けられた。
そして、夜楼華───楼華病の時も、魅狐の絶滅も、自分は何も出来なかった。事が起こり終えた後にしか動けない自分。
なぜだか、そんな自分がとても嫌になった。
何も出来ない自分が。
「失ってからじゃなきゃ動けない自分......何も出来ない自分なんて、もう嫌だ」
炎を宿すように赤い瞳が熱くなるのを すみいん は感じ、胸の中を回る不安な予感を消しきれないまま、竹林道へ急いだ。
その予感が今まさに、竹林道で現実となっている事も知らずに。
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