◇334 -夢幻竹林-1



現在、エミリオはシルキ大陸【療狸寺やくぜんじ】でひとり、まるで自室にいるかのようなダラダラ体勢で時間を潰していた。


ウンディー大陸では【技能族テクニカ】が潜水艦の準備を済ませ、冒険者達が既にシルキ大陸へ出発していた。


シルキ大陸では【レッドキャップ】が【龍組】を相手に遊び、竹林道を血で濡らした。

その血も渇かないうちに、再び竹林道で武器をとる。


「よォ、なげぇ竹林道だなここは。ちょっと道を訪ねてぇんだけど、いいか?」


レッドキャップのベルは混合種武具キメラウェポンを抜き、前方に立つ集団へ刃を向ける。

ジプシー、テラも同じく武器を手に戦闘体勢へ。


「道に迷った? ここは夢幻竹林むげんちくりん.....今更迷うなんて可笑しな話だが......それよりお前ら.....血の臭いがするぞ?」


龍の刺繍を持つ防具を装備している集団の先頭で、一際雰囲気を持つ人物がカタナを抜きながらベルを睨む。


「そりゃそうだ。俺達はついさっきお前等みたいな防具の連中を殺したからな。さっきの連中は雑魚だったが───先頭のお前は痺れそうだなぁオイ!」


ベルの楽しそうな獰猛声を合図に竹林道での2戦目がスタートする。

龍組は先程よりも熟れた13名の妖怪。

レッドキャップは先程の戦闘でエンジンがかかった状態の3名。

お互いがお互いの事を知りもしない中で、直感的に敵、あるいは厄介な存在だと判断し、迷う事なく殺し合いを始めた。





シルキ大陸を区分する深く大きな竹林───夢幻竹林の【華組】側を歩く数名の足音が薄い霧を蹴る。まだ日が昇って間もないうちから竹林はざわめく。


「早朝は霧が濃いね。気を付けて進もう」


全体的に黒髪だが眼にかかる髪は白色の男性───あるふぁ は足下を漂う霧をチラリと見て周囲を警戒する。ハッキリ見える濃い霧は足下だけとはいえ、数十メートル先を薄い霧がぼやけさせる。数十メートルの距離ならば問題ない、と思いがちだが、クナイなどの投擲武器を扱える者の数十メートルは充分射程距離。弓となれば数百メートルでも射撃可能となる。


白髪の女性スノウは白い瞳を霧へ送り、あからさまな警戒をする。スノウの行動の半分はわざとだが、もう半分はもし誰かがこちらを見ている場合 “警戒されている” と思わせる行動。大袈裟、わざとらしさは隠れている側から見れば無視出来ない行動になり、相手の気持ちを揺らす事が出来る。


「偵察隊が今朝感じた雰囲気が本当なら、何かいるハズだけど.....何も感じないね」


限りなく白に近い髪を揺らし高く伸びた竹を見上げるモモ。よく観察すればうっすら桜色の髪を耳にかけ、音でも情報を探る。


「朝だしお腐れ様は出ないと思うけど.....私、腐敗仏には会いたくないなー......見かけただけでもヒヤっとするし」


冷たい愚痴を溢すスノウは華組の組服の胸ボタンをひとつ外す。

龍組と違って華組は統一感があり、全員が和國産の軍服のような防具を装備している。ブーツだったりグローブだったりと、この辺りはいつの時代にシルキへ入ったものなのかは不明だが、今では違和感なくシルキに溶け込んでいる。


「オイラも腐敗仏は勘弁かな......、、? 遠いけど気配がある」


「うん、あるね」


「........ヌエだ」


あるふぁ、スノウ、モモの順で喋り気配を感じた方向へ身体を向け、気配を薄くし霧に混ぜゆっくり、一歩一歩その方向へ進む。


今朝、華組の偵察隊はこの夢幻竹林むげんちくりんでただならぬ気配を感じた、と報告をした。その気配を探るべく華組の強者3名が竹林の調査を。小隊を組まなかった理由は腐敗仏だった場合、速やかに退却するため。龍組だった場合も同様に今すぐ大きく衝突するつもりはないという意思の表れ。もちろんその意図を龍組が汲み取ってくれなければ何の意味もないが。


今回の気配───今3名が感じた気配は間違いなく龍組の雷鵺ヌエ


他にも数名の気配を感じるが、知らない気配。


「ヌエが出てくるとは思わなかった.....即戦闘になる事も考えて近付こう」


あるふぁは白い前髪の隙間から霧を睨み、腰のカタナへ手を伸ばしゆっくりと進む。

スノウはリボルバータイプの魔銃へ、フゥーと息を吹き掛け装填。

モモは腰に掛けていたホルダーから本、ベルトポーチからペンを取り出した。どちらも和國───シルキの物でもないし武器とも思えない。


一歩、また一歩と近付き、その気配は濃くなり音も徐々に響き始める。





竹林に龍組の死体が増える。

緑色の鱗を持つ太刀がカタナと何度もぶつかり合うたびに、ヌエは舌打ちをうつ。


「どうした? マジになんねぇなら終わらせるぜ?」


担ぐように太刀を持ち、ベルはヌエを見て笑う。

その背後では次々に殺される龍組の者達と、死体を漁るカラスのようなレッドキャップにヌエは怒りを滲ませる。


「何者なんだ貴様等......骸喰いの真似事はよせ!」


「むく.....なんだって?」


ヌエが振るった力任せの刀撃をベルは落ち着いた剣撃で横腹を叩く。すると反響するような音を奏で、カタナの刃はまるで斬られたように宙を回る。


「折れたぞ?」


「.....チッ!」


煽り声で笑うベルの次なる斬撃をヌエに防ぐ手段はなく、回避するにも距離が近すぎる。嫌な黄色の太刀は無色光を放ち下から鵺の胴を狙い空気を斬り進む。


───斬られる。


ヌエは奥歯を強く噛み迫り来る太刀へ折れたカタナを向けるも、残された僅か数センチの刀身では防ぎきれるとは思えなかった。斬られる事を受け入れ、斬られた後にどう行動するかを考えていた鵺と、一撃で終わらせる と力むベルは同時に眉をピクリと動かした。

霧をまるで泳いでいるような人影が、恐ろしい速度で接近し、ベルの太刀をカタナで叩き受けた。


「───テメェは冒険者の」


あまりにも速すぎる。

ベルだけではなく、ジプシーとテラもそう思わざるを得ない速度を披露し、太刀を迎撃した人物は緑色の髪を揺らす和國装備の───冒険者。


「退け、レッドキャップ」


レッドキャップ というワードをクチにした乱入者の顔をベルも知っていた。それもそうだろう、乱入者はウンディー大陸を拠点にしていた “とにかく速い” と言われる今ではベテランクラスの冒険者 烈風。


そして、烈風の後を追い現れた龍組の人物は妙な雰囲気を纏う白髪の男。


「余裕なさそうだな、ヌエ」


黒革のメカクシをつけた白髪の男トウヤは、ベル、テラ、ジプシーの順で睨むような気配を飛ばした。

鍔競り合いのまま停止していたベルはその気配に反応し、太刀を強く押し一旦距離を取る。


「3人か。ジプシー、テラ、お前らはどれがいい?」


「ベルさんは誰の相手を?」


「良品、良品、良品! 迷うッスねぇー!」



駆け付けた烈風とトウヤを前に、レッドキャップは誰が誰を叩くかまるで買い物するように迷い選んでいた時だった。背後から迫る薄い気配───ハイディングして迫る何者かにジプシーが気付く。


「───......3。ベルさん、背後から3名ハイドで接近してきます。ハイドレートも低いし龍組かれらと同じ “独特な雰囲気” は全く隠せていませんが、どうします?」


「イチイチ聞くなよ。決まってるだろ」


「ブッkillッスよね? 私そういうシンプルなのダイスキ」



龍組、レッドキャップ、そして華組。夢幻竹林での三つ巴の戦いがゆっくり幕を開ける。




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