◇333 -テクニカの潜水艦-4



ホムンクルスのだっぷーが潜水艦を覗き見たところ、大型から小型への連絡はマテリアを使用しているのでマナや魔力などのバランスを問わず可能という事がわかった。

小型から大型への連絡送信は不可能、小型は受信する事のみが可能。


「なるほど.....ならば先に大型の潜水艦をシルキへ送り、状況に応じて小型を送る流れで考え、メンバーを組みましょう!」


今この場にいるメンバーで第一陣を組む事に。

セツカが残るのはもちろん、ウンディーを手薄にするワケにもいかない状態なのでナナミ、ひぃたろ、プンプン、ワタポ、クゥがウンディーに残る。

螺梳ラス、キューレ、カイト、だっぷー、ししがシルキ大陸へ向かう事に。


「せっかくの大型じゃ。数名に声かけてみるのじゃ」


キューレはセツカへ「大丈夫じゃ」と言うような視線を送り、フォンを操作する。下手に声をかけ、冒険者がシルキへ向かう! などと噂が広まれば面倒な事になりかねない。その辺りもキューレは理解していて、信用.....と言えば大袈裟だが、下手にペラペラ言わず忙しそうではない者を選択、大型潜水艦でシルキ大陸へ向かう最終的なメンバーは、螺梳、キューレ、カイト、だっぷー、しし、ジュジュ、るー、ゆりぽよ、リナ、の9名となった。


大型の商業系ギルド【マルチェ】のマスターであり皇位を持つジュジュがキューレの誘いに乗ったのは意外なんてものじゃなかったが、ジュジュは自ら足を運び商品になりそうな種を探す人物。シルキというワードが彼の商人魂に火をつけたのだろう。


「まさかシルキへ行こうって考えてたなんてな! 最近はギルドも安定してるし、アスラン達が居ないから時間持て余してたところだ」


和國産の防具を装備しているジュジュは気分良さそうに笑いながら誘いに感謝していると、螺梳が、


「なぁ、その防具......どこで手に入れたんだ?」


ジュジュの防具───繊細な龍の刺繍を持つ和國防具を見る螺梳。

螺梳は【華組】の妖怪で、対立しているのは防具に龍の刺繍を持つ【龍組】、つまりジュジュの装備は螺梳にとって敵の証とも言える。


「あぁ、これはフレ.....友人が売ってくれたんだ。俺はジュジュ。ウンディー大陸を拠点に商売している人間で、各大陸でも色々と商売をさせてもらってる」


「友人がその防具を......そうか。俺は螺梳ラス、妖怪だ」


「へぇ、本当に妖怪なんだな。よろしく」


2人は自然な流れで挨拶をし、お互い聞きたい事がある様子だがこれ以上会話せず挨拶を終了させた。


「では早速ですがシルキ大陸へ向かっていただきます! リーダーはジュジュに任せてもよろしいですか?」


セツカの言葉にジュジュはあっさり頷き、第一陣のリーダーはジュジュに決定。シルキへ到着した瞬間から螺梳は自由に行動するとして、ウンディーからは2パーティがシルキへ向かう事になる。2組のパーティが行動を共にする場合は全体のリーダーとなる者がいると風通しが良くなる。3パーティ以上だと全体のリーダーの他に各パーティにリーダーを作る事で風通しを良くする事で、レイドとしての行動速度などを高める。

全員が納得し、リーダーが決まれば後は従うのみ。


「では改めて、ジュジュ班はシルキ大陸へ上陸後、腐敗仏はいぶつの根源を叩いてください。しかし決して無理はしないように! 危険だと判断した場合はすぐに撤退してください。手が足りない場合はすぐにマテリアを使って小型船へ連絡を入れてください。こちら側もすぐにシルキへ迎えるよう、待機していますので」


「了解、俺達は噂の腐敗仏はいぶつっての退治すればいいんだな」


軽く考えているワケではない。しかし腐敗仏は決して簡単な相手ではない。

それをジュジュ達が理解するのはまだ先の話。



「よし、ジュジュ班.....ジュジュ隊は潜水艦に乗り込め! 未知の大陸───シルキへ向かうぞ!」



ジュジュの騎士のような掛け声を合図にウンディー大陸側のシルキ攻略がスタートした。





街の至る所で機械が動く外界の大きな街【テクニテスタ】

子供達に混ざり遊ぶ機械もいれば、商売をする機械、掃除をする機械など様々な形の機械が技能族テクニカと、命ある者と見事共存している街。

街に緑───植物はほぼ無いが空は青く、息苦しさは全くない。それどころかどこか未来的とも言える街並みの中を、少年と紳士が歩く。


『テクニテスタは人と機械が共存する平和な街ですね。マスター』


「平和、か。所詮機械は機械モノ、これは共存じゃなくて支配や利用と言うべきだろう.....本当の意味で共存したいと思い、研究すれば罪になる.....変化に恐れるガラクタ達の街だ」


狂気の天才ファイリシアス───ファリーシャはツンとした表情でテクニテスタを進み、大きなクリスタルの前で停止。


「帰る」


『御意』


ファリーシャが一言いうと紳士───F-02はフォンを取り出し、大きなクリスタルへマップデータを送信。すると紳士の足下に無色の魔法陣が展開される。


『失礼します、マスター』


紳士は自分のマスターであるファリーシャへ頭を下げ、抱き上げる。ファリーシャも抵抗する事なく紳士の肩へ手を回し、ふたりで魔法陣の中に立つと、一瞬発光しふたりは消えた。


転送石に目的地のマップデータを送り、近くの転送を検索、そこへ空間魔法を繋ぎワープする技能族テクニカが作り出した移動手段のひとつ。


魔法のような技法。

魔術のような技術。

技能族テクニカは全種族の中でズバ抜けた技術力を持つ種。世界の繁栄には技能族テクニカの技術力が必要不可欠と言われるほど。



『マスター、どうやら潜水艦は無事機能しているみたいですよ』


「当たり前だ。この僕が作ったモノだぞ? それより腹が減った.....すぐに食事の用意をしろ。スクラーヴェ」


『御意.....スクラーヴェ、とは?』


「お前の名前だ。いつまでもF-02では人前で呼べたものではないだろう」


『私の名前......スクラーヴェ.....』


「喜べ。この僕がお前のためにつけた名前だ。意味は───奴隷だ」


『ありがとうございます。素敵な名前ですね、マスター』


「ほう、いい表情かおをするようになったな。その調子でデータを集めていけ。それより食事の用意を急げ、これ以上僕に我慢をさせるならスクラップ行きだぞ。スクラーヴェ」


『直ちにご用意致します』



漆黒の塔が灰煤を吐き出すファイラルシア研究所跡地。


ここにある灰被りの鉄城にファリーシャは住んでいるが、今は誰も知らない。




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