◇327 -療狸寺の妖怪-6
無色光。
剣術系や特定の魔術を発動する際に発光する魔力やマナ。
魔術ならば属性枠を持たないバフ、デバフ、治癒術などで無色光が発生し、剣術ならばほぼ全てで発生する。それが剣ではなく槍や拳でも無色光はその武器部分に纏わせているように発光する。その無色光が大寺の中庭───になるのか知らないが、外の広間で激しく発光し、ぶつかりあったのは約10秒前の話だ。
わたしは既に無色光を消失させ、硬直も終了した【ブリュイヤール ロザ】を一度振り払い、右腰から吊るしている鞘へ滑らせる。
「ふぅ───んじゃ、またなわちき」
「はうわうわぅ.....」
反撃に対応すべく残しておいた短剣【ローユ】も鞘へ戻し、倒れ伸びているわちき妖怪へ挨拶をし箒を拾いに進む。
しなやかな動きには驚かされたが、それだけだ。速度も重さも何もない、ただ動きがしなやかなだけでは外じゃ殺される。型の見た目───綺麗さなんて戦闘では何の役にも立たないという事だ。
結果、わたしの剣術はわちきの剣術───拳術を全て弾き消し、一撃入れる事に成功している。
「この寺は何の修行させてるんだ? こんなんじゃCレートのモンスターにも食われるぞ」
呟き、魔箒を拾い上げたわたしは背後から刺さる視線に反応した。
「───......? なんだ、今の」
視線は感知出来たが、その主がいない。わたしの感知力では視線を拾うのが限界か.....この1年でこういった感知スキルは成長しているのだが、まだまだ甘いらしい。しかし今の視線はただ者ではない。殺気───ではないが、なんだろう、強者特有のチクリと刺さる冷たい視線。もろに出会った場合は気にもならないが、こうして隠れて見られるとその視線がハッキリわかるのか.....。わたしも隠れて覗く時は気を付けなければバレてしまうな。なんせわたしは強者だし。
で、問題は今ここに誰か居るという事だ。
誰だ.....なぜ隠れている? わちきのように監視役なら、今この瞬間はに出てこないのは仕事放棄だろ。
「........知るか」
出てこないならそれでいい。まぁどうせ出てきても雑魚妖怪だろ───!? なんだ.....アイツ。大門の前に座っているアイツは.....わちきをブッ飛ばした時は確実にいなかった。今さっきそこへ座ったのか?
「やるね、さすが魔女」
「あ? あぁ、だろ? いつから見てたんだ?」
普通に話しかけてきたが.....何者だ?
「枕返しが部屋を出たくらいからかな?」
枕.....わちきか。って事はわちきとのやり取りは全部見られていたって事か。それなら話は早い。
「そかそか、んじゃおやすみね」
今更説明する必要もないだろう。わたしはさっさと夕鴉と夜鴉をとりにいくぜ。
「おれの仕事はこの門から魔女を出さない事なんだ。もちろん飛んでもダメだ」
「......今度は門から出すなか。んじゃ次は何だ? 縛りつけて動かすな、とかそんなのになるのか?」
「いいや、おれで最後だよ」
「あっそ、勝手に門番やってろ。あとお前、顔に値札ついてんぞ」
コイツも妖怪なのか知らないが、門番をしたいならわたしを巻き込まず勝手にやっててくれ。顔に値札みたいな紙つけて顔色悪いし......早く寝ろよ。
「これは値札じゃなくてお札、そしておれは手足の骨くらいなら折ってもいいって言われてる。ここから出るつもりなら折るよ」
「は? 頭オカシイんじゃねーの? お前んトコの狸がわたしをここへ勝手に連れてきて、出るなってか? お前らやべぇ集団かよ」
何でだ.....何で狸はここまでわたしにこだわる?
エンジェリアの娘だからか? もしそうなら頭にくる。わたしはエンジェリアの娘かも知れないがエミリオ様っていうひとりの魔女だ。母魔女をステータス記号みたいに見てるなら狸鍋にすんぞ。
「とにかく明日の朝、
「お前に関係ないだろ」
「関係ないと言えばそうだけど、おれも命令されてるから、関係ないとかそういう事じゃないんだ。もうすぐ夜も明けるからさ。それまでおれが話し相手になるし、待とうよ」
コイツまぢで頭オカシイんじゃねーの? 命令だからって......あの狸女は本格的にやべぇヤツじゃねーか。やっぱこんな所早く抜け出さなきゃわたしの頭までヤラレちまうぜ。
「お前も邪魔すんならわちきみたいにブッ飛ばすからな」
「そっか、わかった。じゃあ仕方ない」
値札男は立ち上がり、骨を折っているのかと思うほど嫌な音を響かせ関節を伸ばす。何を言ってもやる気みたいだし、さっきのわちきみたいに箒を飛ばされると面倒だ。わたしはフォンへ魔箒を収納し、剣と短剣を抜いた。ここまで連戦したのは初めてかもしれないが.....ひっつーもわちきも雑魚だったから体力的にも精神的にも余裕。それどころか準備運動が終わった感じの仕上がりだぜ。
「わちきはスタンしたから終わったけど、どうなっても知らねーぞ値札マン」
「おれは値札じゃなくてテルテル。てるてる坊主から名前をつけたんだ。ほら、ここについてるでしょ?」
ベルト部分にてるてる坊主のストラップをふたつ吊るしている値札男は自らをテルテルと名乗った.....やっぱり頭オカシイな。自分の名前をテルテルと名付けたって、元々の名前はどうした? ま、どうでもいいか。見た感じ武器はない。袖がやけに長くて手が見えないけど.....多分あれはサイズミスだ。しかしあの格好は何というか.....わたしの知ってる和國製品とは少し違うな。
「それじゃあ始めよう.....って、門から出ようとしたり、そういう意思が強くないとおれは攻撃出来ないんだけどね」
「あそう? そんじゃ───いくぜ」
コイツは、テルテルはさっきのわちきや昨日のひっつーとは雰囲気が明らかに違う。コイツなら妖術をもしかしたら見せてくれるかも知れない。見せてくれなかったら.....まぁいい。妖術を使おうが何をしてこようが、わたしがあの門を突破する事に変わりはない。一直線に門へ突っ走るわたしをテルテルは迎え撃つように構え、両手に無色光。拳術か.....ならわたしも剣術でぶつかる。
五連撃のエミリオ剣術【ホライゾン】でその長い袖口を短くしてやるぜ。
「ブッ飛べテルテル」
「ごめんね、命令だから」
剣術と拳術は激しくぶつかり合い、まるで武器同士が衝突しているような重さと音が響く。わたしの五連撃剣術【ホライゾン】は型が無い。つまり好きな軌道で振れる。発動の姿勢はプンプンの【狐月】よりは自由度が低いものの、ある程度なら自由が効く。対するテルテルの拳術は速度はそこまで速くないが、武器を使っている攻撃のように重い。お互いの攻撃は相殺というつまらない結果で終わった直後、わたしは右手の短剣へ緑色光を纏わせる。五連撃 風属性 魔剣術【グリーン ホライゾン】でブッ飛ばしてやるぜ。
「妖───.....違う、凄いな」
わたしの魔剣術を見てテルテルは感心するように言い───脚に緑色光を纏わせた。
これは───妖術。
同じ緑───風属性。
これで魔力と妖力、どっちが上かハッキリする。
「───ツッ!」
「───!!」
わたしの風属性魔剣術はテルテルを狙い、テルテルの風属性妖術はわたしの右肘を───
「───
あまりの速度にわたしは眼を見開いたが、速いと理解した時には既にテルテルの爪先はわたしの肘の数ミリ前まで迫っていた。この距離、この状態から回避もガードも不可能で、わたしの短剣はテルテルまで数センチも距離がある。同じ風属性でも妖術の方が速いのか? それともテルテルの本気の速度がこれなのか? どっちにしろ.....これは食らう道しかない。
テルテルの爪先がわたしの肘へヒットした瞬間、右腕は外側へ一気に吹き飛ばされ、短剣【ローユ】はわたしの手から放れる。衝撃で短剣を手放したワケではない.....蹴られた瞬間に内側から外側へ抜けるような衝撃が───肘から指先まで走った。どうやら右脚での攻撃は今の一撃で終了らしい。が、残る左脚は緑色光を今も纏い、回し蹴りのように身体を捻り、わたしの左肩に
「クッソ.........痛ッ!?」
痛みが時間差で......それも、左胸───内部に。
「まずは足だね」
「......ッ、あァ? ちょ、待て」
時間差でそれも肩ではなく胸の内部に発生した痛みに奥歯を噛んでいたわたしへ、テルテルは容赦なく拳術───脚術を放つ。
「ごめんね、命令だから」
石畳を蹴り、回転するように跳んだテルテルはそのままわたしの右足首へ無色光纏う踵を落下させた。骨が砕かれる音が脳内を叩き、激痛に声も出せないままのわたしへ、
「次は左足、次は両腕だね。ごめんね、命令だから」
と言い、テルテルの機械的な攻撃はわたしの両手両足の骨を砕くまで続いた。
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