◇318 -シルキ大陸-1



とても懐かしく、長い夢を見た気がした。内容は全く覚えていないが、懐かしく寂しい気持ちがわたしに残っている。


「......~~~っ....、、、!?」


寝転んだまま大アクビを炸裂させた天才美女エミリオ様は、天井を半分眠い眼でじっと見つめ───知らない場所に自分がいる事に気付いた。確かわたしは竹林の中でバッタンしたハズ.....何か気持ち悪いヤツと戦って......勝った、そう勝ったんだ! 余裕の楽勝だったんだけどもな!


「......で、ここどこだ?」


上半身をグイッと起こした瞬間、胸の中に激痛が走る。熱湯を流し込まれたような熱い痛みに奥歯をグッと噛み耐え、鎮まった所で小さく呼吸する。


「痛ッ.........死ぬかと思ったぜ」


落ち着いた所でわたしはキョロキョロと眼球を動かし今どこにいるのかを調査する。顔を動かしたりして痛くなったら嫌だし眼球調査だ。


「すっげーなここ.....宿屋じゃない、家だなこりゃ。誰んちだ?」


木材をメイン素材に造られた家だがよく見るタイプの木材加工ではない......見た事もない家具が......家具、と言えるのかも怪しい。家に穴をあけ、そこで炭を焚くという斬新な改造を施された家。パチパチと爆ぜる音が何だか心地好い。しかしなんだろう.....この違和感。


「.......あ、靴.....テーブルとかイスとかもないんだ」


違和感の正体に気付いたわたしはスッキリしたので立ち上がろうとするも、またあの痛みが押し寄せてきたら絶命する確率が高いので立つのをやめた。誰の家かもわからない場所でおっちぬなんて寂しすぎる。どうせ死ぬなら大勢の前で笑って死んでやりたいだろ? ......自分でもどんな死に方だとよ、と言いたくなる謎の妄想をしたわたしはもう一度横になる。


「───って、寝てる場合じゃねーよ! ここ何処だよ!」


.........痛ったぁー。腹裂けて内臓飛び散らかるかと思った.....。


「おいおい、なーにを大声だしとる? 無茶するで───ほら言わんこっちゃない。まだ痛むんじゃから安静にしとれ」


「お、おう、サンキュー」


わたしは背中をポンポンと叩かれ、不思議な事に痛みが和らいだ。そのままゆっくり横になり、小さく深呼吸した。


「───って!! お前だれ....だぁッ.....っ......」


本日2回目の痛ったぁータイム。残念ながらわたしに学習能力なんてものは備わってない。


「お前さては、阿呆じゃろ?」


「......いや......天才.......」


「........」


もう一度背中をポンポンしてくれた謎の人物。また痛みが和らいだのでまたまた横になる。


「......で、お前誰だ?」


「ワラワはそうじゃのぉ......うーん」


わたしに背を向けた状態で何かを掃除する謎の人物。その人物は「じゃの」と言った事から.....おそらく、


「キューレのお母さんか?」


この口調はキューレ以外にいない。そしてキューレではない。つまり───


「キュウリ? 食いたいんか?」


はい違った。


「いやいい。それよりお前誰だよ」


「ワラワに対してお前とは、お主結構な身分じゃのぉ」


掃除を終えた謎の のじゃ は振り向く。丸い瞳とタレ眼、可愛らしい鼻、そして───兵器的おっぱい。


「うお、スゲーおっぱいだな......え、お前その耳と尻尾なに!? 新種の魅狐ミコか!?」


痛みと謎の家に気をとられ、耳にも尻尾にも全く気付けなかった。頭の上の耳と腰あたりから垂れる尻尾がピクピク動いた事から、装飾ではなく本物の耳と尻尾を持つ謎のおっぱい。


「ほぉ、魅狐を知っとるのか。じゃがワラワは魅狐じゃないぞ。狸じゃ。さっきお前さんの背中をポンポン、と叩いたのはワラワの能力じゃ」


狸.....狸って確か動物で喋れないハズ。オスもメスも似たようなヤツばっかりだし.....でも確かに狸っぽい顔で狸っぽい耳と尻尾だ。狸人族? ポンポコ族とかその辺りか? まぁ何でもいいや。


「なぁ狸、色々聞きたいんだけどいいか?」


「おうおう、今度は狸呼びかえ。こう見えてワラワは大神族だいしんぞくじゃぞ? キュウリだとかお前だとか、結構な態度じゃのお主」


なんかちょっと怒ってるっぽい狸だが、狸がどれだけ偉いってんだよ。所詮狸だろ。


「何でもいいけど、ここどこだ?」


「お前さん、人の話を聞かんヤツじゃろ?」


「聞いてるよ、狸の親戚で大きくて新鮮なキュウリが好きなんだろ? で、ここどこ?」


「........」


「ん? なんだよ」



なんか、凄く怒ってる雰囲気でわたしを睨む狸女だが、狸顔が可愛くて全然迫力がなかった。





シルキ大陸に最も近い孤島、今はウンディー大陸と同盟を結んだ【猫人族の里 シケット】にある猫人族【リナ】の家。

その家の二階、ベッドに眠る後天性吸血鬼の【マユキ】は普段とは違った雰囲気で、どこか幼い寝顔を見せる。


「......うん、もう大丈夫ね」


マユキを診ていた者のひとり、ギルド白金の橋マスター【リピナ】は呟き、ギルドメンバーにマユキを任せ一階へ。


今リナの家には中々の面子が揃っていた。

ウンディー大陸の女王、人間【セツカ】

元ドメイライト騎士で元レッドキャップ、そして元人間の現 後天性 悪魔の冒険者(×SSS)【ナナミ】

皇位情報屋であり冒険者の人間【キューレ】


ギルド フェアリーパンプキンのマスターでSSランクの冒険者、半妖精ハーフエルフの【ひぃたろ】

同ギルドのサブマスターでSランク冒険者の魅狐ミコ【プンプン】

同ギルドのSランク冒険者で、元ドメイライト騎士であり元ペレイデスモルフォのマスターだった人間の【ワタポ】


料理人としても錬金術師としても有名なキノコ帽子のSランク冒険者、獅人族リオンの【しし】


家主でありSランク冒険者でもある猫人族ケットシーの【リナ】


そして駆け付けた冒険者もまた高ランク。


錬金術師として有名であり銃士としての実力も備える錬金銃師でSランク冒険者、そしてホムンクルスという種の【だっぷー】


瑠璃狼の異名で呼ばれる人間であり侵食の影響で残った狼の耳が印象的なSランク冒険者【カイト】


希少な音楽魔法を操るSS冒険者であり音楽家の【ユカ】


そして、謎が多すぎる和國装備の大妖怪 滑瓢ぬらりひょんの【螺梳ラス



「......あら? だっぷーとカイト、それにユカも来たの」


二階から戻ったリピナは3名の姿を見て軽く挨拶し、壁へ背を当てるように立つ。


「イスが足りにゃくてごめんねぇー、こんにゃに人が来る事にゃんてにゃくてニャ」


床にそのまま座り酒を呑むリナへセツカが「こちらこそすみません」と言い、リナハウスは沈黙に包まれる。


「......あ、後で他にも何人か来ると思う」


音楽家ユカは髪を束ね、ネクタイを緩め言った。各々が頷き、何度目かもわからない沈黙が広がる。


「.......お医者様のリピナだったか? さっきの女の子はもう大丈夫なのか?」


螺梳がリピナへ質問すると、リピナはハッキリ頷いた。そして、


「よし。じゃあアレだな、多分俺に色々聞きたい事あるだろ? 自由に質問してくれれば答えるぞ」


螺梳はそう言って笠と武器、マントローブのような外套を外しテーブルの上へ起き、リピナへ席を譲る。


「どうした? 答えられる範囲で答えるつもりだぞ? 勿論、言えない事もあるが......」


「ではまず最初に、貴方は何者ですか?」


ウンディーの女王がクチ開き、全員が螺梳を見る。


「俺は螺梳ラスって者だ。妖怪ようかいで種類は滑瓢ぬらりひょん。シルキ大陸から来た」


種族が妖怪という時点で驚いた者も多いが、全員が驚いたのはシルキ大陸という言葉だった。

格好を見ればシルキ大陸というワードを連想するものの大陸そのものの存在が朧気な大陸でもあったシルキ。そんか大陸から来たとなれば誰もが疑う。


「ウチらはシルキ大陸をよぅ知らんし、言ってしまえば無いものだと思っとる部分もあるのじゃ」


情報屋のキューレはすぐに螺梳の出身であろうシルキの話題を両手で掴むように情報を引き出そうとする。


「無い、か.....まぁそう思われてもしゃーないわな」


「じゃろ? そこで色々聞きたいんじゃが、失礼な聞き方になるかも知れんのじゃ。それでもええか?」


「あんなのの後だと尖った言葉も出るだろ。気にしないでくれ」


「.....だそうじゃ。んじゃウチは聞き耳立てて座っとるから、後はよろしくのぉ」



キューレはフォンを取り出し「どぞどぞ」と全員を見て言い、クチを閉じニッと笑った。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る