◇308 -猫の抜け道-3



小石の音で和骨モンスターはわたしの存在を発見し、隠蔽術ハイディングが解かれた。元々わたしは隠蔽よりも看破リビールの方が得意だ。こんな猫騙しな隠蔽術では数メートル進んだだけでも看破されてしまう。が、この防具には隠蔽補正がある。のだが.....小石の音であっさりハイドレートは低下し看破された。


「やっちまったぜ.....でもまぁいずれこうなってただろーし、コソコソ移動すんのは好きくない」


言葉など理解出来るハズもない和骨へわたしは言い、さらに一言飛ばす。


「見逃してくれんなら最高だけども、やるってんなら───飛ばしていくぜ」


鞘から剣を抜き、剣先を和骨へ向ける。短剣も同時に抜き、新装備での初戦闘へ気合いを入れる。

白銀の剣【ブリュイヤール ロザ】は片刃の剣で刃の部分はうっすら青く、手を包むような鍔がイケメン。短剣【ローユ】は研磨され輝きを取り戻したイケメン。相手の強さは謎だが、複数体....普段なら魔術で範囲攻撃をする所だが、今は武器を使いたい。

和骨達は自分達がターゲティングされた瞬間、粗末なカタナを抜き、渇いた声をあげる。甲冑和骨はリーダーのプライドなのか威嚇的な声はなく、ゆっくり長めのカタナを抜き、タクトのようにカタナを振り和骨達を進撃させる。


「骨折れても知らねーぞ、骨マン!」


メイン武器【ブリュイヤール ロザ】と防具【ナイトメア】での初戦闘が開幕。先制として魅狐族のプンプンや愉快な仲間のワタポとハロルドが使っていた、どの体勢からでも発動でき、ディレイも極小な万能単発剣術【弧月】を使う。見よう見まねだが、大体は理解しているので危なげなく成功。一体目の骨マンへ攻撃がヒットする前にわたしは驚く。

新武器の攻撃時の抵抗の無さ、軽くいて確りした感覚。そしてヒット時の威力。

骨マンAは剣がヒットした部分は綺麗に切断され、ヒット時の反動が全身に届いたのかバラバラになった。骨マンの防具さえも切断する恐ろしい斬れ味.....


「.....おいおい、お前は触れるモノ全て傷付ける不良か?」


と、武器へ話しかけてしまうほど恐ろしい斬れ味だった。


単発剣術 狐月こげつは予想以上にディレイがなく、斬り上げで発動したため剣は上に。ここから次の剣術へ繋げる事も充分可能だが───試したい剣術があるので一旦下がる。新調されたブーツは裏切る事なく地面を噛み、わたしを後ろへと運んでくれる。わたしの速度に反応出来ていないという事は.....この和骨達は雑魚モンスター。

デク人形でも見つけたら試そうと思っていた剣術をモンスター相手に試せるとは運がいい。一呼吸おき、眼の前の骨達へ集中する。ガシャガシャとうるさい音をたて迫るリーダー骨と、安っぽい音の兵骨。リーダー骨があと一歩踏み込んだら一気に行く───ッ!


シケットとシルキ大陸を繋ぐ海底洞窟【猫の抜け道】を強く蹴り、剣には赤色光、短剣には緑色光を纏わせる。和骨モンスターへ猛進し、剣術の天才でもあり魔術の鬼才エミリオさんが考案した、五連撃 魔剣術。赤色光の剣は火属性の【レッド・ホライゾン】緑色光の短剣は風属性の【グリーン・ホライゾン】という、左右で違う属性の魔剣術を全力で撃ち込む。

一撃目の火属性が雑魚骨を焼き斬り、二撃目の風属性が近くの雑魚骨を。単純に考えてこれは十連撃の魔剣術。これが成功すれば───


「───あ、やべ」


三撃目で剣と短剣が衝突するという最悪な現象が発生した。火と風の衝突は本当にマズイ。

風が拡散するように広がり、その風に火が乗り炎となり狭い洞窟で爆裂。ファンブルではなく暴発という最悪の中でさらに最悪な結果を叩き出した魔剣術はただの魔術となり洞窟で暴れ狂い、和骨を焼き斬るだけでは足りないようで───海底洞窟の天井を深く抉り砕いた。


「おいおいおいおい! 生き埋めは勘弁だぜ!」


揺れる洞窟、落下してくる砕けた天井───いや最早アレは岩。このままでは生き埋めさよならエミリオさんになってしまう。が、わたしは魔女。そう! 魔術に特化した種族! 暴発後にファンブルディレイが発生し左右の武器はアホほど重くなり動けないが、クチは動く。素早く地属性魔術を詠唱し、落下してくる岩を狙って発動させる。


「───あ.....」


魔法陣が展開した所で、わたしはミスに気付いた。ここは洞窟。普段外で使っている威力やサイズの魔術では強すぎる。そう気付いても既に魔法陣から巨岩の太槍が数本、待ってましたと言わんばかりの勢いで伸びる。狙い通り落石を粉々に粉砕し、勢いは止まらず天井を更に、更に深く抉り刺し───洞窟は地響きのような唸りをあげ大きく揺れる。


「くっそ! こんな所で死んでたまるかバカヤロー!」


気合いの大声と共にわたしは武器を鞘へ刺し、走りながらフォンを操作。フォンポーチから魔箒を取り出しすぐに乗る。全速力でシルキ方向へ進むもゴツゴツと伸びた岩肌が邪魔で理想的なスピードを出せないまま、震動と轟音はわたしを追うように近くなる。後ろを見たくはない.....見たくはないが、見てしまうのが人ってもんだ。魔女だけども。


箒の上で恐る恐る振り向いたわたしの数メートル前で、海水が暴れ踊り、数秒後あっさりと呑まれ激流に拐われた。





嫌な地鳴りが猫人族の里へ届いた。距離は遠いがリナは嫌な予感がし、とりあえずセツカへメッセージを飛ばしておく事に。地鳴りの正体はわからないがこのタイミングで発生した事については心当たりがあった。


「まさかニャ.....ただにょ洞窟じゃにゃくて海底洞窟にゃし.....下手にゃ事しにゃいよニャ?」


地鳴りが聞こえた方向を見詰めリナは呟き、セツカへのメッセージが送信されたのを確認しフォンをしまう。


「にゃーんか嫌にゃ予感が.......ん?」


不安呆れの表情で何気なく見たシケットの屋台。そこにはシルキの者と思われる笠装備の人物がいた。


「..........こりゃー、ヤバイ事にゃりそうだニャ」


リナは再びフォンを手にし、追撃のメッセージをセツカへ送信。新規メッセージをキューレとゆりぽよに送信し、酔い醒ましの薬を飲み、服から装備に着替え武器を背に装備した。





にゃんにゃこにゃーん! というふざけたボイスがユニオンの女王の間で二回響き、後天性悪魔のナナミはピクリと反応、セツカはフォンへ手を伸ばす。猫人族のリナとゆりぽよがふざけて録音した【にゃんにゃこにゃーん!】ボイスを気に入ったセツカは猫人族からのメッセージ受信音に設定していたので、メッセージ相手は猫人族の誰かなのは確定している。受信メッセを開こうとすると再びフォンが【にゃんにゃこにゃーん!】と鳴いた。二通連続でのメッセは珍しいが相手は猫人族の誰か.....リナとゆりぽよの悪戯か何かか? と思いつつメッセージを開くと送信者名は二通共にリナ。

一通目には〈地鳴りが聞こえたけど何か嫌な予感がする。手が空いてるなら冒険者を派遣してくれると助かる〉となっていた。

二通目は〈笠を装備してる人物がシケットにいる。そいつから嫌な雰囲気を感じる。もしかしたらS飛びの特異個体になるかもしれない〉と書かれていた。


「特異.....個体?......笠.....ナナミ、すぐにキューレをここへ呼んでください! あと貴女も何時でも出られる準備を!」


「どうした? 何が.....、とりあえずキューレを呼ぶ」


ナナミは話を聞く前にキューレへ通話を飛ばした。





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