◇307 -猫の抜け道-2



女帝種と同じような種─── 腐敗仏はいぶつ

聞いた事もない名前だがそれはシルキ大陸.....和國に100パーセント存在しているらしい。そして夕鴉と夜鴉があるであろう場所を根城に。

女帝と同じで元は人間なのか? 共喰いして腐敗仏はいぶつってのになったのか? と質問しまくったがリナも詳しい事は知らなかった。わかった事は腐敗仏はいぶつという呼び名と、ソイツは男性ベースだという点だけだった。


「まぁ会わなきゃどーでもいい存在だし、会ってもシカトすりゃ問題ないだろ」


シケットの新名物───にしようとゴリ押ししている謎のドリンクを飲みつつ、わたしはリナに教えてもらった【猫の抜け道】と呼ばれている海底洞窟をマップで確認する。猫人族の里は孤島だが、領土的にはシルキ大陸になる。シルキ本土へは船で行けそうだが、猫人族はこの海底洞窟を使ってシルキの人と今も極薄だが関係を続けているとか。酔っぱらいの猫が言っていた事なので話半分に聞いておくべきだろうけど、捨てるには勿体無い内容。その酔っぱキャットは酒がなくなったから買いにいくと言い、どこかへ消えてしまったしマップ確認で本当に海底洞窟があるのならば行ってみるつもりだ。


「......うわ、あるじゃん」


話半分に聞いていた、期待していなかった、いやむしろ無ければこの情報はガセとして捨てれる。と考えていたわたしだったが、本当にリナが話していた座標付近にその海底洞窟はあった。どのくらい深く長いのかはマップでは不明、立体ホロ 化しても、わたしのフォンに洞窟のマナやマップデータはないので意味もない。


船で途中まで行き、そこから箒で飛んで行ければ楽そうだと思っていたが、ポートの出航リストにはシルキ行きの船が見当たらない。これはいよいよ海底洞窟【猫の抜け道】を通るしか......。


「まぁいいか。新武器や新魔術も試したいし、モンスターがいたらラッキー、シルキに抜けれればラッキー、何も居なくてもこの洞窟の情報を上手くキューレに売ればokっしょ。いこう」


そう決めたわたしはベルトポーチとフォンポーチの消耗品類を確認し、充分だと判断。すぐにシケットを出て海底洞窟【猫の抜け道】へと箒で飛んだ。座標的にはこの辺りに~、と思っていると、噂の海底洞窟がわたしの視界に入る。


コオォ.....と風が抜け唸る音が不安を煽る海底洞窟【猫の抜け道】だが、風が唸っているという事はどこかへ続いていて、抜けられるという事だ。

ぶっ飛んで抜けたいが内部を知らないのでここは徒歩で。魔箒【ピョツジャ】をフォンポーチへ収納しつつ暗闇でも視界がハッキリするバフを自分へかけ、【猫の抜け道】を一歩一歩進んだ。

海底洞窟というワードから想像していたが、湿り気もそんなになく、海水が通った感じも全く無い。出入り口が陸にあるから海水が入らないのか? とそれっぽい事を考えて自分を安心させ、グングン進む。いくつか分かれ道にぶち当たるも、風が吹いている方向へ進めば問題ない。


「お化けとかやめてくれよ? モンスターもアストラルやゴーストは無理だぜ.....アンデッド系ならいいけど.....」


ひとりで進むのが心細くなったわたしは誰もいないが割りと大きな声で喋っていた。急にくる恥ずかしさを圧し殺して、ひとり喋り歩きをしていると、何かが擦れる音が遠くの方───前の方から微かに。誰か.....何かいる。

すぐに索敵系の感知術を詠唱、発動し前方を探るも、距離が遠すぎてヒットしない。しかし音は確実に近付いてきている。


「.....お化け風味な奴等なら、飛んだり浮いたりしてるよな? 靴履いてるのかも怪しいしそもそも足ないだろうし───コイツらは歩いてる! だから大丈夫だ」


と、自分に言いつつ気が付けば左手は腰の新武器【ブリュイヤール ロザ】へ伸び、右手はベルトの背に装着されている短剣【ローユ】へ。

いつでも武器を取れる状態で、出来るだけ足音をたてずに進む。

暗明バフは半日くらい効く。ポーション類も充分ある。あとは相手の姿を見て、ヤバそうならウィッチダッシュで逃げればいい。

お互いがお互いに向かい進んでいる状態なので、すぐに距離は縮まり、音がハッキリと聞こえる。

ガシャガシャと揺れ擦れる鉄音は───タンカーなどが歩いた時の、鎧が擦れる音に似ている。しかし今聞こえる音は軽い.....わたしのような革布系の軽装ではないが、タンカーのような重鉄系でもない。数ヵ所にチェストガードを装着しているタイプの装備だろう。それにしても多いな.....何体いるんだ? まぁ何体いようと、前から来ているという事はこの洞窟は確実に何処かへ抜けられるという事。安心し───た?


暗明がわたしの想像を越える働きをみせ、暗闇の中でも相手をハッキリと確認でき、わたしは驚きのあまり一瞬固まった。そしてすぐに近くの岩影へ潜り込み、隠蔽術を発動する。


驚いた、なんてもんじゃない。こちらへ向かい進んでくる影は確かに複数でチェストガード.....といっていいのか不明だが、鉄パーツで肩や胸、腰などを防御している。先頭を歩いているヤツは全身鉄装備───和國の甲冑装備だったか? そんな感じのヤツ。その後ろを歩く連中は先ほどのチェストガードの和國バーションで肩などの部位をガードしているヤツら。そこまではいいんだ。わたしが驚いたのはアイツらの装備ではなく、アイツらだ。先頭のヤツも後ろのヤツらも、全員骨。

頭蓋骨に穴が空いているヤツもいれば、ひび割れているヤツもいる。頭に矢が刺さっているヤツも。どう見ても、アンデッド系のモンスターで間違いない。

隠蔽してその姿を確認しつつ、わたしは骨達が通過するのを待った。どこへ向かっているかは知らないが、和國装備のスケルトンは見た事がない。


───早くいけ!


そう強く願うも、運命の神様はわたしの願いを蹴り飛ばし、和骨の足を止めさせる。

ピタリと停止した和骨は眼の前に越えてはならない境界線でもあるかのように、全員同じタイミングで振り返り戻っていった。

わたしは岩影から顔を出し、なんだったんだ? と思った時、爪先が小石を蹴った。

コツンコツン、と転がる小石。

ガシャリ、と揃う鉄擦れ音。

跳び上がるわたしの心音。


やっちまったぜ。





エミリオが【猫の抜け道】で骸骨モンスターと遭遇して数分後、同じ海底洞窟の奥で、


「何か聞こえなかったかい?」


レッドキャップの【ジプシー】が音を拾い、立ち止まった。


「私はなーんにも聞こえなかったッスよ? センパイはどーッスか?」


キャンディを舐めながら【テラ】は答え、すぐに【ベル】へパスする。


「.......お前ら感知は出来るか?」


「オレは気配型。テラは魔力型かな」


ジプシーは気配型感知に優れていた。その名の通り気配を感知する型の感知スキル。気配以外にも雰囲気などの感知にも優れている。

テラは魔力型で魔術に対して優れた感知をみせる。


「そうか。テラ、魔力を感知してみてくれ。そうだな.....魔術だな」


「りょッス! 私バフやデバフよりも魔術感知が得意なんで余裕ッスよ」


ベルは気付いていた。ジプシーが聞いた物音の正体に。音を聞いたワケでも感知したワケでもないが、ベルの肌を一瞬痺れさせた雰囲気の正体に。


「んん? センパイ、感知したんスけど.....なんだこれ? 魔術は魔術なんスけど、物凄く複雑でいてアホほど濃い魔力ッスよ! なんスかこれ!」


瞳を輝かせたテラの報告を聞き、ベルは嬉しそうに口角を少しあげ言った。


「後で教えてやるよ。それよりさっさと行くぞ、面倒な事になる前に」


「面倒?」


「はて? なんの事ッスかね?」



───魔女がシルキに向かってるって事ぁ......長耳も来るか? クソつまんねー仕事になると思ってたが、こりゃ痺れるほど楽しそうじゃねーか。




進むベルを追い、ジプシー、テラもシルキ大陸へ足を踏み入れた。




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