◇305 -エミリオさんの新装備-2



新しい剣を右腰に吊るし、竜の短剣【ローユ】はベルトの背側に装備。左手で剣を抜くと同時に背腰から短剣を抜けて、その時にひらりと新しい防具の裾───地味に長い部分を揺らすと強者感があっていい。


と、いう事を想像しつつ、わたしは風魔術を使って音楽家に教わった髪の束ね方を思い出し、指先を髪に向け、クルクル回した。

遠くの空はうっすらとオレンジ色が見える程度の16時過ぎ。今日予定していた事は全て終わり、わたしはアルミナルのカフェでひとりココアを飲みつつ風魔術を利用して髪をセットした所だ。

普段カフェなんて行く気もしないが、ビビ様の店でここの券を発見し、こっそり借りてきたので来た。パクったワケではなく借りただけ。期間は───死ぬまでだけどな。


「~~~っ.....苦っ、なんだこれ」


苦味しか感じないココアを押し退け、どの店でも味が同じであろう水でクチ直しする。

数時間前、ビビ様の店で武器と防具を受け取り、一通り説明を聞き終えた頃音楽家が来た。約束通り音楽家に髪を切ってもらい、やっとウザったい長髪とはおさらばできた。

魔女力ソルシエールを解放すると髪が伸びるとは、最悪な種族だ.....わたしの場合、魔女力はあと40パーセントほど残っているのでまた伸びるのではないかという不安がある。が、まぁ大丈夫だろう。今ある魔力を魔女力に変換して使うではなく、今ある魔力全てを常時魔女力にしなければならないっぽいし、色魔力ヴェジマってのも持ってるっぽいし、気付かなかっただけでわたしは地味に忙しい身なんだ。

だからといってそんな事だけに時間を使う不器用な魔女ではない。戦闘中にちょちょいとコツをつかんで、あっぽっぽい! って感じにやれば余裕だろ多分。

再度苦ココアへ挑戦し、撃沈したわたしは水で苦味を消して帽子を装備。魔女力で髪が伸びる前よりも少し長く───と言っても長髪よりはだいぶ短くなった髪は帽子との相性抜群。後ろ髪が長く残っていたのは音楽家の拘り───ではなく、この長い後ろ髪を左側で編み結び、左肩から垂らす。

するといい感じになるのだ。音楽家がわたしの新装備を見て「ただ短いだけより女らしさを」と言い、この髪型にしてくれた。セットするのが中々にダルいのでそのうち結んでポイ状態になりそうだが、音楽家の説明は理解しやすくて助かったので今は頑張る。

と、まぁ髪も切ってサッパリした所で、わたしは新装備に身を包み自慢するようにアルミナルの街を無駄に歩き、今のカフェに到着したのだ。


わたしは剣というより細剣寄りだが細剣とも言えないタイプの武器を鞘ごと腰から外し、テーブルへ置く。短剣も同じく。

この短剣、固有名【ローユ】はローユという竜の素材で作られた短剣。なので名前を【ローユ】とつけた。なので剣も同じように~と思った所で、ビビ様がこの武器について詳しく話してくれた。

なんでも今回は普通の生産ではなく【混合種武具】の生産方法で使えそうな部分の技術を使って生産したらしい。そしてそれは大成功だったとか。混合種武具キメラウェポンとやらが何なのか知らないが、この武器は混合種武具でもないらしい。記憶武具メモリアウェポンとか名付けていた。だからこそ魔結晶も綺麗に馴染んだとか。その時に特種効果エクストラについて軽く説明を受けた。ビビ様も実際に使ったワケではないので細かくはわからないと言っていたが、わりと細かく聞けたので助かった。その特種効果の名前がメイン素材と言ってもいい【濃霧の秘棘】を持っていた【ピョンジャ ピョツジャ】のブレスにとても近いとか。

それから色々、そりゃもう脳がオーバーヒートするほど考えて考えて、【魔剣エミリオン】【聖剣エミリカリバー】という素敵ネームを叩き出したもののスミスズ&音楽家がズタボロクソに文句を言ってきたので白紙に。落ち着いた所で音楽家が出した【ブリュイヤール ロザ】というネーミングに決まった。


防具についても詳しい説明があった。

要望通り、わたしの防具は属性や魔術、異常系に高い耐性やカットを持つ。しかしその分、物理には耐性がほぼない。ダメージカットなどは働くものの物理にはやはり弱い仕様となる。それでも以前愛用していた【シャドー】よりは物理に対しても強い。ララ曰く「このランク帯でこの物理耐性はヤバイ」らしいが、わたしはそれでも属性や魔術、異常系に特化した防具が欲しかったのでいい。今装備しているのインナーはショートスリーブの黒ブラウス。ララはこれの他にロングスリーブとノースリーブの黒ブラウスを3着くれた。そしてこの防具のポイントとなるのが個人的上衣───上着のジャケットだ。このカラーリングは夜や洞窟などでのハイドレートに期待大。正直ハイディングやスニーキングは苦手で、その手の魔術を使っても上手くいかない。ついでの効果だとしてもわたしには最高の効果だ。という事で防具名を【スニーキングエミリオ】【ハイディングエミー】にしうよとした所、これまたスミスズ&音楽家にボコボコに言われたので却下。


「わたしの装備なんだから好きな名前でも別にいいだろ......」


と、あの時の状況を思い出し愚痴ってしまうほど、武器と防具の名前案は自分の中で中々にハイセンスだったのだ。もちろん【ブリュイヤール ロザ】も格好いいが。そんなこんなで次々に案を却下されたわたしは音楽家に丸投げし、防具名は【ナイトメア】シリーズとなった。

悪夢的な意味ではなく、魔女界の空が【ミッドナイト】ではなく【ナイトメア】と呼ばれている事と、この防具のカラーに似ていたからだ。こんな簡単に決まっていいのか? と思いつつも何度か呟いているうちに武具の名前はこれでしっくりした気がしたので決定し、フォンの装備欄にある武具へ名前を記入した。


装備のスロットやマテリアについても最近技術面が上がり変化しただのなんだの、色々と教えてもらったが.....正直理解できそうになかったのでメッセでまとめを送ってもらった。もちろん見ても意味不明なので放置だ。フェアリーパンプキンの連中に装備自慢もかねて質問してみてもいいし、まぁ何とかなるだろう。

わたしは文字や数字での説明よりも実戦で体験した方が圧倒的に覚えやすいタイプなので、実戦第一のスタイルで理解していけばいい。


「さてさて.....夕鴉と夜鴉の情報を集めるために行くか───猫人族の里」


武器や防具を眺めるリラックスタイムを終え、クソ苦ココアを一気に飲み、すぐに水でクチ直しわたしはカフェを出た。

白薔薇竜の素材がメイン素材になっている事が納得いくほど、綺麗な武器【ブリュイヤール ロザ】と、対魔竜の短剣【ローユ】、防具は【ナイトメア】シリーズ。紛れもなく世界に1つしか存在しないわたし専用の防具に身を包み、進化した魔箒をフォンから取り出す。


「あ? 箒も名前決めなきゃダメなパターンか......アイツの素材を使わせてもらったしピョツジャでいいな。うん、ピョツジャがいいな!」


と、独り言にしては少々声が大きい気もしたが、しっくりくる名前を一発で出せて喜びは大きい。進化した魔箒【ピョツジャ】は青白の箒で、デザインも触り心地も良し。本気の乗り心地も良さそうだ。


「よっしゃ、飛ばしていくぜ」


魔女界ブランド【ストレーガウィッチ】のキャスケット帽子【ウィザード リィ】を被り直し、編み結んだ髪を左側へ寄せ、新箒【ピョツジャ】へ立ち乗りし、わたしは猫人族の里まで飛んだ。




箒の乗り心地は、最高によかった。




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