◇304 -エミリオさんの新装備-1



芸術の街 アルミナル。

常人のわたしにはとても理解できないデザインの街灯やベンチ、看板がある街。食べ物は不味くて住めたものじゃないが......、


「うおぉ!? テネシー!? あれテネシーじゃない!? エミリオ、私あとでビビの店いくから先行ってて!」


こんな街でもテンションが上がる人物もいるということがよくわかった。音楽家はキラキラした瞳で楽器屋へ吸い込まれて行ったので、わたしもビビ様の店を目指そう。

街を観察するようにゆっくり歩いていると、それなりに屋台も増えていた。考えてみるとここ最近拠点になっているバリアリバルでさえもわたしは観察したり観光したりした事ない。必要な場所にしかいかない、と言えばいいのか.....そんな感じなので今アルミナルを観察ウォークしてみて新鮮な気持ちになっている。

サイケペイントの屋台や不味そうな蛍光色のパンを並べるパン屋.....やっぱりこの街に住むのは無理だ。とアルミナルの驚異を再確認した所で、色々とツッコミ所が満載なペイントや置物がある店───鍛冶屋ビビへ到着。開かれた窓から煙や熱が出てきているのを確認し、わたしはドアを開いた。鈴のような音が響き、いつもの挨拶「コマンタレブー」が届く。


「よぉビビ様、ララは?」


「奥にいるよー」


ビビはまだ火がつけられていないタバコを加えたままララがいる奥の部屋───作業場へ行った。わたしは適当に座り、ふたりの帰還を数十秒、ドキドキした気持ちで待っていると、ついに。


「来たね来たねー。完成してるよ、防具!」


「武器もバッチリだよ」


ついにきた! わたし専用の、わたしだけの、最強装備が! ついに!


「はよ! はよぉぉ!」


武器はどんな形状だ!? 防具のデザインは!? 言葉だけだったから毎晩毎晩妄想してたんだよ! はよ、はよぉぉ!


「んじゃ、最初は私が作った防具からね───どうぞ!」


木製のマネキンが奥からゆっくり運ばれ、わたしの前に到着。そのマネキンに装備されているのが、噂の防具。


「.......!!」


濃紺色のジャケットは金色で縁取られていて、魔女界の夜空と星や月を思い出す。白のウエストコートに黒のブラウス、ターコイズブルーのショートパンツは動きやすそうだ。そして黒のタイツ。防具という言葉よりも、服という言葉が似合うデザイン。ララ産の防具デザインはわたしの妄想を簡単に越えてきた。


「ぼーっと見てないで、装備してみ? ほらフォン出して」


「あ、うん」


言われるがままわたしはフォンを取り出し、ララへ一度視線を送った。ララが笑顔で頷いたのを合図にわたしはフォンを防具へ向ける。すると防具は一式綺麗に消え、わたしのフォンポーチへ収納される。必須行動ではないが、生産品を受けとる際はトレードにも似た受け取り方をした方が素早く安全。フォンポーチに入った瞬間にこの防具はわたしの物───わたしの所有物、所有権がわたしになる。ワクワクドキドキしながら装備リストをスクロールすると固有名が空欄の装備が現れる。


「名前ないのあるでしょ? それがさっきの防具で、名前はエミリオが決めてね。1度しか入力出来ないうえにポーチに入れて3時間以内だから、気を付けてね」


「あ? なに名前自分で決めんの!? しかも3時間以内とか.....名前入れなかったらどーなんの?」


「次名前を決めるチャンスがくるまで空欄のままだよ。END品になったら一生そのままだから注意してね。武器も同じね」


これは予想外すぎる。本来武具には元々名前がある。買った武具も貰った武具もドロップ品も、アイテムにも名前がある。以前生産した装備も生産完了時には名前があったハズ。ならなぜ今回はない? どゆこと?


「えーっと、エミリオさん。理解出来るかわからないけどビビが説明しようか?」


頭の中のクエスチョンが具現化していたのか、ビビ様はすぐにわたしへ手を差しのべてくれたので全力で掴み、


「わたしでも理解出来るようお願いします先生」


防具を装備するのを後にした。ララはこのタイミングでほっとするホットココアを差し出してくれる天才ぶりを発揮するも、今わたしの脳はビビ様の言葉を拾う体制なので眼で礼を言いココアを受け取る。


そして───.....数十分後、説明は終了した。

短いようで長い数十分の説明でわたしはある程度理解出来た。わかりやすい例えなどを折り込み説明してくれたビビ様に感謝しつつ、再確認するように質問する。


「あーっと、今わたしが受け取った防具、これから受け取る武器はわたし専用の最強装備のベース、土台となる武具って事?」


「うん。ビビは最強装備っていうチープな響きが好きなんだよね」


「ほ、ほう.....」


最強装備の土台ってなんだよ! てっきりこれで無敵のエミリオさんが完成すると思ってたのに! いや確かに作るって話でたときそんな事言ってた気もしてきたけど.....でも、でも、はぁ。


「名前がないのは未確認武器、初って事だからで、ドロップ品とかは謎に名前がつけられているって事ね?」


「そう、ドロップ品に至ってはモンスターのマナが銘々してるとか何とかって話題も一時期あったなぁー」


今度はララが答えてくれた。

ドロップ品には確かに名前がある。装備も素材もフォンに入った時点で名前がある。今回わたしが依頼した武具は、


「ビビ様の能力、ツリーを見る能力でも名前が無かったと.....?」


「うん。生産は出来るかもって感じだったからビビの能力で先に素材確認しても成功率70%程度だと思うから......本当に初めて生まれた武具で、使い手を選ぶ癖のあるものだね」


「初物だから名前とかも自分で決める。鍛冶屋的には嬉しい事だけど、依頼あっての生産ってパターンだから依頼者に名前を任せる感じかな?」


なるほど.....初か、初ね。悪くない。


「その武具に適応できる素材を見抜いて、強化しつつ洗練して本当に自分に合う文字通り最強を作るのが、一流冒険者だね。頑張れエミリオさん」


「一流.....かっけーな!」


「エミリオと同期の冒険者とかも同じような道通るし、先輩冒険者とかは既に終わってる人もいるかな。完全に完成した武具は破損しても修理して使い続けたりする。修理してでも使うって事は、それだけ自分に合っててそれ以上はないって事かな。ちなみに、破損状態にもよるけど修理の方が生産より高く付く場合あるから、こまめにメンテしようね」


「修理.....って事はこれから先ずっとお世話になる装備って事か......よし、装備してみるぜ」


この先ずっとお世話になる相棒とも言える装備だ。最初は防具。装備してみて何かしっくり来ないなんて事のないように、違和感を覚えた部分はララへ伝えた方がいいな。その違和感も装備してみない事には感じられないので取り合えず無銘状態で装備だ。

最近知ったフォンの装備機能で便利な機能がある。それがリストチェンジだ。予めリスト登録してある装備にワンタッチで変更出来る便利機能。最近知ったというより、最近まで無かった機能だろうか。それを使ってみる事に。

無銘装備をリストに登録し、リストチェンジを使う。するとわたしの全身をマナ粒子が包み、一瞬で装備一式が変更された。まるで魔法のように。


「おぉ、似合う似合う」


「おぉ~いい感じだね」


と、新装備に身を包むわたしを見てふたりは感想を。自分でも見てみたいのですぐに鏡の前へ移動し、ガン見する。


「おぉ! 強そう!」


魔女界の空の色に似た濃紺色で金縁のジャケットと白のウエストコートがいい感じ。タイツで露出度もカットされているので、箒で思い切り飛び回れる。装備した所、想像以上にしっくりきて、何より軽い。

以前の防具【シャドーシリーズ】よりも軽く、着心地も最高だ。


「上衣───上着はウエストが入っていて見た目のスタイリッシュ感を出してる。ジャケットは一見重そうに見えるけど軽いでしょ? 裾部分は燕尾服風というか手品師風のが似合うと思ったんだ。魔術師って顔してないし。ベルトは赤レンガ色でポーチ類の位置は───」


「ララ、エミリオは全く聞いてないよ」


熱心に語っているララには悪いが、今は何も耳に入ってこない。これがわたし専用の装備.....わたしだけの。


「エミリオ、どうせなら一緒に武器も装備してみなよ」


「それがいい! 武具を装備して、説明とか終わってから名前決めればいいさ。武器も防具も凄いよー!」




この後、わたしは武器に心を踊らせ、武具の詳細でわからない点などを質問しつつ、鍛冶屋の拘り部分にも耳を傾けた。




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